第85話『栄華を誇っていた皇国』




◇◇◇◇◇



 ヘイヘーイ、訊いてきたぜ。

 結果からいうと、もうとっくにそんな国はないらしい。

 エルブレッヘン皇国は300年~400年くらい前に滅んだ大国ってことだった。


 それくらい経ってるならベルナデットが王族の血を引いてても関係ないかな。

 今も残ってる国だと厄介な事情が絡んでる可能性もあったが。

 すでに消滅してる国ならルーツがそうでしたってだけの話で済むと思う。


 恐らく没落後に生き残った先祖がどこかの過程で奴隷身分に落ちたのだろう。


 盛者必衰の理をまざまざと見せつけられたようで複雑な気持ちになった。





『じろぉ、みてみて~! 奥にいっぱいあったよ~!』


 俺が戻ると両腕に棺を山ほど抱え込んだブラックドラゴンがいた。

 うわぁ、マジでいっぱいあるんだけど。

 いくつあるんだろ。


 ひぃ、ふぅ、みぃ……。


 たくさん……?


「ひいいいいいっ! お、おのれ邪悪な黒龍め! ベルナデット様、お逃げください! ここは某が殿となって時間を稼ぎますのでぇっ!」


 イレーヌはブラックドラゴンにビビリながら、それでも騎士としての役目を果たすため戦わなくてもいい相手と懸命に戦っていた。


 ブラックドラゴンはポカポカと鱗を殴られているが、それを埃でも払ってくれてるのかなぁといった具合でスルーしていた。


 必死の形相のイレーヌとの対比がカオスだ……。

 殴ってる手が痛そうだし、早く止めてやろう。

 ほらほら、大丈夫だから。


 あんた、鎧着てるけど武器は持ってないでしょ。


 落ち着いて落ち着いて。





 ドラゴンが無害であることを説明したらイレーヌは露骨に胡散臭そうな顔になった。


「邪黒龍を手懐けているとは……其方はもしや魔王なのか?」


 違うよ? 違うよ? 俺は勇者だよ?

 それにブラックドラゴンは話してみたらけっこう茶目っ気のあるいいやつだよ。

 話せるの俺だけだけど。


 そういえば数百年前にも魔王はいたんだね。

 同じやつかな?

 違うやつなのかな? 


 魔王のシステムってどうなってんだろ。


 世代交代なのか、復活するのか、新しくそこら辺から生えてくるのか……。


「ジロー様は常識を超越した最強の勇者様なのですよ」


「なるほど、そうなのですね!」


 ベルナデットが説得するとイレーヌは驚くほど速やかに納得した。


 騎士というのは王族が言ったら何でも信じる生き物らしい。






「あの栄華を誇っていた皇国が滅んだ……か……俄かには信じがたいが……。しかし、王家の血筋であられるベルナデット様が奴隷になってるし……。というか、勇者殿は転移スキルを普通に使ってるし……ドラゴンも手懐けてるし。ありえなくもない……? いや、訳の分からないことだらけだ……ッ!」



 皇国の現在を教えると、イレーヌは項垂れてブツブツ言い出した。


 やはり相当なショックだったのだろう。


 まあ、仕方ないか。

 いきなり未来の世界にタイムスリップして自分の国がもうないって言われたらね。

 半分くらい俺の行動に関して呟いてた気もするけど。


「これからあんたはどうするんだ?」


「某は……皇国王家に剣を捧げた騎士だ。よって、王家の子孫であられるベルナデット様の傍に置いて頂きたいと思います」


 イレーヌが仕えていた主と国は消えてしまった。


 騎士だった彼女にとって、それは存在意義を失ったのと同義だろう。


 自分の役目を唐突になくした彼女の現状は、勇者パーティを追い出されたジジイ連中と少しだけ似ているかもしれない。


「ジロー様、どうされますか?」


「え? ベルナデットが決めていいぞ?」


「わたしはジロー様の指示に従います。わたしはジロー様の奴隷ですので」


「じゃあ、部下にしてやってくれよ」


「御意」


 御意って、どこでそんな単語覚えてきたの?

 ジジイ連中の影響だろうか?

 まあいいんだけど。


 ちょうどベルナデットにも直属の部下をつけようと思ってたところだったし。

 騎士の人数も増やしたかったから一石二鳥だね。

 しかし、どっかから騎士が来ないかなって思ってたけど、まさか過去から来るとはなぁ……。





 その後、残りの騎士たちも順番に棺から解放していった。

 いっぱいあったからすごく時間かかったよ。

 ブラックドラゴンもなぜか一緒になって見ていたので、騎士が目覚めるたび悲鳴が上がってクソ迷惑でした。


 ちなみに中に入っていたのはすべて女性の獣人だった。


 イレーヌが率いていたのは女性の獣人部隊だったみたい。


「イレーヌ以下、ケイモノリウス・ヴィルヴィールヴァレンティアン隊105名。エルブレッヘン皇国王家の後継者であられるベルナデット様の指揮下に入ります!」


 綺麗に整列して乱れぬ動作でビシッと敬礼する獣人騎士たち。

 おお、壮観だなぁ……。

 ニコルコの田舎騎士とは練度がまったく違うね。


 一挙一動で伝わってきたぜ。


 こいつらを見本に既存の騎士たちも励んでもらいたいところだ。





 本日の成果。

 戦力として、ベルナデット直属の騎士が100人ほど配下に加わった。

 ニコルコの騎士っていうよりベルナデットの騎士って感じなのが少し不安だけど……。


 ベルナデットを旗印に皇国を再建するとか言い出さないよな?



「ジロー様、その辺りはわたしにお任せください」


「え? あ、うん? そう?」


 任せろって、何をどうするんだろう?


 よくわからないまま反射的に返事をしてしまったが。





 翌日。



「「「「「「「「「「ジロー様ッ! バンザイッ!」」」」」」」」」」



 満面の笑みを浮かべたベルナデットと、見事に教育を受けた100余名の騎士がそこにいた。


 どうやらベルナデットが一晩でやってくれたらしい……。

 


 ふえぇ、逆に傷口を広げたような気がしてままならないよぉ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る