第146話 ◆家出した女神様
◆家出した女神様
神様がセレーナーの事をあちこち必死に探している頃、セレーナーは東京の街をうろうろしていた。
何故、女神の力を使ってミキのところへ直接やってこないかと言えば、ついさっきまで会っていたのだし、実は母親に会うためだけに天上界を抜け出したわけではないからだった。
天上界は若い女神にとって退屈過ぎる世界だったのだ。
何しろ最近誕生した神様は、ミキの命を救うために止むを得ずちょめちょめした結果、生まれたセレーナーくらいで、後はみんな何千年以上も昔から存在している神々のため、何を話してもセレーナーは全然面白くない。
若者は若者同士でワイワイ騒ぎたいということである。
地上界を覗いてみれば、沢山の人間が溢れ、活気も満ち溢れているではないか。
そもそもミキのDNAを引き継いでいるルナが天上界でじっとしていられるわけなどあるはずがなかったのである。
幸い天上界である期間過ごしたことでルナは、もう人間になってしまうようなこともなく、女神様としても安心して冒険の旅に出られたわけである。
何しろ、力が使えると言うことは、何も知らない女神が一人で生活していくためには強い味方となる。
ルナは東京駅の周辺を歩いていた。
地上に降り立つと直ぐにショーウインドウを覗き、流行の服をコピーする。
髪型も服装に合わせて瞬時に変化させる。 全く羨ましい力である。
ルナは、父親に見つからないよう、自分の気配をすっかり消してしまっていた。
これで、母親であるミキの所に迂闊に近づかなければ、絶対に見つかるようなことは無い。
ルナは、もう天上界に戻るつもりは無かった。
月の女神とはいえ、何代もの月の女神として生まれてきた女神達が既にいるし、その女神達が小姑のようにうるさいのだ。
できれば、楽しそうなこの地上で、母のように人間として生きていきたい。
「随分大きな建物がいっぱいあるわ。 いったい神殿の何倍の高さがあるのかしら?」
ルナは、東京駅の周辺でも比較的最近できた新丸ビルに行ってみる事にした。
ビルの中に入るとルナにとっては珍しいものだらけであった。
「何あれ? 階段が動いてる~ おもしろ~い」
そういえば東の神殿は物凄く長い廊下なのに空港に設置されている動く歩道のような物も無く、みんな瞬間移動などもせずにテクテク歩いていた。
やはり天上界は時間がゆっくり流れているし、人間のように寿命がないから、あくせくしていないのだろう。
ルナはエスカレーターが気に入って、一人で上ったり下ったりしている。
人間の姿をしているとはいえ女神様であり、ブランド品の最新ファッションをコピーし身につけているので注目度は抜群である。
また、ミキのDNAが混ざっているので、女神様としては微妙なバランスでもあり、神々しいだけではなく可愛らしさがプラスされているため格段に目立つのだ。
エスカレーターですれ違う人は、みんな振り返って見ている。
「あの娘、カワイイね。 どっかのモデルさんなのかな?」
「でも、Can○anとか、an○n、Vi○iとかでは見たことが無いよね」
グゥーー
昇りエスカレーターで急にルナのお腹が鳴る。 思わず赤面し恥ずかしくてうつむく。
ルナはお腹がペコペコだった。 天上界から抜け出すとき、何も食べてこなかったからだ。
新丸ビルの中は、良い香りが漂っている。
この甘い香りは何だろう?
匂いに誘われて、ルナはケーキ屋の前に立っていた。
そこには、色取り取りのスイーツがショーケースの中に処狭しと並べられている。
ルナは天上界でも、こんなにおいしそうなものは見たことが無かった。
食いしん坊のミキのDNAをもらったルナは、ある意味可哀そうである。
なぜって? だって食いしん坊の女神様って・・・
さて、ルナがスイーツに見とれていると
「いらっしゃいませ。 お決まりでしたらどうぞ♪」
店員が声をかけてくる。
「あっ、わたし・・・ 見てるだけで・・・」
再びお腹が鳴り出しそうだったので、ルナは大慌てで退散することにした。
「確かあれを食べるのには、お金ってものが必要なのよね」
でも、いくら神様でも、自分のために力を使ってお金を手にしたら消滅するか悪魔として生きていかなければならない。
神族は自分で食べ物を合成する力も持っているのだが、ルナにはまだその力は無い。
空腹を満たすためには、正当な手段でお金を手に入れるか、天上界に帰るしかないのだ。
そこでルナは迷わず、あっさりと母親のミキのところに行くことにした。
ミキの家で生まれたルナは、瞬間移動でミキの家には行くことができる。
もし父親と出くわすとまずいのだが、なにしろ空腹には勝てなかった。
もうじき、お腹が空きすぎて動けなくなってしまう。
エイッ
迷わず、ルナは瞬時に大沢家のリビングに移動した。
「だ、だれだ? アンタ?」
「きゃっ」
男の大きな声にルナはビックリし、小さな悲鳴を上げた。
次回、「鋭二の気持ち(その1)」へ続く
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