第54話 ◆怖い夢

◆怖い夢


クローン2号が培養タンクから出て覚醒した時、TV局の楽屋にいたミキとエミの二人にちょっとした変化が。

「んっ?!」

突然エミがびくっと体をのけぞらせた。

「あっ・・・」

ほぼ同時にミキも小さく声をあげる。


「お姉ちゃん・・・」

「エミも感じた?」

「うん」

「なんだろう。 今の感じ・・・」

「誰かに、触られたような気がしなかった?」

「わたしは、ちょっと違うかな。 なんか懐かしいっていうか・・・」


一方こちらクローン2号は、ようやく濡れた髪も乾き、閉鎖された研究所を出て近くの駅前にある商店街を歩いていた。

そしてある電器屋のショーウィンドウ越しに、大型液晶テレビに映し出されたティンカーベルの歌う姿をじっと見つめて呟いた。


「1号・・・見つけたわ。 でも何で宿敵のミキと一緒にいるの?」

次の瞬間、画面には、おいしそうな中華料理のコマーシャルが流れる。

グゥーーー

「お・・・お腹が減った (T-T) 」


ショーウィンドウに両手をついて、自分の体を支えていた2号だったが、商店街のお惣菜屋さんから漂ってくる、おいしそうな匂いに誘われてフラフラとその方向に歩き始めた。

「ちょっと、そこのお嬢さん。 夕飯のおかず? 今日は、ロースカツが安いよ!」

惣菜屋のオジサンが2号に声をかける。

「いえ・・・お金持っていないんで・・・」

ギュルルー

「なに? アンタお腹すいてるの?」

「は、はあ・・・」

2号の大きなお腹の鳴く音に思わずオジサンも同情したのだろう。

「よしっ! それじゃ、おじさん、これプレゼントしちゃおう。 だから次は沢山買ってよ」

そう言って、惣菜屋のオジサンは、紙にコロッケをひとつ包んで2号に渡した。


「あ、ありがとうございます」

2号は顔を赤くしながらお礼を言った。

6時半を過ぎ、もうあたりはかなり薄暗くなって来ている。

2号は熱々のコロッケをハグハグ食べながら、大沢ミキのマンションの方角へと向かった。


さて、緑山公園駅前から、ミキの住むマンションまでは、クルマでも25分はかかる距離である。

2号がマンションの近くに辿り着いたのは、夜11時近くになってからだった。

「わかる、わかるわ。 あなたが直ぐ近くにいるって事が・・・」

クローンが小さな声でつぶやく。


さてこちらは、ミキのマンション。 仕事も終わって、例のナースの制服に着替え、鋭ニに献身的な看護中であるが・・・

ピクッ

「あっ・・・」

「んっ? どうした、ミキ?」

「ううん・・・何でもない。 ちょっと誰かに呼ばれたような気がしただけ」

「おかしいな。 ヘルパーさん達は、10時頃に帰ったから誰もいないハズだけど」

「そうだね。 今日はちょっと変なんだ。 わたし・・・」

「ごめん。 僕の面倒まで見てもらってるから、きっと疲れが溜まってるんだよ」

「アハハ。 じゃあ、コレもう着なくっていいかな?」

そう言ってミキちゃんは、自分が着ているピンクのナース服を指差す。

「それはダメ!」

(-_-)┌

「でもミキも、今日は早く寝た方がいいよ」

「うん。 悪いけどそうするね」

パジャマに着替えて隣のベッドにもぐりこみ、手元のリモコンで部屋の明かりを消す。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

・・・

・・

その夜、ミキは夢を見てうなされた。

暗がりで、ワン・ツーや回し蹴りなどで襲われる夢だ。

まさしく先日、宮崎海岸の旅館でやられたエミの寝相の悪さの再現のようだった。

でもひとつ違っていたのは、その中の自分は滅多打ちにされ、死にそうになっているところだった。


う~ん・・・ た・・たすけて~ 死んじゃう~

「ミキ! ミキ! 大丈夫か?」

夢の中で、あと少しで死にそうになっていた時、遠くで鋭ニの声が聞こえてきた。

「鋭ニさん・・・た・・たすけて」

ハッ!!


「ミキ! 気が付いた?」

「え、鋭ニさん・・・」

鋭ニは骨折しているため、ベッドからミキに声をかけていたのだった。

「随分うなされてたよ。 怖い夢でも見た?」

「うん。 誰かに殴り殺される夢を見てたんだよ。 汗もびっしょりかいちゃった」

「そりゃーずいぶん大変な夢だったねー」

「うん。 もう、ぼこぼこだったぁ・・・ あれじゃ、夢でも死ぬよぉ」


「ごめん。 やっぱり俺はしばらく大沢の実家に厄介になる事にするよ」

「えっ? だ・・だいじょうぶだよ!」

「いや、明日さっそく実行だ! やっぱりミキも看護で疲れちゃってるんだよ」

「いいの? ナース服・・・」

「うっ・・・ が、がまんする」

「鋭ニさん・・・」


果たしてミキは、鋭ニがいなくて、迫りつつあるこのピンチが乗り越えられるのだろうか?

でもよく考えたら動けない鋭ニは、ただの足手まといになるだけかも知れない。


次回、「ミカ誘拐される」へ続く



■補足

お話しの中では、鋭二が怪我をしていますが、本編にあまり関係しない、何話かの掲載を省いたためです。 分かりにくくて、ごめんなさい。

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