剣さんとベビーカー


少し遠くの大型スーパーで、

買い物をした帰りの事。


「あれなんだ?」


と、本日荷物持ちをしてくれている、

つるぎさんが言う。


私がその方向を見ると、

1組の夫婦がベビーカーを押しながら

歩いているところだった。


「ああ、ベビーカーですね。」


「ベビーカー?」


「ええっと・・乳母車うばぐるまですよ。」


昔の言い方に直すと、

彼はそれを見ながら


「おお!」


と感心した声を出す。


随分ずいぶんと形が変わったな!

昔はもっとデカくて、

あんな風に折りたたんだりできなかったぞ。」


「子供用品は、日々進化しているらしいです。」


よくCMなどでもやっているし、

この間はテレビで、

最新のベビーカー情報が特集されていた。


私はこういう雑学などの情報が、

結構好きなのでよくてしまう。


「最近は使用してる人が多いですね。」


「確かに便利そうだな。」


作ってみるか。


剣さんは観察しながら、

そう呟いた。



それが、

3日前の話。



「完成したぞ!」


今朝、あわただしくやって来たつるぎさんは、

そう言って私に、

てにひらに乗った小箱を見せる。


「完成したって、何がですか?」


「俺特製のベビーカーだ!」


「・・これがですか?」


どう見ても箱にしか見えないそれを、

つるぎさんは軽く放り投げた。


すると、

箱が一瞬でベビーカーへと変化する。


「おお!」


その見事な変形に、

ロボット好きな私は思わず目を輝かせた。


「持ち運びやすいように工夫したんだよ。

それと、機能も色々付けたぞ。」


ベビーカーの持ち手を触りながら、

彼は機能の説明を始める。


「まず、段差でも上りやすくして、

足場が悪くてもバランスがくずれないようにした。」


ふむふむ。


「地面に近いと、

放射ほうしゃ熱で熱中症になりやすくなるし、

たまりの水が掛かるから、

赤ん坊を乗せる位置を高くして。」


なるほど。


「荷物は全部、

風呂敷ふろしきの応用でいくらでも入る荷物入れを付けた。」


お母さんって、

荷物多いって言いますもんね。


「雨を感知したら雨けが、

日差しを感知したら日けを自動で差してくれる。」


それは便利だ。


「熱感知も自動で行い、

クーラーで中の温度は赤ん坊に最適な気温に

たもたれるようになっている。」


乳幼児の風邪は怖いっていいますから。


「下り坂で万が一手が離れても勝手に進まず、

上り坂では自動アシスト付き。」


それは助かるでしょうね。


勿論もちろん迎撃げいげきシステム完備!」


ん?


「害虫やあやしが近づいたら、

まず結界を自動展開!

触れた奴は瞬時に炭になる強力なやつだ!」


んん?


「赤ん坊の安全を確保したのち、

仲間を呼べないよう妨害ぼうがい電波を出す!

ただし、中にいる赤ん坊には子守歌にしか聞こえない。」


んんん?


「そしてとどめに、

殲滅せんめつするまで攻撃用の術を敵に発動しまくる!

その時は、中にいる赤ん坊の前に、

自動で幼児用番組が流れる仕掛けになってるぞ!」


あれ???


「どうだ!完璧かんぺきだろ!」


・・・・。


完璧かんぺき要塞ようさいですね。」


たくましい子に育ちそうだ。


「そんじゃ、

出産いわいで娘にプレゼントしてくるな!」


そう言うと、

つるぎさんは上機嫌じょうきげんで帰って行った。




その後聞いた話によると


そのベビーカーを娘さんは大層たいそう気に入り、

出掛ける時に使用していた所


同じように子供を持つお友達に聞かれ、

つるぎさんからの出産いわいだと話したら


あっという間にあのベビーカーは、

大人気になったそうで


今では、

父親がプレゼントする

手作りの出産いわい品の定番になったらしい。

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