第96話『この町に自分が働ける場所ないですか?』
「他国にはそういう文化があると聞いておりましたが……まさか自分がソレにスカウトされていたとは思ってなかったのです……」
「こちらこそ確認を怠って不快な思いをさせてしまい誠に申し訳なく……」
誤解が解けたダスクと店長は和解した。
スピーディーに納得してくれてよかったよかった。
これが円満な解決なのかは知らんけど。
双方が合意しているからよしとしよう。
結論として、ダスクは特殊銭湯で働かないそうだ。
まあ、ですよねーって感じなので異論はない。
店長は今後フワッとした言い回しでスカウトしないように。
◇◇◇◇◇
「ところで、領主であるヒョロイカ様に聞いて頂きたい話があるのですが」
収拾つけたし、さあ施設の見学を……と思っていたらダスクがそんなことを言ってきた。
なんじゃワレ、ワシは忙しいんじゃい! と思ったが、向こうは他国の貴族だし、聖騎士って身分も気になる。
ここは乗ってやるのが吉と判断。
俺たちは店の応接室を借りて顔を突き合わせることになった。
「申し遅れましたが、私はダスクと申します」
煽情的なドレスから簡素な私服に着替えたダスクが自己紹介をしてくる。
ふむ、家名は言ってこないか。
理由は不明だが、やはり立場を隠してニコルコに来たっぽいな。
「此度、私はニコルコの町に屋敷を購入して暮らすことになったのですが……」
「え? 屋敷を購入って、もしかして現金一括払いの?」
「あ、はい、よくご存じで……」
おずおずと答えるダスク。
俺の隣にいるジャードの目が鋭く光った。
まあ、エリート騎士が他国の田舎で屋敷を買って住み始めるとか、ジャードでなくても怪しいと思うわな。
「実はその件、私の連れが有り金の大半を勝手に持ち出して無計画に行なったことでして。おかげで私たちは来週からご飯が食べられるどうかもわからなくなってしまったのです」
「ふむふむ。それは難儀ですな」
俺は適当に頷く。
そこら辺は自己責任だからね。
グーリングオフ? とかいうのをしたいのならジゼルと相談してください。
「いえ、屋敷を手放すことは連れが断固として譲らないので諦めています。なので私は生活のために稼ぎを得ようと思ったのですが、この町には人手を募集している働き口が見当たらなくて……。途方に暮れていたところで声をかけてきたのがあの店長なのです」
…………。
その話を受けて、俺は少しだけ考え込む。
確かに今のニコルコって雇用機会の場が少ないんだよな。
もともとの領民は畑や田んぼを耕してたり家畜を育ててたりする農家ばっかだし。
宿屋とか銭湯は作ったけど、そこら辺の雇用は段階を踏んで慎重に行っている。
つまり、現地で職を探そうと思ったら農業を始めるか、鉱夫、あるいは冒険者くらいしか選択肢がないのだ。
ゴルディオンやシルバリオンたちのように特殊な技能があれば俺のほうで雇い入れたりすることはあるが……。
あれ? これって移民のハードルクッソ高くね?
気軽に引っ越してこれなくね?
これはちょっとどうにかしないといけないかも。
もっと先に予定していた市場の優先度を上げるべきか?
ただ、誘致するにも今のニコルコでどの程度需要あるかわからんからなぁ……。
いろいろな店を集めたけど閑古鳥が鳴いて撤退続出とかなったら目も当てられん。
まあ、それは懸案事項にするとして。
要するにダスクの相談は『この町に自分が働ける場所ないですか?』ってことだった。
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