08 メシと土産

08-1

「あのさあ」

「ん?何だノゾミ」

「俺らさあ、なんで男三人でショッピングモールなんて来てるの」

「そりゃ、土産を要求されたからですよ」


 埼玉県羽生市。最近あちらこちらで開けた土地を蹂躙している大型ショッピングモールの一つ。

 そのエントランスで、相田と、網屋と、シグルドは三人揃って立っていた。


 時間にして午前十一時。平日であるため人の姿はまばら。レストラン街が開店を始める時間でもある。


「まず、どうすりゃいいんだ」

「メシですね」


 言い切る相田。


「クソもヘッタクレもありません。まずはメシです」

「いやお前、車の中でおにぎり四つ食ったろ?」

「別腹です。あんなの、慣らし運転ですよ」

「…………言っていることがよく分からないんだが、ノゾミ、俺は日本語が分からなくなったのかな」

「大丈夫だ、問題無い。俺もよく分からん」




 事の発端は、昨晩のの指名手配犯捕縛直後である。

 シグルドをターミナル駅の近くにある高級ホテルに送る途中で、話題に出た『渡された資料の最後のページ』。そこに事細かに指定されていたのは、仲間内が要求する日本土産の一覧であった。


 うち一つは、東京の両国国技館まで赴かないことには入手できない特殊仕様の『手ぬぐい』。資料の注意書きには『和装で相撲観戦することにより、三種のうち一種の無料入手が可能』とあったが、その着物をどうやって入手するのか。買えということなのか。しかも、三種全て手に入れるためには三回観戦しなければならないわけで、その案は勿論ボツだ。三人で観戦するというのもボツだ。

 こちらは、空港に行く前に寄って買えば良いとして。


 網屋とシグルドの師匠である佐嶋からの指定は『とりあえず地酒』。こちらは、熊谷市の隣である深谷市に酒蔵が複数あるため、ここに来る前に購入済みである。


 問題は残りの二つ。

 一つは『わさび漬け。ただし、大きい数の子が入ってる美味しいやつ』

 もう一つは。


 ここで、昨晩の様子を一部再現する。



「ヘンリーの土産、何だったっけ? えーと、サイ、サイカノ……」

「彩◯の宝石だろ」

「それそれ。どこで売ってんのそれ」

「県庁所在地のさいたま市。浦和区だな」

「遠いよ?!」

「え、彩果の◯石なら羽生市のショッピングモールで売ってますよ。車で一時間も掛からないんじゃねーかな」

「相田君! 明日連れてって! お願いします!」



 斯様な訳で、男三人悲しくショッピングモールに立っているのだ。ちなみに、網屋は巻き添えを食っただけである。


「メシ食ってから考えましょう。ね」


 迷わず建物内を進む相田。残り二名は黙って後をついて行く。


「それにしても、なんでこんなに詳しいの相田」

「俺の第二のホームグラウンド、ここっすよ? サーキット近いんですよね」

「……あぁー、なるほど」


 相田が初めてカートに乗ったサーキットは、ここ羽生市にある。それならば納得というものだが、相田は明らかにメシ目当てでここにいる。足取りに全く迷いが無いのだ。相田がそこまで迷い無く行動している時は、十中八九、メシだ。

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