第11話 あなたみたいな人がいたら迷惑なのよ

 休日。

 ハントはエレナ、そしてサリーとともに外出した。向かうのは図書館だ。今回はデートではないため、エレナが変装する必要はない。今日はブラウスに足首が見えるズボンという服装で、クールだった。

 災厄の少女、そして聖騎士。この二人と一緒に凡人の俺が歩いてていいのだろうか?

 しかし、災厄の少女とは聞いていたが、ここ数日過ごしてきて、なにも起きていない。デタラメな噂だとしか思えなかった。

 大きな図書館に着くと中に入る。本棚が何列も並び、見渡せるような配置になっていた。

 ちなみにサリーは前回、外出するときはエレナが一緒だと嫌みたいなことを言っていたが、行き先が図書館だとわかると、方針を変えた。本が好きなので、図書館に行きたかったのだろう。エレナは護衛の責任者ということで外出許可が下りた。

「本を探しにいっても?」

「いいだろう。ただし、私もついていくがな」

「そうなるのね」

「当たり前だ」

 やれやれといった様子で、サリーは本棚に向かって歩いていく。後ろからエレナが続き、それにハントがついていった。彼女は何冊か良さそうな本を選ぶと、机に移動。そこでパラパラとめくり始める。

「ハント。私はここにいる。お前は歩き回ってもいいぞ」

「はい」

 団長モードなので、こちらも馴れ馴れしい態度はとれない。お言葉に甘えて、本を見て回ることにした。ここにきた目的は一つ。防御魔法が使えないので、どうするか、だ。ざっくりしているが、そのヒントが本に書いてあるのでは? という読みがあった。

 さて、どうしよう? 闇雲に片っぱしから読んでいっても非効率すぎる。予想してから動くことにするか。

 闇属性の魔法使い…は過去に何人もいたはずだ。だったら闇属性の騎士もいたんじゃないか? いたとしたら、防御魔法が使えないので、どう対処していたのか、それが見つけられれば一歩前進したことになる。

 闇属性の騎士、か。響きはかっこいいな。

 一時間ほど本探しに没頭する。それらしい本を三冊ほど見つけ、サリーがいる机に戻ってきた。

「なにか見つかったか?」

「はい。三冊ほど」

「よし。私も読んでやろう」

 サリーは本に没頭している、その横で、ハントとエレナは本読みを始めた。文字を追うのは疲れるが、自分のことなので真剣に本を読んでいく。

「ハント、見てみろ」

「え?」

 彼女が先になにか見つけたようで、イスを寄って本を眺める。

「ここに鎧術というのがある。闇の使い手が使う、防御魔法が組み込まれているらしい」

「盾じゃなくて、鎧ですか」

「ああ。漆黒の鎧という記載がある。これを装備して魔力を送り込むことで使えるようになるようだな」

「団長、聞いたことは?」

「ない。このような鎧が売られているところも見たことはないな」

「そうですか…」

「一応、探してみるか」

「そうですね。じゃあ、さっそく…」

 エレナはチラッとサリーを見る。イスに根が張っているのか、微動だにしない。

「サリー。そろそろ行くぞ」

「私はここに残るわ」

「それはできない」

 ふうっとため息をもらす。

「図書館から出ないわ。約束する」

「信用できないな」

「あのね」

 サリーは読みかけの本にしおりを挟んで閉じた。

「自慢じゃないけど私、逃げ出したことなんて一度もないのよ? これでも今の生活、気に入ってるんだから」

 気に入ってるのかよ。普通、地下に閉じ込められて、自由が利かないんだったら嫌になると思うが、彼女にとっては違うのか。

「その言葉が信用できないと言っている」

「じゃあ私もここから動く気はないわ」

「それを決めるのは私だ」

「勝手に言っててちょうだい」

 彼女は本を開き、読書を再開した。エレナは拳をプルプルと震わせる。

「こ、この…」

「まあまあ…。団長、俺一人で行きます」

「う~ん…そうか。わかった。じゃあ…そうしよう」

 二人を残し、図書館を出た。向かう先は魔法の装備防具屋、略して魔装具屋だ。まずは広場に向かい、マップを確認する。三カ所あるようだ。それらを全部回ることにした。一カ所目は近くの大きな魔装具屋だ。一つ一つ、見て回るのも大変なので、店員に聞くことにした。トゲトゲの鎧についたほこりを払っているおじいさんだ。

「漆黒の鎧…。聞いたことないねえ」

「そうですか…」

「それよりお兄さん。この刃の鎧なんてどう? 安くしとくよ」

「い、いえ。結構です」

 トゲトゲが見てて痛々しい。相手ではなく自分が怪我しそうだ。

 ここにはないか。次だな。

 今度は個人経営の小さな店だった。店主っぽいおばさんが暇そうにしていた。

「漆黒の鎧ねえ…。黒色に塗った鎧じゃダメ?」

「そういうんじゃないと思うんですけど。闇属性の防御魔法が施されたものらしいのですが…」

「知らないねえ」

 ないようだ。次で最後か。

 そこは中くらいの規模の店だった。盾専門店だろうか、色々な盾が並んでいる。装飾がやたら派手な盾があり、一つ百万ゴールドと値段がすごいのもあった。値段のインパクトがあり、ついつい眺めることに時間を取られていると、客が店に入ってくる。それは見知った顔だった。

 銀髪のショートカットで、機嫌が悪いのかムスッとした顔をしている。頭には黒のリボン。着ているのは花柄のレースのスカートで、きれいな足を見せている格好なので、意外だった。

「ペレットさん…」

「あなたは…ハントさん」

 会ったそうそう、不愉快そうな目を向けてきた。嫌な相手に出会ってしまったと言わんばかりだ。同じクラスの仲間なので、一応声をかける。

「奇遇だね。どうしてここに?」

「別に。盾を見にきただけ」

「そ、そう」

 話しかけるなオーラが漂ってきたので、会話を打ち切った。

 ここにもなさそうだな。盾専門店だし…。はあ~。やっぱりないか。

「あの。なにしにきたの?」

「わっ!」

 後ろから声をかけられて、驚くハント。

 まだいたのかよ。てっきり…。

「いや。ちょっと鎧を探しにね」

「鎧?」

 不快感が増したのか、目を細めた。

「どうして鎧なんか? 騎士は盾でしょう? しかもここは盾専門店よ」

「いや…」

「はっきり言っていい?」

「え?」

「団長に気に入られているみたいだけど、あなたみたいな人がいたら迷惑なのよ。盾術使えないなら、辞めてくれない?」

「あ…いや、俺は…」

 頭がグラングランした。自分でも思っていることをずばり指摘され、嫌な気分が胸の中に広がっていく。

「団長だって暇じゃないのよ? あなたなんかに構ってて、団長個人にも仕事があるはず。そのこと少しでも考えたことあるわけ?」

「そ、それは…」

「とにかく、団長にこれ以上、迷惑かけないでよね」

 それじゃあ、と彼女は一方的に言葉をぶつけたあと、離れていった。

 な、なんだよ、あいつ…。そりゃあ俺だって、そんなことぐらいわかってる。でも、彼女が一緒にって…。くそっ!

 漆黒の鎧、そのことを店員に聞く予定だったが、その場から離れたくて店を出た。人にぶつかりながら、たどり着いた先は広場のベンチだった。ハントはそこで暗い気持ちになり、座った。頭の中をグルグル回るのは、先ほど彼女に言われた辛らつなセリフだった。

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