12-10
塩野は何回か頭を軽く振ってから、顔を上げた。
高帆の動揺した表情が視界に飛び込んでくる。解体に成功したはずだ、徹底的に切り裂き、要所要所に強力な負荷要因を仕込み、塩野という男の全てを最大の崩壊点から徹底解体したはずだ。
しかし、塩野はそれを乗り切った。いや、一度は崩れているはずなのに。絶望に沈み、己の拠り所を失ったはずなのに。
「高帆さん、びっくりした顔してるね」
塩野は笑顔だった。朗らかな笑顔だった。その笑顔が、心の底からのものでないことは嫌でも分かる。
「
どこにプロテクトを掛けていたのか。こちらがその崩壊点から仕掛けると、そう悟らせる箇所から始まる多重構造解体のどこに綻びがあったというのか。逃れられるはずがないのに。相手がこの高帆應尚であると分かった時点で、罠に嵌っていたはずなのに。
「答え合わせをしたいって顔だね。無理だよ、高帆さんには分からない。だって」
笑顔の質が明確に変化した。
「学生の頃から分かってなかったでしょ?」
しまったと心の中で叫ぶのは高帆。
「オフサイドがなぜ反則になったのかなんて、考えたことなかったでしょ?」
突如、意識が頭の奥から引っ張られるような感触。力が抜ける。思わず、机に力なく肘をついた。
「……言語地雷か!」
「ほらぁ、仕掛けられたことにも気付いてなかった。僕の得意技だって知ってたはずだよ? 僕の地雷はどんなに離れていても、確実に届く。昔から知ってたはずなのに」
塩野の声が頭に響く。そして、悟る。解体していたはずだった自分自身が、逆に解体されていたのだと。制御していたはずの領域に、盲点があったのだと。
壁に寄りかかっていた塩野が、その背中を壁から離し己の両足で立つ。一歩、踏み出される足。
「貴方は僕には勝てない」
もう一歩、こちらに近づく。
「勝てないと分かっていたからこそ、貴方は今ここにいる。誰よりも高帆さん、貴方自身が知っている」
塩野の声が耳に入ってくるたびに全身から強制的に力が抜け、意識が朦朧としてくる。すでに上半身は机に突っ伏し、足に力は入らない。
机の前までやってきた塩野は高帆の髪を掴んで、無理矢理に顔を上げさせた。
「これからやることも、高帆さんなら分かっているでしょう」
「……殺さ、ないで」
死の恐怖が、冷たい刃のように高帆の精神を傷付ける。
塩野は声を上げて笑った。そして、言った。
「殺すなんて、そんな優しいこと……僕が貴方にするとでも思った?」
高帆は叫ぼうとして口を開けたが、声は出てこない。塩野の顔はまるで子供を見守る親のようだ。
塩野の口が開いて言葉を発すると、高帆の顔は恐怖に歪んで、そして。
崩れた。
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