第7話  死人に口なし

私が懊悩と苦難の末に見出した言葉は、少なからぬ人々を救い、導いてきた。

私を信じて続いてくれた者達の行動は、より多くの人を救い、支えてきた。


そんな私も割とあっさり死んだ。

まず驚いたのは、死後世界が存在すること。次には、私が地獄に落とされたことだった。


納得できずにいるうちに、閻魔大王の前に引き出された。


「それじゃ、舌抜きますんで。」


閻魔大王はサラっと言い放って、ニッパーを取り出しながら続けた。


「実際、勇気が要るんですよね。あなたみたいな嘘つきをやるのは。解りきった事実を言うなら誰でもできますが、嘘は嘘だけに実がない。保障が無い。けれど、誰も想像もしていない物を、考えもつかない方法を、とりあえず信じてやってみないことには、どうにも前に進めないことってこともある。」


「大変だったでしょう?バカにされたり攻撃されたり。それでも、いつか世の為になると信じて曲げなかった。石を投げられようが磔にされようが曲げなかった。大した勇気だ。夢のような嘘を提唱し、それを最後まで引き受ける・・・いつだって人の流れを作るのは『勇気ある最初の嘘つき』というわけですな・・・ほぅ、これは凄い動員数だ。」


ポンと額に何かの判子が押された。


「自殺された方がよく仰られるんですよ。自分でも救われるような物語を本気で語ってくれる人がいればよかった、と。まぁ、どこの世もそんなものなのですが・・・そこで、」


閻魔大王は巨大な腕で私を掴んだ。


「勇気ある嘘つきの舌は、次に生まれてくる人に回すことになっています。」


「は?!」


唖然とした瞬間、口の中でパチンっという音がした。


「お疲れ様でした。解脱届作りますから、傷口をこれで揉んで待っていてください。」


言いながら、閻魔大王は舌を手際よく容器に入れると、札をつけて鬼に運ばせた。


「よく言うでしょ?『最初に言葉ありき』と。」


そういう意味ではない!


舌を抜かれて文句も言えず、私は天国へ送り出された。


以上、本文800字

以下、ことわざ


嘘をつかねば仏になれぬ・・・「嘘も方便」の類義語。多くの人を救い導くには、方便としての嘘も必要、ということ。適当な説教をした僧に纏わる説話は多くあるが、割とむごい罰を受けていることが多いような・・・。


嘘も方便・・・その目的をとげるためには、時にはうそをつくことも必要だ。(明鏡国語辞典より)


口は禍の門・・・何げなく言ったことばが災難を招くことがあるので、話すことには十分に注意せよということ。口は禍のもと。(明鏡国語辞典より)


パンドラの箱・・・ギリシア神話で、ゼウスがあらゆる悪と禍いを封じ込めてパンドラに持たせた箱。パンドラが好奇心からこれを開いたところ、すべての悪と禍いが地上に飛び出したが、急いでふたを閉めたので希望だけが箱の底に残ったという。(明鏡国語辞典より 災い→禍い、に変えています)

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