第109話 ■まっ、間違えましたぁ
■まっ、間違えましたぁ
薄暗い階段を下りて辿り着いた地下2階の正面には、これまた薄汚く錆びの浮いた鉄のドアが、でんとミキと清水さんの二人の行方を阻んでいた。
「し、清水さん。 やっぱり警察を呼ぼうよ」
ミキはへっぴり腰になって、隣に立っている清水さんを見ている。
その目には、うっすら涙さえ溜まっているようだ。
「大丈夫ですよ! わたくしは格闘家ですよ。 男の二人や三人は瞬殺です。 大船に乗った気持ちでいてください」
「でも・・・」
「グズグズしてたら千織さんが、危ないじゃないですか! さぁ、それじゃ、参りますわよ!」
「あぁっ!」
ミキが叫ぶと同時に、清水さんがドアを力いっぱい押して、中に突入した。
仕方が無いので、ミキも後に続く。
「ちお・・・り・・」
ドアを開け、勢いよく部屋の中に入ったハズの清水さんが急に立ち止まる。
「きゃうん」
ミキは、その背中に顔をぶっつけて止まる。
「ちょっと! 清水さん。 急に止まらないでよ~」
ミキは鼻を擦りながら、目の前の清水さんを見る。
その清水さんの両手がゆっくりとスローモーションのように上がり始める。
「えっ? 何? それって、新しい必殺技の構え?」
ミキが清水さんの背中越しに聞くが、清水さんは黙ったままである。
清水さんの手は、ちょうど降参した時の手の恰好に、よく似たポーズでピタリと止まった。
「清水さんってば、戦う前に負けちゃったりして? アハッ」
ミキがおどけて清水さんの背中の右から顔を覗かすと、ミキもそのまま固まった。
なんと、そこには明らかにそのスジの人とわかるような顔をした男達が、ピストルのようなものを構え、二人に狙いを定めて立っていたのだ。
そう、ミキと清水さんは、鋭二達が入っていった千織のいるビルの隣のビルの地下に間違って来てしまったのだった。
そこは、なんと○○組のアジトだったのだ。
このアジトでは、男達が組事務所では、おおっぴらに出来ない事をしているに違いなかった。
そして男達は、清水さんが瞬殺できない人数、つまり6人も居たのだった。
「あの~、 すみません。 あたし達、開けるドアを間違えちゃいましたぁ」
ミキは、おもいっきり「てへっ」顔を作って、後ろ向きに後ずさり始めたが。
「ごぉらあ~ オイ~ッ! オメェ~達。 生きてココから出られると思ってんのかぁ!! ああぁん?」
男達の一人が大きな声で凄んで言うと、ミキは小さく声をもらす。
「あっ、 あぅ~。 ち・・ちびった」
次の瞬間、男の一人がミキ達の後ろに、すばやくまわり込むと錆びだらけのドアをピタリと閉め、しんばり棒を噛まし、更に南京錠までかけてしまった。
「はわわ~ し、清水さん。 どうしよ~」
「慌てても仕方ありませんね。 きちんと説明してわかっていただくしか方法は無いように思えます」
「で、でも、あの人達に日本語が通じるの?」
「迂闊でした。 今更ですが、ミキさまの言うように警察を呼んでおけばよかったと後悔しています」
清水さんは、そう言った後、唇を噛んでしばらくの間、目を瞑った。
このアジトは地下2階にあり、且つ入口は交通量の多い道路に面している。
銃声の1発や2発なら、誰も気付かないだろう。
もうダメだ。
生まれてから今までの中で最大のピンチだとミキは初めて思った。
男達の中で一番強面の男が、静かにミキ達に近づいてきた。
ミキは、清水さんの後ろに隠れるように身を寄せる。
清水さんはピクリとも動かない。
敢えて抵抗する方がミキを危険にさらすことになると判断したのであろう。
男は、清水さんの顔から足先までを舐めまわすように見ると、いきなり物凄い勢いで、鳩尾みぞおちにパンチを繰り出した。
グッ
清水さんは、そのまま気を失って倒れてしまった。
「さすが、元チャンピオン。 落ちぶれてもパンチ力は、衰えていないようだな」
ボス格の男が、にやにやしながらチャンピオンと呼ばれた男の方に声をかける。
「ふん。 女にしては、もう少し手ごたえがありそうなオーラがあったと思ったが、俺もヤキが回ったもんさ。 無抵抗な女を殴っちまった」
「そっちの姉ちゃんは、びびって何もできねえようだな。 二人とも、薬漬けにして売り飛ばしちめぇばいいだろう。 売れなければ海に沈めりゃいいだけのことだ。 オイッ、俺たちの仕事が済むまで、そこの柱に縛り付けておけや!」
「うっす!」
ミキは、その言葉を聞いて、魂が抜けたようになり、ただじっとおとなしく柱に縛りつけられるしかなかった。
清水さんは、2mほど離れたもう一本の柱に縛りつけられている。
相変わらず気を失ったままのようだ。
あの自称格闘家、頼みの綱の清水さんが一撃でやられてしまうなんて、なんて凄いやつなんだ。
所詮、清水さんは女性で、腹筋が割れるようなマッチョな体ではない。
俊敏性は高いが、体重が軽い分、破壊力は男より遥かに劣ってしまうのは止むを得ない。
男の体から女になったミキには、それは痛いほどに分かるのだった。
さて、しばらくすると男達は、全員がアジトから出て行ってしまった。
なにか大掛かりな抗争でもあるのだろうか?
ただし、出かける時に電気を消していったので、地下室は真っ暗になり、一寸先も見えない。
「清水さん。 清水さん」
ミキが大きな声で呼びかけるが返事が無い。
まだ気を失ったままなのだろうか・・・
あまり長いと内臓にダメージを受けたりしていないか、心配になってくる。
人は真っ暗闇の中に長時間居ることには耐えられない。
目を見開いても何も見えない事に、物凄い恐怖を感じるのだ。
ミキの目からは、恐怖で涙がボロボロと流れ出している。
千織の恐怖からやっと開放され、その千織を助けようと勇んで飛び出してきたのに・・・何故こんな事になってしまったのだろう。
清水さんも、あたしを庇って気を失ったままだ。
ミキは真っ暗闇の中で、大声で叫び出したい気持ちで一杯だった。
果たして、ミキと清水さんの運命は・・・
次回 「千織、全開!!(前編)」へ続く
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