第104話 ■千織のしたいこと(前編)
■千織のしたいこと(前編)
「何が苦手って設定したんだい?」
「それは・・・ 知らない方がいいだろう」
「なんだよ。 もったいぶって」
「この設定が、ほんとうに最後のストッパーになるかも知れないしな」
意味深げな秀一の言葉は気になったが、鋭ニはとうとう千織ロボットが苦手なものを聞き出すことができなかった。
・・・
・・
・
大沢家の自家用ジェットは、快適なフライトを終え、無事に東京へ着陸した。
ただし自家用ジェットが羽田空港を利用するには、7日前までにフライトプランを出さなければならないのが唯一不便なところだ。
「ああ、久々の日本だな。 寿司とか鰻とかを思いっきり腹いっぱい食べたいな」
空港の中にある、レストラン街を眺めながら秀一は、食べ物のことで頭がいっぱいである。
「あはは、相変わらず子供みたいだな。 兄貴は!」
「そうそう、鋭ニ。 小学生のころ二人だけで寿司屋にいったこと覚えているか?」
「もちろん。 お金を持っていないのに、大トロとか鮑とか沢山食ったよな。 そんで、食い逃げするのかって、寿司屋の大将に目いっぱい怒られて・・」
「あの時は、親父にも怒られたけど、寿司屋の主人も俺たちが大沢の家の息子だって後でわかって、顔が青くなったらしいぜ」
「でも、悪いのは俺たちだったんだから・・・」
「家でパーティがある時、半端じゃないほど寿司を注文してたからなぁ・・・ 月に百万とか注文してたんじゃないのか?」
「すげぇな。 いったい誰がそんなに食べてたんだろ」
「政財界の大物とかサ!」
「まっ、そうだろうけどね」
「その中に、松野原って言う人物もいたらしいぜ」
「えっ、 ほんとうなの?」
「お前に嘘を言っても仕方がないじゃないか」
「まぁ、そうだけど・・」
空港で軽く?鰻と寿司とラーメンを食べた秀一達は、空港裏手の航空機の格納庫に千織ロボットを迎えに行く。
格納庫の前に停車している黒塗りのリムジンの後部座席に、千織は乗せられていた。
運転は未来ミクがするのだろう。 未来は運転席に座って待っていた。
「よしっ、それじゃ鋭ニ。 お前の家の住所を教えろ!」
「えっ、東京都・・・・」
すかさず未来がカーナビの電源スイッチを入れる。
「お帰りなさいませご主人様!!」 ←やった萌えナビ 「ネムルバカ」仕様
「今日はどちらに行かれるですかぁ?」
「ご主人様と一緒ならナビ子はどこでも幸せですぅ~」
「道案内はまかせてくださいネ」
鋭ニが自宅の住所を言うと、直ぐに未来がナビに目的地を入力した。
「かしこまりましたぁ!!」
ナビ子の指示に従って、未来はクルマを走らせる。
「はい、そこをこっちです。 ご主人様ーーー!!」
でも、未来の方も高性能ナビを搭載しているので、鯨○ルカのように混乱はしないのだ。
「はわわ~~ナビ子間違えちゃいました~~」
「ナビ子ちゃん大丈夫です。 こっちに曲がらず、ちゃんと直進しましたから」
未来は、着実に目的地へ向けクルマを走らせる。
「秀一、目的地のビルが見えてきましたよ」
未来が言うのと同時にナビからも音声がでる。
「はわわ~ せっかくナビ子が言おうとしてたの先に言われてしまいましたぁ~」
最近の音声識別装置はよく出来ているものである。
さて、クルマの中は相変わらずナビ子が騒がしいが、秀一と鋭ニは刻々と近づく、その瞬間に向け緊張が高まってくる。
「いよいよ、霊体とボディのご対面ってわけだね」
鋭ニが秀一の顔をジット見詰めながら、静かに語りかける。
「千織は、はたしてこのボディを気に入ってくれるかな?」
秀一は鋭ニに問いかけるように聞くが、自信はあるぞという雰囲気を漂わせている。
「そこは何ともいえないけど。 林太郎と並んだら、正に美男・美女のカップルだね」
鋭ニは、率直な感想を言う。
「それを言うなら、お前とミキちゃんだって、そうだろ」
「いや、ミキは芸能人だけど、俺はただの一般人さ」
「いや~ 鋭ニはお袋のDNAを多くもらったから結構二枚目だと思うよ。 僕は父親に似て損をしたと思ってるけどね」
そう言って、秀一は大きな声で笑った。
「もうすぐ着きますよ」
いままでおとなしく運転をしていた未来が、ナビ子より先に到着を告げる。
「いよいよだな」
「うん。 少しドキドキしてきたよ」
鋭ニは首スジを摩りながら、千織ロボットを一瞥し、これから起きる奇跡を思い浮かべていた。
次回 「千織がしたい事」へ続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます