第61話『古代種ブラックドラゴン』



 金鉱が見つかった山の一角にて。


「では、ここら辺を掘って行こうと思う」


「領主様は何で温泉とかいうのにこだわるんだっぺ? 身体を洗うなら、たまに水浴びすれば十分だべさ?」


「お前ら、ちゃんと毎日身体洗ってるか?」


「布で拭ったりはしてるだよ」


「風呂の喜びを知ったらもう戻れないからな。たっぷり身体に教え込んでやるよ……」


「ひえええ……」


 俺と話をした女性騎士は震えあがった。

 おい、恐れるところは何もないだろ。





「はぁ~どっこいしょぉ!」


 ズドドドド。

 スキルを用いて岩を掘削していく。

 どんどん深くなっていく穴。作業効率よすぎだろ。


「おお~すごいっぺ!」

「魔法が使えるなんて領主様は都会の人だなぁ」


 騎士たちが感嘆の声を上げる。

 この世界では魔法=都会の認識なのか。


「そうでしょう? そうでしょう? ジロー様はすごいんです!」


 ベルナデットが柔和に微笑む。ニコルコに来てから少し笑顔が戻って来たな。

 大自然が彼女に安らぎを与えたのかもしれない。

 強さと笑顔を兼ね備えたか……。


 彼女はまた一歩成長したようだ。

 よいことである。




「…………」


 ドガガガガガ……。地面を削ってどこまでも。岩を砕いて突き進む。



 ズンズンズン……。

 ドンドンドン……。

 ズシンズシン……。



 ……あれ? 地面を掘る音以外にも振動音が聞こえるような?


「なあ、ベルさん。なんか地面が揺れてねえべか?」

「……? ジロー様が地面を掘っているからでは?」



 ベルナデットたちのそんな会話が聞こえた、その時だった。



『グルオォオォオオオォ! オオォオゥッ――!』



 腹の底にずんと響く重低音――謎の生物の鳴き声が大きく響き渡った。



 ズボッ。ドゴォン。



 穴を掘る作業を中断して周囲を見渡す。

 うわっ、なんじゃありゃ。

 山の側面から鱗に覆われた真っ黒な手が飛び出していた。


 爬虫類っぽい感じのハンドだが……サイズがやばくね?

 畳何枚ぶんだよってくらいデカいんだけど。



『グルラアアアァァァアァアアアァッ――! ゴオォォオォォ――オオッ――』



 バゴーン。ドゴーン。

 揺れる大地。

 パラパラと崩れる小石。


 岩盤をぶち壊し、黒色のドラゴンが山の内側から這い出てきた。


 おふぅ……全長何十メートルあるんだ。


『グオオオォオォオオォォッ……』


 ドラゴンは紅蓮の眼球で俺たちを睨みつけている。

 騎士たちは視線に飲まれて真っ青になっていた。


「うわああ! きっと山のヌシ様だべ! 森を荒らしたから怒ってるんだっぺぇ!」


 山のヌシなのに森を荒らして怒るのか。


「うるさくしてたから目覚めちまったんでねえか!?」


「じゃあ領主様のせい!? ばっちゃの言ってたことはホントだっただぁ!」


「ヌシ様ぁ! オラたちはこの人の言うとおりにしてただけですぅ!」


「ヌシ様。こいつです!」


 あ、薄情者がいるぞ! 何を売り渡そうとしてるんだ!

 てめえらは戻ったら減俸にしてやっからな!




「ヒョロイカ卿、何事ですか!?」


 騒ぎを聞きつけ、ジャードがきた。

 そっちで崩落とかはなかったんだな。

 無事で何より。


「こっちが訊きたいくらいだよ。何がなにやら……」


「あれはドラゴン……それも古代種のブラックドラゴンでしょうか? 伝説上の存在だとばかり思っていましたが……」


「伝説? そんなにすごいのか?」


 そんな魔物の素材を手に入れたらどれくらいの金になるのだろう。


「伝承の通りならアレに打つ手はありません。ブラックドラゴンは魔王すら凌ぐと言われた絶対的な怪物です」


 ほう、あのドラゴンは魔王より強いというのか。


「かつて大陸で栄華を誇っていた大国もブラックドラゴンに太刀打ちできず、数百人の贄を差し出して怒りを鎮めるしかなかったと聞きます」


 贄か……。

 どうしようもなくなったら昨日捕まえたやつらを出そうかね。

 十人くらいで満足してくれるだろうか。


 数百人よりちょっと少ないけど。


「こうなった以上、ニコルコは放棄するしかありませんね……。資源が豊富で手放すには惜しい土地ですが、ここで朽ちるわけには参りません」


 ジャードが眉間に皺を寄せて苦渋に満ちた声を漏らす。

 何言ってんだ。あんなやつ倒してしまえばいいだろうが。

 どうしてモンスターに遠慮してせっかく見つけた宝の山を置いていかねばならんのだ。


 俺は退かぬ媚びぬ省みぬ!



 ビュッ、ビュッ、ビュッ。ばしゃっ。ばしゃっ。



『グルルフフフフ……』



 いつも通り聖水で攻撃。

 だが、ブラックドラゴンは平然と身体を揺らして水気を振るい落としていた。


 …………。


「全然効いてないんだけど!?」


「何をしてるんですか、あなたは……」


「聖水をかけたんだけど」


「ブラックドラゴンは魔族ではなく竜族ですよ。どれだけ純度が高くても聖水に意味はないでしょう? というか、聖水を出せる水魔法も使えたんですか……」


 ジャードがいろんな方向で呆れていた。

 おいおい、マジでか……。

 新事実。そんなん初めて知ったぞ。


 この世界のモンスターって聖水で全部どうにかなると思ってた。


「だったら、直接行くしかねえよなぁ!?」


「……は!? ヒョロイカ卿、何を仰って……?」


 俺は背中に担いでいたツルハシを握りしめる。

 そしてブラックドラゴンに向かって特攻しに行った。


「狩りの時間じゃあああぁぁぁぁあぁっ!」


「お供します!」


 ベルナデットが併走して着いてくる。

 久しぶりのコンビネーションハンティングだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る