第23話『勇者のパーティ候補』



「わかった。決闘してやろうじゃん。俺が勝ったら二度と俺たちに付き纏うなよ?」


「ふふ、いい度胸だ……」


 男が喜色に満ちた表情になる。

 もう勝ったつもりでいやがるのか。

 早くザマァしなきゃ……。


 俺は謎の使命感を覚えた。


「ジロー様、お待ちください。このような凡夫、ジロー様が直接手を下すまでもありません」


「僕が、凡夫だと……!?」


 ベルナデットが申し出た瞬間、男……ホットドッグの全身から怒りのオーラが溢れた。

エレンとデルフィーヌが『ひっ』と声を上げる。


「いやいや、怪我したら危ないでしょ。ダメだよ」


 こんなつまらんことで彼女を危険に晒したくはない。

 強くなってほしいとは思うが、余計な争いをさせるつもりはないのだ。


「この程度の男ならわたしで十分です」


「うーんでもなぁ……」


 確かにベルナデットは強くなっている。


 獣人としてのポテンシャルなのか、その成長率は目を見張るものがある。


 魔物との戦闘でも背中の手の届かない痒いところを掻いてもらってるくらいには役に立つようになっている。


 だが、年端も行かない少女を代理で突き出すのはなぁ……。

 相手の実力もわからんし、不安だ。


「なあホットドッグ、お前、上級魔物を一人で何体まで倒せる?」


 ダメもとで俺はホットドッグに訊いてみた。

 これから戦う相手に教えてくれるとは思えんが、念のためな。

 するとホットドッグは蔑んだ態度をさらに増して答えてくれた。


「ハッ、なんだ貴様は。くだらんことを……。とんだ素人だな? 話にならん! 上級魔物は一人で狩るものではないだろう!」


 え、なに言ってるんだこいつ?

 ベルナデットもきょとんと首を傾げている。


「メイジとアーチャーの後衛が二人ほどいれば二体までならどうにかなる……と言っても戦いを知らん貴様にそのすごさはわからんだろうな」


 ホットドッグは自信満々に答えている。

 本気で言っているらしい。

 なんだ、その程度なのか……。


「問題ないみたいだな。ベルナデット、やっちゃっていいぞ」


「ありがとうございます」


「ちょ、ヒョロイカ! 急いで止めなさい! 危険すぎるわ!」


「大丈夫だ。ベルナデットは割と強いよ」


 取り乱すデルフィーヌを嗜める。

 つか、広岡だって言ってんだろが。もしくは二郎と呼べ。


「ククク……たかが獣人の奴隷ごときが、勇者のパーティ候補だった僕を倒すつもりか?」


「は? 勇者のパーティ?」


 デルフィーヌとエレンに視線を送る。

 彼女らは揃って頷いた。


「ああ……やはりヒロオカ殿は知らなかったのか……。フランクはフィーと同じく、勇者が召喚された際に仲間としてあてがわれるはずだった前衛の騎士なのだ」


「エレン、マジかよそれ……」


 俺は愕然となり、声を震えさせた。


 ……ホットドッグが勇者のパーティ候補だぁ?


 もし普通に召喚されていたらこんなやつと旅をしなきゃいけなかったのか。魔王を倒すために我慢して一緒に行動した挙句、実は俺一人で余裕でしたと。そんな笑えない展開が待っていたというのか。ぞっとするわ。


「ふはは、こいつは傑作だぞ! 僕のことを知らずに挑んでいたとは身の程知らずめ! もう取り返しはつかんぞ! 僕をコケにしたのだからな! お前の奴隷はたっぷりいたぶってやろう。死なせないよう、じっくりと!」


 ホットドッグは醜い笑みを浮かべ、ベルナデットを舐めるように見回す。

 挑んできたのはそっちなんだけど……。

 態度といい性格といい、教育によくない見本市みたいな男だ。


 ベルナデットがゴミクズに向ける眼差しでホットドッグを睨んでいる。

 男があんなやつばかりだと彼女が誤解しないといいんだが。


「ヒロオカ殿、やはり今すぐ謝罪すべきだ! いや、せめてヒロオカ殿が出るべきだっ!」


 エレンが俺の肩を掴んで必死の形相で訴えかけてくる。


「いや、問題ないから。落ち着けよ」


「ええっ? だってさっき驚いてたじゃ……」


 ああ、エレンは俺があいつの実力にビビったと勘違いしたのか。

 せっかちさんだな。



【名前:フランク・フルティエット】

【元勇者パーティ候補 伯爵家次男】

【スキル:剣術LV3 槍術LV1 格闘術Lv2 土魔法LV1】



 念のためやつのステータスを見る。

 まあこれくらいなら何とかなるだろう。

 なんか名前が違ってた気もするが、それはどうでもいいか。


「というか、デルフィーヌってパーティ候補だったんだな」


「そうよ、これでも小さい頃から英才教育を受けてきたんだから。結局、勇者が召喚されなくて無駄になったけどね」


「これから俺とパーティを組むんだし、まったくの無駄じゃないけどな」


「……? それってどういう――?」


 俺の言葉にデルフィーヌが首を傾げる。



「そろそろいいかな? 今なら地面に額を擦りつけて許しを請えば、せいぜい手足を切り落とすくらいで勘弁してやるぞ?」



「バカバカしい。ならば、わたしはあなたの粗末なものを斬り落としてやりましょう」



 売り言葉に買い言葉。ベルナデットも気合十分である。

 ……いや、待て。お前、どこでそんな言い回しを覚えた。

 問い詰める前にベルナデットはソーセージフルトと訓練場に向かってしまう。


「くぅ。きっとあのバーテン娘だな……」


「ねえ、あたしたちも早く行きましょうよ」


「…………おう」


 釈然としない気持ちで俺はデルフィーヌたちと訓練場に続いた。

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