第18話 してるの!?事変3
「フッわかってくれればいいさ、チワワ」
「チワワ?」
「スマン間違った、岡田」
俺がゆるゆると首を振って寛容さを示していると、岡田の横の佐藤がからからと笑った。
「ルカが誤解するのも仕方がないよな。緑川さんと
わざわざ長めのストローでちみちみリッターパックのコーヒー牛乳を飲んでいた佐藤。体もでけえんだしどうせなら口開けて豪快に飲めばいいのに。
昼休みに一本飲み切ろうとする根性はすげえけど、「特売してて小さい五百のパックよりこっちの方がお得だったから」って理由でそれ買ったにしても、せめて水筒に入れて小分けにして持ってくるとかすればより経済的だったのに。こりゃ午後の授業は佐藤の頻尿疑惑が持ち上がるだろう。
それよりお前さっきまで俺を奥様泥沼劇場のような疑惑の目で見てただろ。全く調子いいな。
「だよね~。普通あそこまでただの幼馴染みが仲良いものかな~って思うよ? 一緒に登下校してるし、この電子化のご時世でも分厚い辞書を緑川さんのためにロッカーに入れてるんだよね? 松っちゃんめちゃ優しいじゃん。他の女子とは扱い違うから付き合ってるんだとばかり思ってたよ」
「いやそれは強制スキルと強引スキルに卓越したゆめりだからこそのもんで……って、俺とゆめりのどこに恋人っぽい要素があるんだよ?」
「えーだっていつも間接キスにも動じないじゃん」
「は? いつ俺が動じなかったよ? ってかいつしたよ?」
先日美術館では動揺の余り失態と言って然るべき奇行をなしちゃったんですけどね俺!
「飲みかけのジュースあげてるのってそれを承知なんじゃないの?」
「あげてるんじゃねえ、奪われてるんだよ。……大体、向こうがどうしてるかなんて知らねえよ。大方マイタンブラーでも持って来てるんじゃねえの?」
「わざわざ移すかなあ……?」
「移すんじゃねえの? 俺ならそうするし」
岡田は否定したそうにしていたが、居心地の悪い俺の様子を見て取るとそれ以上はつついてこなかった。佐藤も。
「でも僕とカノジョより全然恋人っぽいし、羨ましいって思うよ」
「毎日しいたけ……あいや虐げられてるののどこか羨ましいんだよ。一体全体岡田の男女交際ってどんなだよ? どーせ美人カノジョとウハウハなんだろ?」
「えー? ウハウハはしないけど、にゃんにゃんならするよ~。それで…」
こいつぁは昼間っからなぁーにを言っとるんだ!!
「すまん、これ以上の破廉恥発言は待て。何故か俺だけ女子からの評価がガタ落ちしそうだからな。そう言う深い所までは訊いたつもりないんだが」
「破廉恥って? デートに猫耳付けてカノジョと猫の真似するって話なんだけど?」
「紛らわしいなっ! っつか猫耳デートなんて難易度高いことしてんのか」
黒いネズミ耳ならとある大きなランドで沢山見かけるがな。ああ夢の国……。
にしてもちょっと驚きだ。おしゃれなカッフェで知的に絵になるおデェートじゃないのかよ。
「あはは難易度なんて気持ち次第じゃん。僕たちにとっては全然低いって。松っちゃんも今度緑川さんとしてみなよ。テンション駄々上がりだよ~、にゃんにゃんすると!」
やめろその言い方あああッ! ほら女子の目がなんか冷たいだろ!
「ハハハ、んーまあ猫耳はハロウィンにでもやってみるかな」
えっやるの!?って引き気味困惑顔を佐藤がしたが俺はスルーするー。
去年させられたネズミ男コスよりはきっとマシだろ。奴ときたらハロウィン当日に押し掛けてきて「イベント行くわよ!」とか張り切ってそのコス服を押し付けてきた。
同じネズミ属性なら俺は某ランドの黒ネズミ君の方がよかった……。
ぼく花ガッキー♪
奴は何故かピーチ姫だったし。マリオと揃えなくて良かったんだ、へー。
っつか、
――え? 砂かけババアじゃねえのお前?
って訊いたらタコ殴られた。奴はエビが好きなくせによ!
しかも最悪だったのは顔に油性マジックで問いへの意趣返しよろしくネズミヒゲまで描かれた事だ。
しばらく消えなくて学校にはマスクして行ってたっけな。(遠い目)
「トラ猫耳がお勧めだよ~! それでトラビキニにトラパンツを緑川さんに着てもらったらいいよ!」
「……近くなったらお前に相談する、たぶん」
「わかった~」
んな注文したらきっと死ぬよ俺。
とにかくまあこれ以上話が変な方向に進まないうちに本来の話題に戻そう。
「そもそも何で下着なんてプレゼントする気になったんだ? 普通サプライズならリングとかネックレスやなんかのアクセサリーとか豪華な食事とか、百本の薔薇の花束だろ?」
「百本の薔薇の花束? ははっ古臭~!」
「悪かったな!」
母さんから「結婚前にされたパパからのサプライズは百本の薔薇の花束だったの~」って散々聞かされたからだなこれは。父さんは「結婚してからがサプライズの連続だった」ってたまに翳りを帯びた目で俺に語ってくるが。
「え、俺は良いと思うよ百本の薔薇…………食用のなら」
「「食用?」」
【佐藤源お勧め! お手軽ジャムの作り方】
材料……食用薔薇百本。
甘み……恋人からの愛情。
――んなもん手軽に売ってねえよッ!!
中学時代彼女いた元リア充だからって調子に乗んじゃねえっ。
それにお前贈る方じゃなくて貰う方想定しての発言だろそれ。
百本の食用薔薇恋人に贈る女子って滅多にいないだろうから残念だったな。
「どうしても下着じゃないと駄目なのか?」
表面上は佐藤を無視した俺が訊くと、岡田はとても落ち込んで困り果てたような顔で頷いた。
「うん。実は喧嘩しちゃって……」
おぉっとおおお~? ここで先ほどから聞き耳を立てていたクラスの女子が何人も色めき始めたぞ~?
うち数名は何か破局的な事を期待する悪い顔だああ~!
「へえ、意外。岡田でも女子と喧嘩なんてするんだな」
「するよそりゃあ。彼女から本当は犬耳の方が合ってるからって言われて首輪渡されたんだけど、僕はどうしても付けるのに抵抗あってさ。付けたら猫耳たんを裏切るような気がするじゃん!? だから嫌がったら喧嘩になって……」
――説明しよう!
猫耳たんとは岡田の愛読漫画のヒロインだ。
可愛い絵柄で、ネコ族の猫耳美少女と人間の主人公がドッキドッキな隣人生活を送るというちょっとだけ非日常系ラブコメ。以前イラストを描いてとせがまれたあれだ。
絵を描く手前、俺も借りて読ませてもらったが、控えめで優しくて、でも主人公を一途に思う気持ちは人一倍強い、そんな猫耳娘には心を打たれるものがあった。
……たまに冷蔵庫のさんまとか勝手に食べてるが。
なので俺のお勧めエピソードを是非とも紹介させて頂く。
隣人交流と言えばやっぱりコレ!
調味料やちょっとしたアイテムの貸し借りだろ。
ピンポーン。ガチャ。
主人公 「はいはい。今日は何?」
猫耳たん「あの、ひげ剃り貸して下さい。壊れちゃって……」
主人公 「ひげッ!? 剃るの!? まさか君っ……!?」
猫耳たん「あ、はい。猫ひげ剃らないと正体バレちゃうから……」
主人公 「あ…そ、そっか、猫ひげ…猫ひげ、か……。そうか、良かったあ……ッ」
思わず周囲の女子のほっぺをじっくり見たくなるシーンだった。
本当に日常には猫耳たんたちが隠れて暮らしているのかと思わせてくれた話だった。岡田がドはまりするのも頷ける。
「つーか、猫耳たんを裏切るとかそれ以前に、普通首輪なんてつけるの抵抗あるに決まってんだろ。それで喧嘩って……。なあ佐藤?」
「俺付けたことあるよ首輪」
「…………パードゥン?」
こいつに訊いたのが間違いだった。
「だから今微妙な感じなんだよね。僕も譲歩はしないけど早く仲直りしたくてさ」
「まあ、それでご機嫌取りに下着か」
「そ~」
全く基準がわからん。
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