私と謎の種


ある日くもさんが


「これあげる~。」


と、黒い大きな楕円形だえんけいの種をくれました。


「何の種ですか?」


見た事の無い種を手に私はくが、

くもさんはニコニコしたまま


「秘密~。」


と言う。


「土に植えて、

水を毎日上げていれば芽が出るよ~。

どんな花が咲くのか、

育てて確かめてごらん。」


どんな植物が育つのか気になったが、


くもさんなら、危険な物は渡さないだろう。)


と、彼を信用して庭に植えた。


ちなみに、

種を渡してきたのがつるぎさんとそらさんの場合なら、

まず先に、

いかずちさんに確認しに行く事になっている。


その昔、

この2人が渡してきた植物で

大変な騒ぎが起きた事があるのだ。



『オオハナビラン』


というキレイな花だったのだが、

その特徴とくちょう


『大型の火球を花から打ち出す』


というもので。



相手の基準きじゅんでは、

打ち返して遊べる程度ていどのオモチャなのだが。


私が相手では、

火の玉を吐く立派な危険物へと変化する。


火傷やけどしそうになった所をおもさんに助けられ、

花はこおりさんが冬眠させてから移植いしょくし、

事件は無事に解決。


2人の説教を終えたいかずちさんから


「あの2人が植物を持って来た時は、

必ず確認しに来なさい。」


と、きびしく言いつけられた。



「植えましたけど、

どれくらいで花が咲きますか?」


土で汚れた手を洗いながら、

くもさんに聞いてみる。


「4~5日で咲くよ~。」


物凄ものすごく早いですね。」


花について、

もう少しくわしく聞こうと思っていたが


(そんなに早いなら、

じかに見た方が早いか。)


そう考えた私は、

花が咲くのを楽しみに待つ事にした。



1日目


小さいが出る。



2日目


少し大きくなって、

丸い葉の双葉ふたばが出た。



3日目


くきが伸び、

まん丸な本葉ほんばが2枚える。



4日目


くきが長く伸び、

大きなつぼみが付いていた。


この様子ようすなら、

明日には花が咲くだろう。



そして5日目


朝起きると、

太陽の日差しのもと

大きな花が咲いていたのだが・・。


「・・。」


朝、

その花をみつけた私は絶句していた。


「あ、咲いたんだね~。」


そんな私の側に、

おだやかに笑いながらくもさんがやって来る。


「うん。

ちゃんと花になってる。」


その声にわれに返った私は、

思わず呟いた。


「花・・ですよね?」



目に前のそれは、

確かに花の形をしている。


形はしているが。


咲いた花は、

子供の落書らくがきのようくずれた造形ぞうけいで、

色もクレヨンでざつったような色をしていて。


葉の方も、

交互こうごに左右に丸い葉がついているし、

くきも多少ゆがんでいた。


育てている間、

やけにこの植物に親近しんきん感を感じていたのだが。


その見た目が完全に、

園児がお絵かきで書く花そのものだったからだと、

たった今気が付いた。


「・・キレイな花が咲くと思ってました。」


花の残念な姿に、私は溜息を吐く。


しかし、

くもさんは笑顔のままでおだやかに言った。


「これなら大丈夫だね。」


もう少し、待っててごらん。


「?」


私が、不思議に思った時だった。



不意ふいき通った、

キレイな鈴のような音が聞こえてくる。


驚いた私が音の聞こえた方を見ると


「・・!」


それは、

あの花にまった1羽のちょうからだった。



そのちょうの体はかすかに輝き、

ステンドグラスのよう透明とうめいな羽根を動かすたび

キレイな鈴のような音を立てている。


あまりの美しさにぼんやりと見ていると、

側にいたくもさんが声をひそめて言った。


「あれは、フウリンアゲハ。


夏に飛んでいるちょうで、

あの花のみつしか吸わないんだよ。


とってもキレイだから、

君にも見せてあげようと思ったんだ。


でも、

つかまえて入れ物に入れてしまうと、

ただのガラスになってくだけてしまう。」


だから、

花を育てるしか見る方法が無いんだ。


にこにこ笑顔で理由をげた彼に、

私も声をひそめて言う。


がとうございます。

あのちょうすごくキレイですね。」


「でしょ~。」


・・そのまま私と彼は、

昼に花が枯れてちょうが姿を消すまで

存分ぞんぶん観察かんさつしたのでした。


スマホに記録されたそのちょうの写真は、

宝物の1つです。




その感動を伝えるべく、

私はその花とちょうの絵を描いたのだが。


「・・羽根の生えた落花生らっかせいか?」


「いや。

・・これは、

クローバーを背負せおったナメクジだな!」


と、言われた。



・・幼い頃の図工は

『もっとがんばりましょう』

です。

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