第45話 ◆エミちゃん・デビュー

◆エミちゃん・デビュー


さてさて、3ヶ月の地獄の特訓(本人はそうは思っていなかったようだが)が終了し、いよいよエミのデビューの日がやってきた。


「エミ。 大丈夫? 緊張していない?」

「うん。 大丈夫」

ミキは、お姉さんらしく気遣ってあげているが、頼りになるサキがいないので、本当は自分の方が不安でドキドキなのである。

今日は歌番組の収録と芸能誌から双子姉妹としての新ユニット結成取材の仕事が入っている。


今は、どうやらカメリハ中のようだ・・・

「それじゃ、ティンカーベル。 イントロ入ります! サン、ニー、イチ。 キュー!」

エミのデビューに合わせ、新曲『天使と子悪魔』のイントロが流れ始める。

コスチュームもミキが黒、エミが白のドレス風。

曲の内容は、彼氏からみた彼女の二面性を天使と子悪魔に見立てたもので、かなりアップテンポのものだ。 振り付けは、やはりF強調ものになっている(笑)


二人の息は双子のように、ぴったり。

まぁ、クローンなんで双子以上の存在なのでしょうけど。


「ハイ。OKです♪ お疲れ様。 本番は1時間半後ですので、よろしくお願いしま~す」

丁度、初音あわせも無事に終わったようである。


「ふぅ~。 すごいよエミ。 とても初めてとは思えなかったよ~。 本番もこの調子で頑張ってね」

「ほんとに? よかったぁ。 途中で少し間違えたから、どうしようって思ってたの」

「ううん。 あのくらいは、ミスのうちに入らないよ。 言葉もほとんど違和感なくなったし。 ほんとに良く頑張ったね」

「うん。 ありがとう。 お姉ちゃん」

「エミ。 本番まで、まだずいぶん時間があるから何か食べよっか!」

食いしん坊のミキは、直ぐに食事の話題になってしまう。


「うん。 緊張がとけたら、わたしもお腹減っちゃった」

おやっ。 そういう性質はエミもDNA上、受け継いでいるようだ。

「それじゃ、ここ(TV局)の食堂に行く?」

「うん。 いいよ」


で、ここは、TV局の社員食堂。

お昼前であるが、TV局はほぼ24時間稼働しているので、食堂は何時も混んでいる。

「ほらっ、お姉ちゃん。 あそこが空いてるよ」

「ほんとだ。 エミは何が食べたい? 私が買ってくるからエミは席をKEEPしてて」

「私はね~。 きつねうどんがイイな」

「了解。 それじゃあ、買ってくるから、ちょっと待ってて」

「うん」


「ふぅ~。 やっとドキドキが治まった~。 本番大丈夫かなぁ・・・」

エミは、最近になって独り言が増えたようだ。

「あの~。 ここ空いてますか?」

エミは一人きりになったところをふいに、男から声をかけられる。

「は・・はい。 でも・・後でお姉ちゃんが来ますけど・・」

「じゃあ、相席いいですよね」

「え・・ええ」


4人用のテーブルなので断る必要は無いのだが、まだ開いているテーブルは何席かあるのだ。

「君は、ティンカーベルの妹さんの方でしょ?」

「そうですけど・・・」

エミは知らない男に声をかけられたら気をつけるよう、サキの家の特訓で教育されていたので警戒している。

「ハハハ。 僕は別に怪しい者じゃないよ。 芸能リポーターをやってる杉山っていいます。 よろしくね」


百戦錬磨の杉山は、直ぐにエミの雰囲気を読み取り対応する。 流石だ!

「はぁ。 よろしくお願いします」

「ここの食堂はね。 きつねうどんが美味いんだ。 知ってる?」

「ほんとですか? わたしも今、お姉ちゃんにきつねうどんを買って来てって頼んだところです」

「そうなんだ。 いや~通だね」

「つう? 通って何ですか?」

「ありゃ? 通って知らないの」

「私、まだ言葉の勉強中なの。 だから・・」

「ふ~ん。 勉強中って? きみ帰国子女かなんか?」

杉山はメモを取り出して早速取材開始である。

「えっと。 実は私は、クロー」

「エミっ!」

エミが危うく自分がクローンであると言いそうになるところ、危機一髪でミキが戻ってきた。


「お・・お姉ちゃん」

「はいっ。 お・ま・た・せ」

「ありがとう」

「そちらの方は?」

「えっと。 芸能リポーターの・・・」

「杉山です」

「杉山さん? あなた、どうしてここに座ってるの?」

「お姉ちゃん。 私が相席してもいいですかって聞かれたの」

エミが申し訳なさそうに、小さな声で説明する。


「そお。 この娘もうすぐ初本番なんで、緊張すると困るんです。 すみませんけど、遠慮してくださいませんか」

「お・・・お姉ちゃん」

「エミは気にしなくていいの。 お姉ちゃんに任せて」

「あ~。 それじゃ向こうの席も空いているから、僕はこれで失礼しますね。 是非また今度取材させてください」

「どうもすみません」

ミキは言葉とは裏腹に、杉山をじっと睨んでいる。


「お姉ちゃん・・・」

「エミってば。 ダメじゃない。 あなたがクローンなんてばれたら世界中で大騒ぎよ」

「だって、お姉ちゃん」

「なによ~」 ギロッ

「な・・・なんでもないです」

「ねぇ、エミ。 知らない人と絶対話しちゃダメだよ。 まだボロが出るから」

「うん。 わかった」

この二人。 それぞれ秘密があって、なんだか危なっかしい。 向こうの席から杉山が、じっと二人を観察している!

「ふんふん。 クローン? 姉の方もなにか秘密がありそうっと。 今度徹底取材だな!」

大変! 杉山は、口の動きで会話の内容がわかるみたい。


次回、「芸能リポ-タ・杉山」へ続く

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