氷さんとスイカ


切りたてのスイカをテーブルに運び、

仲間達に向かって大声で呼びかける。


「スイカだよ~!」


家中から返事が返ってきて、

みんなが集まってきた。


きそう様に走ってきたり、

のんびり歩いてきたりと、

こんなところにもそれぞれの性格が

表れて面白い。


「お、もうこんな時期か!」


「いっただきまーす!」


それぞれ手にスイカを取り、

好きな様にかぶりつく。


みんなは豪快ごうかいみ付いているが、

私は見える種を

ある程度取ってから食べる。


ので、

1人ちまちまと種と格闘していた。


「相変わらず変な食べ方してるな。」


つるぎさんがもごもご口を動かしながら

話しかけてくる。


「食いながらしゃべるな。」


いいじゃん。


そう言って、

種を外に向かって飛ばしだした。


「行儀悪いですよ。

ちゃんと皿に出して下さい。」


と皿をすすめても、

外に向かって飛ばしている。


しかも、

離れた窓から外にだ。


「器用ですね。」


「だろ!」


調子に乗ったつるぎさんは、

その辺の物にも当てて遊び出す。


「俺も!」


「俺もやる!」


こういう事に必ず参加し、

事態を大騒ぎへと変えるいつもの2人が

やっぱり参加してしまった。


なので。


「やめろ!当たるだろ!!」


「あぶなっ!」


「おい!コップ割れたぞ!!」


「速度上げんな!!」


辺りはスイカの種という名の

弾が飛び交う射的場と化した。


「ちょっと!!」


誰か止めて!


私がそう叫ぶ前に、

事態は収束しゅうそくに向かう。


遅れてスイカを食べに来た

こおりさんのほおに、

跳ね返った種が当たった。


「あ。」


その場が静まり返り、

思わず全員で凝視する。


「・・・・。」


種を払い落し、

そのまま無言でこおりさんは静かに座った。


そして、

私が取っていた種を三つ手に取ると


ビッ!!


と指で弾いて飛ばした。


見えない程の速度で放たれた種は、

寸分違わず騒ぎの中心人物3人の額に

命中する。


3人はそのまま

その場に倒れてしまった。


「気を失ってる・・。」


様子を見る私とは違い、

みんなは慣れた態度でスイカを

再び食べ出す。


「やっと静かになったな。」


やれやれ。


溜息をつくいかずちさんに、

一応聞いておく。


「3人はどうします?」


「放っておけ。自業自得だ。」


そうですか。


私もスイカを食べるのを再開する。


無言で食べるこおりさんに、

思った事を聞いてみた。


こおりさん、凄いですね。

どうやったら当てられますか?」


あ。


誰かが呟き、

その場に氷河期が訪れた。


誰もが無言になる中、

こおりさんが私に向かって

優しく笑う。


(ヤバい!)


彼がこの表情をするのは、

物凄ものすごくキレてる時だ。


身に覚えが無くて冷や汗をかいていると、

こおりさんは笑顔で私に言う。


「知りたいか?

なら、コツを教えてやる。

・・練習用の的には、困らないからな。」


気絶する3人を見て、

こおりさんは笑った。


その笑みを見て私はやっと、

自分が彼に丁度いいの使い方を

教えてしまった事に気が付く。


「・・手遅れだな。」


青くなる私の肩に、

いかずちさんが

そっと手を置いて言った。


その後、

こおりさんは笑顔で的を使い、

すご丁寧ていねいに狙い方を教えてくれたのだが。


私が疲れて音を上げても、

それは夜になるまで続き、

的の悲鳴は辺りに響いていた。




・・私は悪くない。

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