第103話 ■秀一の提案

■秀一の提案


鋭ニは秀一に予めメールで、今回の一連の騒動を説明しておいた。

秀一は霊の存在に興味を示していたので、今回も積極的に協力することを約束してくれたのだった。


ミキと鋭ニが秀一の研究所に着くと、さっそく大きなサプライズが待っていた。

なんと、秀一と未来ミクが出迎えてくれたのだが、今回はもう一人、そう、千織の姿をしたロボットが、ふたりの隣に並んで微笑んでいたのだ。

「わぉ、鋭ニさん。 透き通っていない千織だぞ!」

ミキは、だいぶ興奮した様子で鋭ニの袖を引っ張っている。

大きな目を見開いて千織を見てはいるものの、ミキは決して近づこうとしない。

おそらく、まだ恐怖心が拭い切れていないのだろう。


「ミキさん。 ここに居る千織の姿をしたロボットは、実は前の未来ミクを流用したものじゃないんですよ」

秀一が、ゆっくり歩み寄りながらミキに話し掛ける。

「そ、そうなんですか。 あたしはてっきり・・・」

ミキは予想がハズレて、少し驚いた様子だ。

「眠っている未来ミクも僕にとっては、とても大切な存在です。 だから、ここにいるのは、現在の未来を開発したときの予備機のボディがベースになっています。 でも、さすがにマスク部分までは、作り込まなかったので千織ちゃん用には、ちょうど良かったかも知れません。 ただし全体のパーツを一回り小さめなものに交換しましたが・・あと、メインCPUは霊体と融合した場合、直接制御が効くよう、特別に改造してあります。 ただし、人を傷つけるような行為や、自分自身の破壊などの行動は大きな制約を組み込みました」

「ああ、ロボット3原則みたいなやつですね」

ミキは、昔読んだアシモフの小説を思い出す。

「少し違いますが、基本はそんなようなものです。 今は、自我回路が起動していますが、霊体側からオフすることが可能なようになっているので、後は実際に使ってみて、微調整を行い完成となります」

「でも兄貴、肝心の千織はニューヨークには居ないけど」

鋭ニは名前のように鋭い突っ込みをいれる。


「うん。 わかってる。 今度は僕と未来が日本に行くよ。 この千織と一緒にね」

秀一は未来ミクと千織の肩に手をまわし、軽く自分の方へ引き寄せた。

「そうか。 それもいいね。 親父も会いたがってると思うよ」

「ああ、そろそろ会社の方も本格的に考えるように言われているしな」

・・・

・・

日本への出発は、千織の細部の仕上げに研究所の設備がどうしても必要だったのでインターフェイス試験が完了した3日後になった。

ミキは仕事のスケジュールもあり、1泊で帰らなければならず、一人先に東京へ向かったいた。

・・

「兄貴とふたりでこのジェット機に乗る日が来るなんて、思ってもみなかったよ」

「ああ、そうだな。 僕もだ」

言うまでもなく自家用ジェット機には、大沢兄弟の他に、未来ミクと千織ロボットも搭乗している。

ただし千織ロボットは、起動した状態ではない。


「問題は霊体が、このロボットと同期を取る事が本当にできるかにかかっている」

秀一は、”目を閉じて向かいの席に座っている千織”を見詰めながら、難しい顔をして鋭ニに本音を語る。

「でも、いったいどんな仕掛けになっているんだか、俺には、何度理屈を聞いてもわからないよ」

「そうだな。 実際のところ僕にも自信は無いんだ。 半分以上は推測で作った回路だからな」

「そ、そんな・・・ 大丈夫なのかい?」

「だから、若しものことを考えて、安全スイッチを幾つか仕掛けてある」

「ミキが言っていたロボット3原則ってヤツかい?」

「そうだな。 一つは予期せぬ結果・・いわゆる本体側の暴走。 もう一つは、千織の暴走・・こっちは精神的なものだ。 言ってる事が、わかるか鋭ニ?」

「ああ。 わかるよ。  俺は後者の方が怖いけどね。 ハードは未来さんの実績があるけど、ソフトは未知の世界だもんなぁ・・」

「そうだな・・霊体とのインターフェイス回路なんて誰だって考えたこともないはずだよ。 もしも成功したって、ノーベ○賞をもらえるわけでもないし」


「ところで、日本に着いてからの段取りは、いったいどうなってるんだい?」

「まずは、この千織をご本人が気に入ってくれるかだな」

秀一は、目を閉じて座っている千織ロボットの髪を愛しむように優しく撫でながら言った。

「俺には、本人以外の何者にも見えないくらい精巧にできているように思えるけどね」

「そうか? それなら次のステップは、うまくシンクロ出来るかだ。 ここが最大の難関だな! ハードとソフトの相性の問題もあるからなぁ・・・」

「パソコンみたいだな!」

「うん。 例えとしては、うまく的を射ていると思うよ」

「そうかい? それじゃ、うまくシンクロできたとしてその次にも、何か問題があるっていうのかい?」

「そこが、一番悩んでいるところさ」

「???」

「わからないか。 鋭ニ?」

「さっぱり見当がつかないよ」

「だからなっ! 千織が人間ロボットの体を手に入れて、何がしたいかって事サ! おまえたちは、千織がこの世で人間として、何をやりたいかを聞いていない! そうだろ?」

「そう言えば、そんな事は考えてもみなかったな・・・」

「だろっ?」

「だから念のために、あのボディは人間の女の子並みのパワーしか出ないようにしてあるんだ。 もちろんソフト上で制御しているだけだけど」

「なるほど」

「後は、個性として苦手なものを幾つか設定してある」

「それって?」

「例えば、ゴキブリや毛虫みたいなものさ」

「ふ~ん。 そっちの方は、兄貴のささやかな楽しみって感じがするけど」

「ははは。 わかるか?」

「やっぱりそうか・・  っで、何が苦手って設定したんだい?」

「教えて欲しいか?」

「気にはなるね」

「それは・・・ 知らない方がいいだろう」

「なんだよ。 もったいぶって」

「この設定が、ほんとうに最後のストッパーになるかも知れないしな」


はてさて、千織ロボットの苦手って、いったい・・・


次回 「千織のしたいこと」へ続く

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