第71話 ◆ゲートでピンポ~ン

◆ゲートでピンポ~ン


「これからわたし、ちょっとアメリカに行ってこようと思うんです」

未来ミクが真剣なまなざしで言う。

「あぁ、そうなの・・ちょっとアメリカにね・・・んっ? ア、アメリカーーー!!」

「やはり、ダメでしょうか・・」

「ダメって・・・【ミク】ちゃん、秀一さんに逢いたいの?」

「はい・・」

思わぬミキの反応に未来ミクは消え入りそうな声で答える。


「それなら、これからわたしが、お義兄さんに電話してあげようか」

「秀一に?」

「そうよ」

そう言うとミキは早速、秀一のテレフォンナンバーを携帯の電話帳から選択した。

ピッ


「待って!」

突然、未来ミクがミキの手の中にある携帯のキャンセルボタンを押す。

「えっ?・・・ど、どうしたの【ミク】ちゃん」

「ごめんなさい・・電話じゃ、わたしの気持ちが上手く伝わらないと思ったんです」

「そんな事は無いと思うよ」

「いいえ。 電話じゃダメなんです。 わたしは、もう未来ミクになったから」

「何を言っているの? 【ミク】ちゃんはもとから【ミク】ちゃんじゃない」

「そうではないんです。 【ミク】では無く未来ミクなんです」

「う~ん。 やっぱり打ち所が悪かったのかなぁ・・・ どこか壊れちゃったのかも知れないね」

ミキはそう言いながら【ミク】を繁々と眺めまわす。


「わたし・・・どこも壊れていません」

一瞬、未来ミクは、遠くを見るような悲しそうな目をしたが、ミキはそれには気付かなかった。

「どこかの部品の調子が悪いんだったら、余計に早くお義兄さんへ連絡しないと」

「いいえ、わたしが直接逢って話しをしなければ、秀一にはわかりません」

「でも、【ミク】ちゃん。 フル充電でアメリカまで持つの?」

「飛行機に乗ったら、すぐに節電モードに切り替えて、タイマー起動にすれば何とかなると思います」

「ちょっと心配だなぁ・・ そうだ。 美奈子マネージャにスケジュールを調整してもらって、わたしが付いていってあげるよ」

「でも、ご主人様。 それでは申し訳ありません」

「いいって。 いいって。 いざって時は、変わりは何とかなるんだって」

ミキはどうやら、アヤを身代わりに使うようだ。

・・・

・・

さて、ここは成田空港。

12:00発、ニューヨーク行きのJL007便ご搭乗のお客様は、○番ゲートへ・・

搭乗アナウンスが流れる中、ミキと未来ミクが並んで歩いている。


ガラガラガラ

「ふぅ~。 予想以上の荷物になっちゃた」

キャスターの音を大きく鳴らしながら、サングラスをかけたミキとメイド服から淡いピンクのワンピースに着替えた未来ミクが長い通路をゲートへと向かって行く。


飛行機に乗るためには、まずは搭乗口にある金属探知機の付いたゲートをくぐらなければならない。

未来ミクボディの中には、金属探知機の機能を狂わせる(正確に言えば、金属を探知していないという状態。つまり電波や音波を跳ね返さず吸収する)装置が搭載されている。


「じゃあ、わたしが先に通るね」

ミキはそう言うと先にゲートをくぐった。

ピンポ~ン。

「ありゃ? 何で鳴るんだ?」

「ご主人様。 サングラスのフレーム!」

「あん? こんなんで鳴ったっけ? どりゃ、もう一度」

サングラスを荷物用のベルトコンベアに載せ、自分はゲートをくぐり直す。

・・・

今度はゲートは反応しない。

「ありっ? やっぱりコレか?」

ミキは首を傾げて、サングラスを手に取り、じっと見ていたが未来ミクの方を見ると、にっこり笑いながら、

「お~い。 次は【ミク】ちゃんの番だよ!」

と手を振りながら大きな声で言った。


いくら国際線とはいっても、人気アイドルがサングラスを取り、大きな声を出すなど目だった行動を取ってはいけない!

「んっ? 確かあれは・・・」

ほおぅら。 見つかっちゃった。

しかも、ミキ! あれは、いつかの杉山だぞ!


****************

さてさて、あの杉山記者に見つかってしまうとは、何と運の悪い二人なのだろう。


次回、「ありゃりゃ、ばれちゃった」へ続く

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