14-7
佐嶋が宣言した通り、日本人と思わしき三人組に対する攻撃が集中しているように思える。が、そこに火線が集中すると判明している分、対応はしやすい。網屋は冷静に対処する。彼等に向けられた銃口が火を吹くよりも一歩早く、敵のトリガーに掛けた指が動くよりも一瞬早く。
網屋が彼等を守っているという事実を、三人が気付くのに時間は掛からない。姿勢を低くしながら中川路が口を開いた。
「ありがとう、貴方は警察の人?」
「警察から委託を受けている民間です。あと、日本語で大丈夫ですよ」
英語に対し日本語で返す。ただし、応戦しながらだが。耳障りな発砲音が四方八方からこだまする。
「落ち着いたら事情を聞かせて下さい。とりあえず、この場を掃討します」
死なない程度に外傷を負ったテロリストを、警察が手際よく抑える。テロリスト側もこれだけの人数が詰めているとは思っていなかったのだろう。ごく一部を除いて次々と捕えられてゆく。
その「ごく一部」は、やはり顔を隠している連中だった。
リーダー格と思わしき人物が取り押さえられながら喚く。
「なんでだ? どうして?」
言葉を投げる相手は警察ではなく、仲間内だ。疑問符をぶつけられた覆面の男達はそれに答えず、形勢が不利と見るや素早く外へ出ていった。
銃撃戦は収まった、ように見える。しかし、警察も佐嶋達も警戒を緩めない。
「ヘンリー、外の様子は」
『一隻張り付いた。他もすぐに突入してくる』
「ボルド、どこまで行った」
『メインデッキ左舷にもう少しで到達します』
「抑えられるだけ抑えろ。この状況だ、ある程度は沈めて構わねぇ」
『了解』
短く返答するボルド。
彼は短機関銃を両手に構えたまま階段を駆け下りていた。窓から敵の後続船舶を目視で確認。最初に接舷してきた部隊は既に突入している。
『ボルド、階段を降りたら左へ。そこの廊下で接敵する』
ヘンリーの指示はいつも的確だ。ボルドは微塵も彼の指示を疑わない。ここ最近、頻繁にコンビを組んで仕事をしているというのもあるだろう。彼が接敵する、と言ったならそれは確実であるし、どれくらいの時間と距離で接敵にまで至るのかも皮膚感覚として分かっている。
だから、ボルドは速度を緩めぬまま左に曲がった。燕尾服の裾が翻って、背後の空気を裂く。
躊躇いもせず短機関銃のトリガーを引いた。銃口の向く方向は上、天井だ。銃弾の直撃を受け、派手な音を立てて頭上の照明が壊れる。砕けたガラス片が飛び散り、光を受けて乱反射するが、手前から闇に包まれてその輝きを失う。
突入してきたテロリスト部隊の足が一瞬止まる。辺りは闇一色。異常事態だと本能が告げる。これは安寧の闇ではない、と。
しかし、その躊躇いが命取りだった。階段へと戻ったボルドが廊下へ投擲したのはフラッシュバン。少々の間があってから、閃光と轟音が廊下を包む。
耳の奥をかき回すような轟音の残響が消え、何秒か経ってから、非常灯がゆっくりと弱々しい光を灯し始めた。
その薄灯に照らし出されるのは、倒れ伏したテロリスト達。鼓膜と網膜をやられた彼等の呻き声。
廊下の状況を確認したボルドは、すぐ近くの非常ドアを開けて外のデッキへと飛び出した。客船は動いておらず、何隻かの小型船がこちらに接舷しようと船尾側から近付いてきている。
ボルドは背負っていた対戦車擲弾発射器、RPG-29にタンデム弾頭を押し込み、間髪入れずに構え、放つ。強烈なバックブラストがデッキ上の白いテーブルと椅子をなぎ倒す。
真っ直ぐに飛んでゆく弾頭。着弾。少しの間、爆発。船の破片が水面に飛び散る。
沈めたのは一隻だけだ。携行できた弾頭は一つだけ、もう少し持ってくれば良かったと考えたが戻る暇もない。ボルドは再び短機関銃を両手に持って走り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます