第133話 ◆神様のからくり(その1)
◆神様のからくり(その1)
昨日、宅配便のお兄さんにピンクのナース服で対応してしまったミキであったが、今日は神様の秘書?の陽子に事情を聴こうと昨日のうちにアポを取っていた。
鋭二は、あれから姿を現していない。
ただメールで、「急用でアメリカに行くため、しばらく帰れません」と連絡があっただけである。
ただの逃避行ではないのか甚だ疑わしいものである。
2日間もかけて大量のコスプレ写真を撮りまくったため、着替えも半端でなく、ほとんど半裸で2日間を過ごしたようなもので、ミキはすっかり体調を崩してしまった。
だから今日は、朝から少々熱っぽいのだ。
外出する時は、いつも変装のためマスクをかけるのだが、今日は本当にマスクをしないと鼻水が垂れてきそうだった。
ズズゥーー スンスン
ブワァーックション
みどりさん(サキ)からも散々言われ続けたが、ミキはクシャミだけは、ついに女の子っぽくならなかった。
エレベーターを降りて地下の駐車場に停めてあるレガシィの前まで来たが、何かいつもと様子が違う。
「なんだろう、この違和感は?」
ここのところ忙しかったり、チャリを使ったりしていたので、しばらくレガシィには乗っていなかった。
見た目は、なんら変わったところは無いようだが・・・
ドアを開けて乗り込むと、その違和感はいっそう募る。
「う~ん。 何か変な気がするなぁ・・・」
このとき、ミキは風邪を引きかけていて鼻が利かなかったので、気付かなかったのだが、実は風邪を引いていなければ新車の匂いがして、直ぐに違和感の原因がはっきりしたはずだった。
そう、このレガシィは、いままで乗っていたものと同じタイプ、同グレードの新古車だったのだ。
ミキ達が乗っているレガシィは最新機種の一つ前の型だった。
走り出すといよいよ、違和感が大きく膨らむ。
「吹けが悪いぞ? レガシィも風邪か? 変だなぁ・・・」
必然的に目線がタコメータに行く。
!!
視覚にインパネ全体が入ったとき、ミキはオドメーターの数値が異様に小さいのに気付く。
「えっ? 38km? えっ?」
ハザードを点滅させクルマを路肩に停め、シートにもたれかかって目を瞑って考える。
『なぜ、38kmなんだ?・・・』
ミキは3分ほど考えて結論を出した。
『これは、あたしのレガシィじゃない! でも、あたしが持っているキーでドアも開いたしエンジンもかかったしなぁ・・・う~ん・・・』
ミキはまた悩み始める。
実は、鋭二がミキのキーホルダーのキーをそっと交換しておいたのを、ミキは後から聞かされる。
『でぇーーー! わけがわかんねぇーーー!!』
んで、ミキは例によって考えるのをやめた。
ハザードを止め、右にウインカーを出して、クルマを発進させる。
ボッボッボッ ブロォロォロォロォーーー
「ちぇっ、やっぱり調子くるうなぁ・・・前のは内緒でチューンアップしてあったからかなぁ。 あとでエンジンルームを見てみれば、はっきりするか」
クルマの中でブツブツと独り言をいっているうちに、陽子と待ち合わせしている都内にある大沢グループ系列のホテルに着いた。
玄関で、ドアマンにキーを預けてロビーに入る。
約束の時間より少し早く着いたので、陽子の姿はまだ見えない。
ミキは、ロビーの奥にあるカフェで、カフェオレを飲みながら陽子を待つことにした。
ちょうどカップが空になった時、入口から手をひらひらとミキに振りながら陽子が近づいてきた。
今日の陽子は、サングラス、ダメージジーンズに薄手の黒の皮ジャンとちょっと変な格好だった。
皮ジャンの背中には派手な刺繍が入っていて、まるで暴走族のようだ。
少なくてもホテルのロビーにはマッチしない格好である。
皮ジャンの下には胸元が大きく開いた真っ赤なシャツを着ているため、上半身だけ見るとドロ○ジョ様のようにも見える。
陽子は、ミキの隣に腰を掛けるとサングラスを取って、ニカッと笑った。
ミキは前から薄々気付いていたが、どうも陽子は二面性を持っているようだ。
「ミキさん。 お久しぶり」
「どうも。 今日は急にすみませんでした」
「いいえ。 最近仕事の方は暇なんですよ。 できればもう一度、千織ちゃんに暴れて欲しいくらい」
「じょ、冗談じゃないですよ。 陽子さん勘弁してくださいよ~」
「そうね。 今日ミキさんが、わたしに聞きたいことは、何だかわかってるの。 だから早く話しを済ませたら、その後ちょっと付き合って欲しいのよ」
「なんだ、あたしが聞きたい事、わかってるんですか?」
「ええ。 クルマの事でしょ?」
「クルマ?」
「あらやだ。 違ったかしら?」
「クルマって、ひょとしてレガシィ? ですか?」
「そう。 ごめんなさい。 前のレガシィはわたしが大破させてしまって・・・ いろいろチューンアップしてあったから、思い入れがあったでしょ?」
「・・・ちょっ、ちょっと待ってください。 レガシィを大破させたんですか? 陽子さんが? うちのレガシィを?」
ミキは予想していなかった展開に頭がついていかない。
「あらっ、本当に知らなかったの?」
「ええ・・あの子には、しばらく乗っていなかったから・・・ 今日、オドメータを見て新しいクルマだって気がついて・・・でも何で?」
「実は・・わたしのクルマの調子が悪くて修理に出したんだけど、その時に代車を借りなかったの。 仕事も暇だったし大丈夫だと思ったんだけど、急に山奥の村で悪霊にとり憑かれた人が出てね。 夜遅くの緊急事態で困っていたところに、秀一さんから電話がかかって来て・・」
「秀一お義兄さんからですか?」
「ええ。 千織ちゃんの事で」
「あぁ・・」
「それで、クルマなら鋭二さんに貸してもらえばって。 それで、あのクルマなら四駆だし、前にも運転させてもらった事があったし。 で、結局甘えてしまったのだけれど・・・みんな、わたしが悪いの」
「う~ん。 うちのクルマを借りたところまでは、OKです。 わかりました」
「そうね。 で、大破しちゃったのよ~!」
「い、いきなりかいっ!」
「あ゛~ やっぱりこの件は口で説明するのは難しいから。 ミキさん、やっぱり付き合って!」
「な、なんか嫌な予感がするんですけど・・」
「ミキさんって、ひょっとしたら霊感がある方? わたしの助手をやってみない? お給料は安いけど」
「いえ、あたし、一応芸能人ですし。 ご遠慮させていただきます」
「そお、残念だわ。 それじゃ、行きましょうか?」
「えっ? って、わけわからないしぃ」
こうして、ミキは半ば強制的に陽子に付き合う羽目になったのだった。
次回、「神様のからくり(その2)」へ続く
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