第40話 魔物たちの襲撃

 ジリリリリリリッ!

 早朝、警報の音が鳴り響いていた。騎士団の団員は急いで広場に向かう。普段は練習の場として使うが、今は違った。

 普段、顔を合わせることがない新規と正規の団員が集合した。さらにメガネをかけた短髪緑髪の男がいた。彼は副団長メゾット。正規団員は彼に任せている。さらさらな髪、クールで知的な雰囲気を醸し出している。

 全員が集まると、エレナは前に出る。彼女はハントを追って魔樹海の森へと向かったが、その日のうちに戻ってきた。指導員のカーチスや部下たちに頭を下げ、いつもの日常に戻ってきた矢先だった。

「魔物が北東から迫っているという情報が入った」

 部下たちは真剣な表情で、その場は緊張感が漂っていた。

「新団員はここで待機だ。私は正規団員とともに町を守る。ただし、準備はしておくように。各自、盾を用意。メディカルスティックも忘れるな」

 バタバタバタと慌ただしくなった。魔物の襲撃は久しぶりのことで、団員みな不安を募らせていく。それはエレナも同じだった。

 北東からということは魔樹海の森から、か。

 盾を持ち、メディカルスティックを腰に三本下げた。部下たちに忘れ物がないか目を光らせる。一通り確認後、白衣のシーラと一緒にキャリーに乗り込んだ。

 騎士団区域を離れ、北門へ向かう。町の上を通過。いつもなら活発な通りも、いまはがらんとしてる。北門に着くと、正規団員の部下たちが集まっていた。フラン城下町は壁に囲まれている。

 魔物から人々を守る役割を担ってきた外壁。最近では、補修のお金がもったいないという意見が出ていたが、やはり壁は必要だ。ただ、そこまで侵入を許すつもりはない。

 メゾットがキャリーから下りて、近づいてきた。メガネが日光に反射して光る。

「団長。情報によると、ここから北東二キロ先、魔物の数はそんなに多くはないです。だが、でかいのがいるようで、危険度はC」

 危険度はSからGまであり、Cは中間ぐらいの強さを意味する。

「そうか。メゾットは門を守ってくれ。私は十人ほど引き連れて狩りに行く」

「大丈夫ですか?」

「Cだろう? 問題ない。それより、万が一のときは頼んだぞ」

「わかりました。後方は任せてください」

 エレナはカーチスを含む正規団員とともにキャリーを走らせた。向かうは魔物がいるとされる北東の位置。見晴らしのいい草原が続く中、向こうから近づいてくる物体が見えた。近づくにつれて大きくなっていく。

「団長!」

「わかっている。止まれ!」

 彼女を先頭に、キャリーは止まった。その場に下りてから、部下たちに命令する。

「攻の用意だ。合図ののちに放て」

「「「了解!」」」

 盾を構え、防御円を発動。グンッと覆う魔力体はすぐに分裂。複数の尖った剣を形成した。部下たちもそれに倣い、エレナほどではないが、同じように防から攻に移行。

 ドドドドドドドドドドドッ。

 地鳴りが響き、近づいてくる魔物たち。まるでなにか目的のものがあるように、一体となっている。この先は騎士団区域がある。そこに目的のものがあるとすれば、それは災厄の少女だった。闇の魔力…それが魔物たちをおびき寄せている。まるで光に導かれる虫たちのように、魔物たちは近づいてくる。それがどういうことを示しているのか、エレナにはわかっていた。

 こんな事態になったということは、うまく中和できなかったということか。

 距離、百メートルほど…八十メートル…六十…五十!

「放て!」

 光の剣が一斉に放たれた。魔物たちはなすすべなく、崩れていく。ほとんどの魔物たちが倒れて動かなくなる中、一匹はまだ元気なようで、動き出した。巨大な体を持つオーガだ。二メートル? いやそれ以上ある。通常のオーガなら、くし刺しになっているところだが…。

 グンッ。シュバババババッ!

 確認のため、防御円から再び剣を作り出し、射出した。オーガの前にきたところで弾かれる。

 進化系か。

 同種の魔物でも、特殊な能力を持つものがいる。それが進化系。

 残りは一匹か。さっさと片付けるか。

「団長。どうするんだ?」

 カーチスが問いかける。

「俺が行ってもいいが」

「問題ない。私が行こう」

 団長自ら前に出た。剣を持つオーガが迫ってくる中、防御円で体を覆う。すぐに、白く長い蛇の形になり、ホワイトスネーク発動。射出され、オーガの体に巻き付いた。拘束。身動きがとれなくなったオーガはバタバタと暴れまわるが、こうなってしまってはもう遅い。グググッと巨体は宙に浮かび上がり、上空へと上がったのちに解除。オーガは真っ逆さまに地面へと落下して激突。骨の折れた音がして、ピクリとも動かなくなった。後ろで見ていた部下は、げっという表情を浮かべているものが何人かいた。そこに容赦は一ミリもない。

「さすが団長。頼もしいな」

 馴れ馴れしいカーチス。戦友に声をかけられ、エレナはクールに笑った。

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