第47話 二年一組は


全生徒が能力者。

この日本に、そんなクラスがあるのだろうか―――どうやらある。

あるらしい、そんな学級が。

それは存在するというよりも、実在しているというよりも、創られたという表現が正しい。

学校案内や先生たちの会話の端々から推察するに、元々はなかったから急遽建造された―――というような話が真実、実際のところらしい。


教室のドアを開けたら、そこにはそんな風景が広がっているらしい。

どんな景色が待っているのやら。

トンネルを抜けたら雪国だった、という事よりも、あるいは衝撃的な風景が、おそらく待ち受けている。

この、真新しいというだけで、何の変哲もない二年一組の教室のドアをくぐるのは―――だって、このクラスは、普通の人間が、一人もいないのだから―――。


しかし、奇怪かつ愉快な先生の後ろに追随し、普通に歩行しながら入って行くと、朝礼が始まる前という事だけあり、クラスの中は騒々しかった。

三十名。

おそらくだが三十名ほどの、男子と女子。

立ち上がって友達と談笑している子も多かった。

制服の形状に違和感があるのは、やはり新しい学校だからである。

知らない顔ばかりだが、それでもなんと言うか―――皆、朗らかに笑っているのだった。


僕は、座席の位置を教えられる。

一番後ろで、ドアに近い席だった―――と、これは僕が転校生であることを踏まえれば、そうおかしなことでもないし、僕は教壇から、先生の位置から離れているポジションには、あこがれというか、安心感があるのだった。

僕がそこに座った頃に、先生が教壇で手を鳴らす。

ゆっくりと拍手をするような動きだった。


「はい、それでは朝礼だ、皆席に着いたか?」


言われた頃には、みな自分の席に戻りつつあった。


「夏休みが終わった。皆、実りの多い夏を過ごしてくれていると嬉しい。二学期もよろしくお願いします―――と、いうことで。担任の慣名かんなだ―――では今日の転校生を紹介しようかな」


教室はまだざわざわしている―――。


とにもかくにも、さっそく僕の出番らしい。

転校生なのは僕。

しかし―――今日の転校生、というのは不思議な言葉だな。

どうやらこの学園、転校生がやたらと多い校風らしいけれど、という事は月一ツキイチくらいのペースで新しいネオノイドが来るっていう事も有り得る。

ということは、彼ら彼女らの表情に、さほど動揺や驚きが見られないのはそのためだろうか。

慣れている、というような雰囲気がある。



「二学期からの転校生―――砂護野晴くんと末積すえつむべにかさんだ」


と、ここで僕はうろたえる。

むむむ、呼ばれたのはどうやら僕一人ではないらしい―――?

と、左右を見るやいなや、その子は真下にいた。

増したというか、背が低いので、いつのタイミングからか、いたらしい。

その子の頭部が、僕の首もとに迫る気がした。


「うおっ」


すこし驚いた。

女の子はこくり、と頷き―――会釈えしゃくして彼女―――末摘べにかは、ぼそぼそと、何か言った。


「え?なぁに?」


「………ょろしく」


単なる挨拶だったらしく、僕も笑った。


「よ、よろしく………」


その黒い髪の少女はまあ、髪の印象だけなら普通の女子だったのだが、視点の高さの都合上、彼女の後頭部と会話している気分になる。

おお、赤い花の髪留めが、近い―――。

そしてきめ細やかな白いまぶたをちょこんと飾るまつ毛の動きがよく見えるのだった。


しかし―――なんてことだ。

意外や意外―――僕の心は落ち着かないぜ。

このクラスに転校してきたという事は、この普通の女子。

少し小柄で可愛らしい、普通の女子にしか見えない子も―――黒い瞳をしたこの子も。


この子も、能力―――っていうことで―――いいんだよな。

そういうことに、なるのだな。

そしてこのクラスに座っている三十人くらいの生徒がすべて、そうであるという事実だった。


僕がやや、たじろいたのは、いや驚いたのは。

その生徒すべてが―――すごく個性豊かな異常能力者だから―――ではなかった。


その逆である。

普通の教室に見えた。

教室に座っている全員が、極々、普通の―――少年少女に見えたのだ。

これぞ能力者だ、と言えるような―――外見をしている生徒と言えるものは、とりあえずは見受けられない―――ああ、いや髪の色が金髪なのはいるけれど。

これは外国人も増加の傾向にある我が国では決して珍しいものではない。


しかし、とにかく、もっと強烈な何かを予想していた僕の心境は裏切られたというか、肩透かしなのだった。

皆、確かに一人ひとり顔つきや雰囲気は違い、色んな子がいて。

全員が、メンバーは確かに前の学校とは違うのだけれど、それでも前の学校と比べて大きな変化がないのだ。

みんな、普通の日常を送っている高校生にしか見えなかった。

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