第17話 してるの!?事変2

俺A:岡田ルカ君は何かとあけすけ過ぎではないか?

俺B:いえいえ最近の男子高校生はこれくらいでないと。

俺C:けど女子生徒もいる教室内で「してるの」発言はどうかと思うぞ?

俺D:え? ボク何か妙にドッキドキしちゃったけど~?

俺E:これこれ静まりなさい皆の衆、結論は持ち越しじゃ。まんずはこの状況をどうするべきか考えねばならん。

俺D:うわーまんずとか言ったよ。やっぱじじい。

俺E:これっ!

俺D:きゃーごめんなさあーい!!


 俺の脳内では見た目ミニオンズみたいな複数の俺――ミニオレズが咄嗟にこんな会議を開いていたわけだが……。


 俺は箸を落として咳き込み、教室の中はしーんとなった。

 そういや今日は珍しく母さんが弁当を作ってくれたんだよな。これ見よがしに朝食の席で俺に手渡してきた。……父さんのはなかったのに。昨日何か口論してたから、その腹いせなのかもな。夫婦喧嘩は犬も息子も食わないが、我が家では、母さんは弁当も食わせないらしい。

 あとさ、朝食の席で毎度の通り傍にいたジャイアンさんが「お弁当かぁ」とか母さんの弁当見て意味深に呟いたのを俺は聞き逃さなかった。

 それってどういう意味の呟きですか? え?


 ※作成は絶対にやめて下さい。(取扱説明書、P55禁止事項明記)


 それってすずり箱?的な黒々とした弁当見たくない。


「――はて、何をかな? 岡田君や。してる、とは……?」


 漫画の集中線のようにクラスの注目を集める中、俺は努めてまったりと明るく穏やかに友人に問いかけた。因みに表に出てるのは俺Eで、時折り近所の公園のベンチにいるじいさんを参考にした俺だ。

 因みに毎回慌てた様子で駆け付けた家族に「良かった見つかってええ」と連れ帰られている御仁だ。時々「今日もここにいました」とお巡りさんに連絡を入れられている、そんな御仁だ。

 かくして岡田は言った。


「えー? セック…」

「――ももももも桃の節句だな!? ああおひな様ならあいつんトータル五セットくらい飾ってんぜ! 毎年ゆめりの親父さんが張り切ってな! すげえよな!」


 俺ん家も姉貴のために母さんが毎年飾ってたな!

 ……今年人形供養に出してたがな!

 しかも俺のベッド下のエロ雑誌も、浄化されて供養になるとか何とかで古紙回収に回しやがった。再利用の過程で漂白されるだけだろアレは!

 ベッド下なんてベタだが、いつの時代も変わらない年頃メンズの絶対領域……じゃなく(んなもんチラリとも見たくない)、絶対聖域を侵すとは母さん許すまじだ。

 そういや奴は俺の聖域を知ってたが、今まで別段何も言って来ないな。

 不可解な事もあるもんだ。

 ともかく俺は何とか正面の岡田の口を塞いだ。ふう、火事場の不思議瞬発力万歳。だが、無駄な頑張りだったよ……。

 クラスの他の奴ら(主に女子)が俺を危険物でも見るような目で見てくる。

 頼むからそんな目で見んな。精神にくる眼差しは十分足りてるんだよ俺は!

 俺と奴の真実を知っている数少ない人間である佐藤までもが、今や愕然とした目で俺を見ている。

 青春純情野郎は他人の妄言に惑わされるのがお決まりなのか?

 居合わせた久保田さんはわかってくれてるのか俺と目が合うと御愁傷様~みたいに気の毒そうな顔をするし、隣の席の眼鏡っ娘ヤンキー藤宮は菓子パンを食いながらしれーっとしている。

 どうせ俺たちの会話に興味ないんだろうけどって、ああ、音楽聴いてんのか。

 そういや藤宮はいつも一人でいるな。

 皆明る過ぎる髪の色に敬遠してんのか?

 話すと結構面白い性格してるんだがな。

 俺の視線に気付くと「何さ? 花ガッキー?」とイヤホンを外しキョトンとして訊いてきた。


「ああいや、何聴いてんのかと思って」

「ビバルディ」

「そうか。俺もフツーに聴……かないな。あんたさんは実は貴族かい?」

「癒しだよ癒し」


 クラシックとか意外過ぎだろ。ハードロックとかヘドバン仕様のバンバン激しいの聴いてそうなのに。

 藤宮がまたイヤホンを装着し直した所でもういいだろうと岡田から手を外すと、岡田は「松っちゃんの手ぇ塩味したよ~」とか言いながら取り出した除菌ティッシュで口を拭いた。

 いや拭きたいのは俺の方だけど!?

 この唾液を遺伝子鑑定にでも出してやろうか? え?

 俺と岡田の隠された血の繋がりが発覚するかもしれないぞ?

 ってそこの一部の女子ッ、俺の手の涎見て物欲しそうな目すんな!

 ハンカチもないしで仕方がなく俺が自分の腹辺りで手をコシコシしていると、岡田は律儀にもまだ問いに答えようとしていた。


「僕が言いたかったのはセ――」

「いやもういいって言いたい事はわかった。が、俺と奴はそういう関係でもない」

「じゃあもしかして、もう結婚してるの!? ほらよくあるじゃん、皆には内緒にしてるっていうの」

「んな高校生夫婦よくあるわけねえだろ」

「えーそうかなあ~」


 イケメンだからって飛躍しすぎだろ岡田。

 イケメンじゃないから夢見ちゃうだろ俺。

 クラスのやつらがまたもやすんごい目で俺を見る。今度は主に男子が、結婚生活のウキウキハッスルハッスルな話を聞かせろ的な興奮した目で。落ち着け野郎共おおおっ俺まだ結婚可能な歳じゃねえよ!


「先走るな岡田。ないから、絶対有り得ないから。俺とあいつはホントに普通にただのお隣さんなだけだから! く、さ、れ、外道……じゃなく腐れ縁だよ」


 俺の説得に岡田は二、三度瞬いた後ようやく理解した。


「え、そうなの? 僕てっきり…」

「テキーラ! すまん、言いたくなっただけだ」

「そっかあ、勝手に勘違いしてごめん」


 岡田は悪気なんて一ナノグラムもない顔で済まなそうにした。

 しょんぼりと垂れた犬耳が見える。こいつの前世は反省中のチワワか? 女子から可愛がられるわけだよな。たまに、いや常に、今みたいにやんちゃすぎて困るが。

 くそう、これだからこいつ失礼イケメンでも憎めないんだよ。

 除菌ティッシュで拭かれてもな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る