20 お茶会・白

 テラスには、太陽の光を遮る屋根があったはずだ。

 だが、何だこれは?

 眩しい。眩しすぎる。来て早々に目を開けていられないほどの眩しさが俺を襲った――


 ―― わけでもなく。


「あっ、スイト君。こんにちは、だね。わあ、お菓子がいっぱいだー」


 俺とクロさんを出迎えたのは、テンション高めのハルカさんだった。

 エレベーターがあったおかげで、20分ほどで城の端から城の上部にあるテラスまで移動できた。使わなければ脅威の50分もかかるという階段のぼりを回避できた事を、クロさんに感謝しなければ。

 それはそうと。

 俺は下着と肌着以外、昨日に引き続き制服のままなのだが、ハルカさんは真っ白なローブというかケープというか、ポンチョらしき上着に身を包んでいた。

 それだけではない。どうやらスカートや靴まで新調したようで、真っ白で少しボリュームのあるスカートと、ハルカさんの髪色と同じ栗色のブーツが見える。それに加えて帽子まであるようで、服にそれほど合わせる気が無いのか、藍色のキャスケットがテーブルに置かれて……。


 あ、違った。


「どうでしょうか」


 若干興奮気味に訊ねてきたのは、昨夜とはまた違った趣の服装である女王。ただ真っ白という点は譲らずにいる。

 ゆとりを持たせた布を、腰に巻いた幅広のリボンで留めたデザインのワンピース。ノースリーブに近い袖にはフリルがあしらわれ、リボンはかなり薄い水色だが、それ以外が真っ白なので分かりやすい。バラ模様も入った網目状のタイツも白で、やはり真っ白な印象だった。


 ただ、昨夜と同じく藍色のキャスケットを持ってきていた。今はかぶっていないのだが、その頭上には、昨日見たような黒の王冠ではなく、小さな白い王冠がちょこんと載せられている。

 ミルククラウンのような、宝石らしい宝石の付いていない王冠。

 滑らかな曲線を描く王冠は光沢があり、よく磨かれているように思えた。


 それにしても、どうでしょう、か。

 普通に考えれば、これは容姿について訊ねているという事だろうな。


「似合っていると思いますよ」


 俺は微笑みも混ぜてそう返してみる。すると、女王はあからさまに目を輝かせて、頬を赤く染めた。それからイスに座りなおし、上機嫌で太股辺りに置いた両手をこねる。

 そういえば、レース製の白い手袋をしているようだ。袖がピエロを思わせるようなギザギザで、腰のリボンと同じ色合いの紐で手首が留められている。

 女王というよりも、完全にお姫様のようなスタイルなのだが、それは言わなくても良い事か。実際似合っているわけだし。


「良いなー。私、褒められなかったよ?」

「あ、いや。ハルカさん、その服は?」

「これ? 何かね、昨日の夜にイキナリ部屋にイユちゃんが来て、採寸して行ったの。何だったのかなって思ったけど、今朝手渡されてね。どう?」

「えっと……」


 ポンチョ? の中は、どうやら女王と似たようなデザインの服だったらしい。ただこちらは水色ではなく桃色で、バラではなく桜である。

 なるほど。女王の着ている服もイユが作った物なのか。で、どうせならと双子コーデになった、と。


「似合うと思う」

「わーい。でも驚いたよ。まさか女王様と同じデザインだなんてね」

「ええ。私も今朝、イユ様に渡されたのですが……どこでサイズを測られたのでしょうか?」


 あ、たしかに。


 とは言わないぞ。あいつが俺の体格に合わせた服をプレゼントするなんてかなりあったからな。イユにはほとんど触らせたことも無いのに、いつもジャストサイズだったのでもう驚かないのだ。

 どうやら、目測でやっているらしい。

 ただ、気安い関係であればきちんと測るらしく、性別や年齢が同じであるハルカさんは目測にしなかったのだろう。


 俺か?


 いや、さすがに異性に身体を触らせられるほど度胸はない。

 たとえサイズというか、身体の形全てが知られているようなものだとしても、そこは譲れない。


「スイト君は、イユちゃんに服、作ってもらわなくて良いの?」

「勝手に作られる」

「えっ。あ、そう?」


 漂い始めた哀愁に、ハルカさんはテンションが落ち着いたらしく女王の隣に座る。

 お茶会なのに肝心のお茶が無いのだが、とりあえず俺とクロさんの運んだボンボンショコラやクッキーに手を伸ばし始めた。

 ちなみに、クロさんが置いたケーキを見てまたテンションが上がったらしく、機能の緊張は何処へ行ったのやら。ハルカさんは女王と話に花を咲かせていた。

 ああ、肝心のお茶だけど、多分ルディが持って来ると思う。


「お待たせいたしました!」


 ほらな。

 クロさんと入れ替わるように入ってきたルディは、ワゴンにティーセットを大量に載せていた。


「苦めの紅茶で頼む。ホットで」

「あ、はい」

「あ、私も苦め。でも、ちょっぴり甘いといいかも。適度にあったかいのをお願いします」

「承知いたしました」

「私は緑茶を。そうですね、冷たい方で」

「はい、すぐに」


 え、緑茶あるのか?

 見ると、ガラスのポットには、見覚えのあるにごりの入った緑色の液体が入っていた。

 そこで、致命的な問題に気が付いた。


「これといって話題が無いような」

「それもそうだね。あ、そうだ。ルディ君と女王様って、髪の色が同じだよね」


 それは同じホワイト種だから、って、ハルカさんは知らないのか。


「私とルディは、血統は違いますが、種族は同じなのです」

「えっと?」

「僕がラビリス族。一族にウサギを混ぜたような容姿を持つ、獣人です。獣人は魔族の仲でも特に多く、その姿や特技も異なります。ラビリスであれば魔法の才能に特化した者が生まれやすい。ケットシーであれば身体能力に特化した者が生まれやすい、など」

「魔王は唯一無二の存在であるため、他種族と言い分ける事が無い分種族名しかありませんが」

「だからこそ、陛下と同じ種族であるホワイト種は、とても希少な存在です。少なくともこのアヴァロニア城下では、僕と陛下しかおりません。そもそもホワイト種は、代々の魔王陛下以外が『白の森』から出ませんからね。数も少ないわけです」

「白の森?」

「あ、はい。普通の樹木は緑色の葉を付けますよね。その葉の部分も幹の部分も、どちらも白い樹木で構成された森の事です。他にも一年中紅葉を楽しめる紅の森、森一体が常に水浸しになっている青の森などがあります。ただし、森には必ずモンスターがいます」


 白の森、ね。ホワイト種の大部分がそこで暮らしているのか。

 じゃあ、ルディは何故こちらにいるのだろうか。女王と2人しか同じ種族はいないと言っていたから、親兄弟なんかは此処にいないという事だろう。


「ね、ね。白の反対で、黒の森とか無いのかな。何か怪しいきのこがありそうな」


 何気無く、ハルカさんがルディに訊ねた。

 すると、ルディは一瞬だけ動きを止めて、挙動不審に陥る。

 あー、これは。


「黒の森も存在します。ただ、超強力なモンスターで溢れ返り、時には不死のモンスターもいるとされる、年中暗い森です。木々の葉は無く、草花は枯れ、川は干上がっていると聞きます」


 女王の顔は暗く、これ以上話を続けたく無さそうに見えた。

 十中八九、ルディの出自に関係あるな。


「黒の森は危険ですが、その隣の白の森はモンスターの発生率が低いですよ。木の根から葉、花に至るまで全てが白い森なのです。夜でも明るいため、とても神聖視されていますね。もっとも、どちらの森も入るには私の許可が必要ですが」

「黒の森は、それはもう危険で獰猛なモンスターがはびこっています。それに比べ白の森はほとんどモンスターはいませんが、その代わり、白の一族という希少な種族が固まって住んでおり、普段は彼等を守る為の結界が張られているので、物理的に進入する方法は無いのです」

「……ムリヤリ入ったらどうなる」

「特殊な理由、もしくは超絶ラッキーで偶然入ってしまったなどの理由でなければ、罪人に認定されて一定期間を牢屋で過ごすか、もしくは罰金、理由によっては死刑です」


 うわ、黒も白も一生行きたくないな。

 というか、森に入っただけで死刑とか。偶然入っただけならセーフっていうのは優しいけどさ。


「あ、えっと。ねえ、魔族の人達って、髪の色で何か違うの?」

「一概には言えませんが、そうですね。ホワイト種はかなり希少ですし、ラッサクレット種は戦闘向きの者が多いです。あ、ブレーミ種は寒さに強いですよ」

「ラッサクレット……」

「毛並みが赤い種族です。毛色が鮮やかであるほど力が強く好戦的。逆にくすんでいる者はその度合によって力が弱まります。主に他種族との間に生まれた子が、両親どちらの能力も受け継ぐ代わりに、種族本来の力から遠ざかっていくようですね。これはどの種族にも言える事で、生まれた頃から毛色や髪色がくすんでいる者は差別されやすいようです」

「じゃあ、ホワイト種が他種族との間に子供を作ると、どんな髪色の子が生まれるの?」

「くすんだ、というよりも、ホワイト種では無い親の髪色に、白を混ぜた色ですね。ホワイト種は純血の者が多いようですから、ホワイト種、他種族両方の能力を持って生まれやすいようです」


 女王は、白の森から話題が離れた途端に、とても楽しそうに語り始めた。やはり何か嫌な思い出でもあるのだろう。あえてそれを追求はしないが。

 それにしても、何気に差別対象者がいる事を言っていたな。

 モンスターなどという脅威があるこの世界では、戦う力が無いというのは死活問題だ。仲間として一緒に戦うとなると、どうしても力が強い者、もしくは知恵に長けた者を求めるのは仕方ない事だろう。

 種族全体で頭が良い種族もいるような事を言っていたからな。となれば、そのハーフやクォーターは知能が低くなって生まれてくると考えられる。となれば、元々知能が高い代わりに戦闘能力が無い種族の出だとすると……あ、最悪だわ。


 戦う力は無い、知能も低い。見た目で分からないならまだ良いが、周囲と比べて髪や毛色が違うため分かりやすい。もとい、判別しやすい。

 それとこれは、俺がいた世界でも通じることなのだが。

 人間とは、他人を見下す事で、自身が安全な立ち位置にいると思いこみたい生物である。


 イジメ、差別、そういったものは、本能的に引き起こされているのだろう。

 人間、もとい生物である限り、それぞれが何かしらの才能に秀でているはずだ。だが、それを見つけられない者はいるし、見つけられているとしてもその才能をひがむ者が必ず存在する。

 ま、これは仕方ない事だ。こう言っては酷いように聞こえるかもしれないが、人間は、それなりの知恵と感情を持ってしまった。だからこそ、他人との繋がりを求める。

 その繋がりが、時に周囲から批難されるようなものであっても。

 それによって自分がどのような者なのかを実感するというのは、一種の歓びである。誰しも他人から自分がどう見られているのかは気になるし、知りたいはずだ。


 もっとも、これはただの持論だ。

 俺自身、俺という人間がどのように見られているのか、さっぱり分からないからな。ほら、親が変な事もつい昨日気付いたばかりだし。

 とまあ、何か宗教じみてきたし、話は終わりにしよう。

 別に誰かを諭したいわけじゃないしな。


「色んな種族があるんだね……。ねえスイト君。レベルが上がったら、旅に出てみない?」

「その色んな種族が見たいから?」

「うん、そう! それに、私達は何か使命があるから召喚されたでしょ。で、その使命を果たさないと帰れない。なら、その使命を探すのにも役立つと思うの!」


 ああ、なるほど。

 俺達を召喚したのが人族だろうと魔族だろうと、召喚された者には使命がある。その使命を達成するか、もしくは異世界を渡る術でも見つけ出さないと、元の世界には帰れない、か。

 たしかに、使命が何なのかを探すにしても、使命関係無く帰還の方法を探すにしても、旅に出た方が良いだろう。いくらここが魔族領地の中心だからって、こもっているのと外に出るのとじゃ手に入る情報量に差が生じる。


「なあ、旅に出るとして、最低。いや、これだけあれば余裕だといえるレベルはいくつだ?」

「……あ、その」


 さっきは饒舌に語っていた女王だが、途端に目を逸らし、口をつぐむ。

 まあ、答えなんて分かりきっているから、この態度も想定内だ。

 備えあれば憂いなし、なんていうことわざはあるが、実際にはどうしようもない事だってあるのだ。

 どれだけレベルを上げても、不測の事態は起こる。

 寝ている間に食われる、とかな。


「ですが、各地を旅する商人と、その護衛を任される冒険者でしたら、50レベルほどもあれば旅路はかなり楽だとか」


 暗くなった雰囲気を払うように、ルディがフォローに入ってきた。

 冒険者、いるのか。


「レベル50ね。この辺りでそこまで経験値を稼げる場所ってあるのか?」

「……な、無いですが。ここからビードゥルヴェに乗って一週間ほど進んだ場所なら、レベル50まで稼げるかと」

「ビー……」

「ビードゥルヴェ、です。えっと、鳥系魔物の中でも、主に足が発達した生物で、最高時速は400キロで走れますから」


 ちょっと待て。俺の世界最速の鳥よか速いじゃん。

 しかも地上でだ。俺達の世界の地上最速は、何か鹿っぽい動物だった気がする。でもそれでも時速100キロ未満だったはずだ。

 物凄く、速い。


「うーん、足が速い鳥って事は、ダチョウみたいな感じかな」

「ああ、たしかに、足が発達した鳥ならそんな感じかもしれない」

「そうだ。どうせなら、明日はビードに乗ってレベルを上げに行ってはいかがでしょう? たくさんいますから、気に入る子もいるはずです」


 ビード。あ、ビードゥルヴェの省略形か。

 いちいちビードゥルヴェ、なんて言っていたら舌を噛みそうになると思っていたら、省略していたのか。それなら納得。


「女王様も気に入った子が?」

「あ、いえ。私は外へ出るとしても馬車でですので、城で飼われているビードは遠目にしか見た事が無いのです。虹のように本当にたくさんの色の子がいて、面白いですよ」

「じゃあ、一緒に見に行きましょうよ! かわいいと思いますよ! 見た事無いですけど」

「!」


 女王の空色の瞳が輝く。

 あ、そうだった。このお茶会って元々友達作りのための会だったな。

 そういや敬語を外すように言ってみたのだったか。

 今の所、全然外せてないのだが。まあ、外したくても外せないような人間っているよな。敬語がそのままタメ口みたいな人。


「あ、あの。私もハルカ様達と一緒に行っても良いのですか?」

「? 勿論! というか、もうハルカで良いよ。女王様」

「わ、私は。えと。フィオルでお願いします。世話役からはそう呼ばれているのです」

「そうなんだ。うん、分かった。よろしくね、フィオルちゃん」

「ふぃ、フィオル、ちゃん……」


 クロさんが作っていたらしいコーヒーゼリーを口に放り込みながら、真っ赤にして俯いた女王の顔は、とても嬉しそうに見えた。

 300歳を越えていても、友達が出来る感動はかなり貴重という事らしい。


 当初は魔族がどのような性質を持つ種族なのか、またルディのような獣人はどんな人達なのかを聞きたかったはずなのだが、それは本とかルディの話とか、先程女王の話にちらっと出て来た事で何と無くでも理解出来た気がする。

 魔族とは、高い魔力濃度の中でも問題無く暮らす事の出来る者達の総称である事。

 魔族も人間である。人族の容姿をベースとして、濃い魔力の中で生活する内に、住んでいる地形によってその姿を変化させていった種族。


 魔王はどうやらかなりの寿命があるようだ。彼女が何代目なのかは分からないが、未だに人族と同じ容姿であるのは、他の種族よりも随分と世代交代が少ないせいだと考える。

 人に限らず、生物は世代交代を繰り返しながら時代と世界に合わせた進化を遂げる。人間が猿から進化して、四足歩行から二足歩行へ。言葉を話したり、道具を作ったり、文字を書いたりすようになった。それと同じなのだ。

 要するに、不老不死のような存在であれば、世代交代は起きないために進化はほとんど起きないということだ。寿命が長いというのはそれだけで進化の域にあるのだろうが。

 ともかく、魔王が人族に近い容姿なのは、それだけ純血なのだろうな、という事だ。


 もっとも、ここまで少し語ってみたものの、それがどうした、って話である。

 昨日借りた種族に関する本を読めば正解が分かるかもしれないが、実を言うとそれほど気にならない。

 だって、それって勇者の仕事っぽいし。

 どうやら魔王は勇者が現れる時に世代交代するようだけど、必ずというわけではないようだし。

 現時点で知っておく理由が無い。興味が無いのだから、必要性が無ければ後回しにしたい。

 それよりも、実用性のある魔法の使用方法が知りたいくらいだ。

 それは明日教えてもらうがな。


「で、女王」

「フィオル、です」

「……フィオル。そのビードとやらを見に行くのは、この茶会のすぐ後でも良いのか?」

「ええ、構いません」


 にこにこと、容姿に似合う子供っぽい笑顔で応対するじょOh……フィオル。

 にしてもえらくご機嫌だな。俺が色々と考えている間に、ハルカさんとトークが盛り上がりデモしたのだろうか。

 何処と無く疎外感を覚えたので、ルディの方を見やると、彼も夢中でケーキを頬張っていた。一口食べる毎にふんわりと柔らかな笑みを浮かべている。

 あ、あのケーキは俺が作ったロールケーキじゃん!


「ルディ、美味いか?」

「はい! このちょっと酸味のあるクリームとふわっふわの生地が好きです!」


 口の端にクリームが付いているのだが、本当に幸せそうな顔をするなぁ。指摘したら崩れそうで怖くなるぞ、これ。


「うーん。マーレルの作ったお菓子ではない気がします。でもクロッチェでもない。新しい子が入ってきたのかしら。うーん、んぅー?」


 フィオルも何やら、ケーキを食べながら唸っている。


「ん? このパウンドケーキって……」


 どうやらハルカさんは気付いたようで、俺と皿に乗せたケーキを見比べている。

 隠しても仕方ないし、ハッキリ言っておくか。


「ケーキは俺が作った」

「わあ、やっぱり! えへへ。後で作ってもらえないか相談したかったのだけれど、言う必要がなくなっちゃったね」


 驚くよりも嬉しい方が大きいらしく、ハルカさんは食べるペースを速める。ショートケーキとロールケーキも加えて、楽しそうに笑顔でフォークを躍らせた。

 一方、ルディとフィオルは、無言で俺とケーキを見比べて、手を完全に止めていた。


「あの。これ」

「マーレルさんにお願いして、一緒に作った。ちなみにチョコレート関係の物は全部マーレルさんが、冷たいスイーツはクロッチェさんが。俺が作ったのはケーキ3種です」


 ルディはそれを聞いてキラキラと目を輝かせながら紅茶を淹れ直し始めた。

 フィオルはしばらく無言だったが、ハルカさんが何度も話しかけると徐々に元に戻って行った。

 まああれだ。好評で何よりだよ。


「どうぞ」

「ん。……あ、美味い」

「ルディ、私にも紅茶を!」

「あ、ルディ君、私もお願いしていいかな」

「かしこまりました」


 ルディがこの2日で最も活き活きしているように見えたのは、気のせいではないだろう。

 俺が作ったお菓子を中心に食べつつ、お茶淹れ係に徹し始めたルディ。

 俺が作ったケーキがあると知ってから、ずっと笑顔のままのハルカさん。

 一旦動きは止まったものの、すっかり元の調子で優雅にお茶を楽しんでいるフィオル。

 全種類のスイーツを少量ずつ食べて、種類だけでもコンプリートしようと躍起になる俺。

 この4人によるお茶会は続いていく。

 それはもう、お菓子が全部無くなるまで。

 ちなみに、食べるペースが終始変わらなかった、というかむしろ速まった事もあり、お喋りを含め2時間も掛からずにお茶会は終了する。

 立つと若干腹が重たかったのだが、歩けないほどでもなかったので、腹ごなしも兼ねて他の連中を呼びに回ることにした。


 ビードゥルヴェ、か。

 かわいいと良いな。

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