私と鯵とこい?


私の寝室には、

さむらい言葉のロウニンアジがいる。


本物の魚ではなく、

『2時だよ!にじあじ君』

というキャラクターに出て来る仲間で、

「6時だよ!ロウニンアジ君」

というキャラクターのぬいぐるみだ。


以前、

色々なモノの気配のせいで寝不足になった私に、

つるぎさんが寝室の警備けいび用にくれた物で、

それ以来しっかりと任務にんむを果たしてくれている。



・・しかし、

最近彼の様子が変なのだ。



仕事はきっちりとしてくれているが、

それ以外はぼんやりと夜空を見ながら、

時々溜息をついている。


それぐらいなら、

「そんな気分なんだろうな。」と

まったく気にしないのだが。


どうやら彼は、

私に話を聞いてもらいたいらしく。


起こしはしないのだが、

枕元まくらもとで思いっきり大きなため息をついてくれるのだ。


それがすでに、

1週間続いている。



なので。



「・・さっさと言え。」


良心を痛めた私は、

いかずちさん作の木刀を手にし、

悩めるかれの話を聞いてあげる事にした。


「そ、相談に乗って下さる態度ではないような・・。」


現在夜中の3時ですが何か?


い、いいえ!なんでも御座ござらん!


彼は私の前で正座をし、

ひれをもじもじと動かしながら、

途切とぎ途切とぎれに話し出す。


「じ、実は・・。」



彼の話によると。


1週間前の警備けいび最中さいちゅうに、

向かいの家の屋根に動く影を見て


気になった彼は、

カーテンを開けてそれを確かめようとしたらしい。



すると、そこには。



月光の光を浴び、

真黒まっくろな毛みをしなやかに輝かせる


「魚が飛んでたのか。」


「魚はうろこです。」


「黒って言ってたから、ウニ?」


「あれは毛みではないかと。」


「あ、わかった!

アシカかアザラシだ!」


何故なぜ、海洋生物ばかりなのですか!」


貴方あなたが魚類だからです。


かく

・・あんなに美しい生き物には、

拙者せっしゃ、出会った事がありませぬ。」


貴方の仲間はみんな、

鯵のぬいぐるみですから。


(・・それにしてもなぁ。)


よりにもよって、

どうやら彼はその「猫」をいるらしい。


どうしたものかと悩んでいると


「あっ!」


と、彼が声を上げた。


「か、彼女です!」


窓に張り付きながら、

ひれで向かいの家の屋根を差され、

私は咄嗟とっさにその方向を見る。


そこには、

1匹のキレイな黒猫がいて、

気持ちよさそうに伸びをしていた。


「あぁ・・。」


何てうるわしいのだろう・・。


窓に張り付くようにして、

猫を見つめるかれを見ていると、

溜息しか出てこない。


(猫とあじ・・。)


どうしよう。


どうしても、

捕食ほしょくされる光景しか想像できないのだが。


どうゆうアドバイスをすべきかと、

私が考えながらも猫を見ていると、

もう1つの影が屋根に現れる。


それは、

キレイな灰色の猫だった。


「あ、嫌な予感がする。」


そう呟いた瞬間、

私の予感は的中する。


灰色の猫が、

黒猫の頬を舐めて毛づくろいを始めたのだ。


黒猫はそれを嫌がらず、

心地ここち良さそうに目を細めて大人しくしている。


「・・。」


これ以上、

彼にこくな光景を見せる訳にもいかず、

私は黙ってカーテンを閉めた。


「・・。」


彼はうつむいたままですっかり黙ってしまい、

気まずさにえかねた私は、

何とか必死でフォローをこころみる。


「え、あ、その。

ほ、ほら!あの子とはえんが無かったってだけで!」


「・・。」


「き、きっと、

君の事を好きになる子もいると思うなぁ~!

こんなにきの良いあじ

放っとく人はいないから!」


このセリフだと、

相手が魚屋しかいない気もするが。


オロオロしながら私があわてていると、

彼はそれはそれは深い溜息を吐き


「やはり、猫は美しいですね!」


と、目を輝かせた。


「・・・・は?」


言葉の意味が一瞬理解できない私を気にもめず、

彼は興奮気味こうふんぎみにはしゃぎ続ける。


「あの美しい毛み!

しなやかで優美ゆうびな動き!

俊敏しゅんびんで身軽な体捌たいさばき!」


あぁ、憧れる・・!


うっとりとした声音で呟くその内容を聞き、

ようやく私は自身の勘違かんちがいをさとったのだった。


彼の「したう」は

恋慕れんぼ」の意味ではなく、

憧憬どうけい」の方だったらしい。


日本語は深いな・・。




その後も。


夜中だというにもかかわらず、

彼は猫の素晴すばらしさを延々えんえんと語ってくれたので


笑顔で部屋からりだしておきました。

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