名前

 私の小学校では席の近い四人を一班として数えていた。そして席替えのときに同じ班のメンバーの「いいところ探し」をするのである。そりゃあ、小学生だったから書くこともまあ幼稚だ。「足が速い」とか「おもしろい」とか「宿題をちゃんとやってくる」とか。

 その中で、ある男子が書いたのが強烈だった。

「なんか中村っぽい」

 最初見たときに衝撃を受けた。中村というのは私の苗字だ。だけど、この「中村」がどの中村かわからない。あるいは私のことを指していても意味がわからない。「中村っぽい」って何?他に書くことが思い浮かばなかったのだろうか。

 意を決してその男子に意図を聞いてみると、

「なんか、中村さんって『中村』。『小林』っぽくはないし、『勅使河原てしがわら』って感じでもない。やっぱり中村さんは『中村』っていうのがしっくりくる」

「……どういうこと?」

「だから、この前言ってたじゃん。『自分の名前はありきたりでヤダ』って」

「あんたに言ったっけ、それ」

「たまたま聞こえただけ。とにかく、中村さんは『中村安子』なんだ。それが一番ピタッとくる。中村さんは多分、世界で一番『中村安子』って名前が似合う女子だよ」

 結局そのときはよくわからなかったけど、今になって思えば彼の言っていたことは真理かもしれない。名前付けをされた時点で、それ以外の何者でもなくなるのだ。

 私はこの名前を背負って生きていく。大丈夫、きっとこの名前を愛してくれる人がいる。

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