第27話『道のりは遠い。』


 デルフィーヌたちに俺の正体と魔王を倒した事実を告げた次の日。

 俺たちは街を出る門の前に集まっていた。

 向かう先は国王のいる王都ではなく森にある魔王城。


 なぜ魔王討伐を済ませた空っぽの城にわざわざ赴くのか。

 それは俺が略奪召喚された魔法陣が気になるとデルフィーヌが言い出したからである。




 昨日、ひとしきり涙を流した彼女は、表向きはすっかり立ち直ってみせると、キリリとした表情で言った。



『魔法陣の術式を見れば、どうやってジローが略奪されたのかわかるかもしれない。そして誰がそんな技術を魔族に与えたのかも……』



 デルフィーヌ曰く、魔族は本来、召喚に横槍を入れるような搦め手の魔法には疎いらしい。

 つまり、今回の件は魔族ではない何者かが入れ知恵をしたのではないか?

 彼女はそう疑っているようだった。



『これはよく調べて陛下に上申しないと。他国の策謀だったら一大事よ!』


 

 自分を除け者扱いした国の心配か……。

 正直、俺は不満に思った。

 だが、それが彼女個人の手柄になるなら構わないかと考えることにした。


 親父さんの不名誉をそそぐことにもなるかもしれんしな。




 ベルナデット、デルフィーヌ、エレンを連れて門を出ようとする。


「よう、ヒョロイカの兄ちゃん。随分とたくさんの別嬪さんを連れてるな? 今日はどこに行くんだ?」


 すっかり顔なじみになった門番のおっさんが気さくに話しかけてきた。

 だが、おっさんの名前は知らない。

 向こうも俺の名前を間違えてるし、おあいこだろう。


「ちょっと魔王城に調べ物をしにな……」


「がはは。そいつは頼もしいぜ! だったらついでに魔王を倒してきてくれや」


 おっさんは信じてなかった。この扱いにはもう慣れた。

 いつも通り過ぎるので何も感じない。

 俺の心は荒んでしまったのだ……。


 悲しいね。


「ふっ、任せとけよ」


 適当に答え、おっさんに見送られて門を出る。

 やれやれ、意味のない会話だった。

 むさ苦しいおっさんとする中身のない世間話ほど無駄な時間はない。




 とことこ草原を歩く。時々会話をしたり、無言になったり。


 少々ギクシャクしてる感じもあるが、出会ったばかりの男女パーティならこんなもんか?


 女の友達が多かったわけじゃないから判別つかん。


 でも、雰囲気は悪くないんじゃないかな。


「ねえ、ジロー」


「どうした」


 デルフィーヌが話しかけてきた。

 そういや、こっちだとみんなジローって伸ばして発音すんだよな。

 ジロウって誰も言わねーの。


 だからなんだって話だけど。


「……本当に魔王城に行くの? いや、あたしが調べたいって言ったんだけどさ……。城には強力な魔物たちがいるかもしれないのよ? 森にだって危険な魔物はたくさんいるし、それに将軍ヒザマはまだ生きているわ」


「……ああ、そういやもう一体、幹部が残ってるんだっけ? いたらついでに倒しておくか。火って名前に入ってるし、水をぶっかければなんとかなるよな?」


「ええ……」


 デルフィーヌがドン引きしている。

 エレンも話を聞いて何とも言えない顔になっていた。

 そこは『さすがね!』とかなんとか言って俺を持ち上げるところだろ?


 ベルナデットが一人、静かに拍手を送ってくれた。


 俺のナローシュへの道のりは遠い。

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