第20話『エレオノール・エアルドレッド』 


-冒険者ギルド-



「フィー! 一人で魔王を倒すなんて無理だって言っただろう!」


 没落令嬢をギルドに連れて帰ると銀髪ロングの女騎士が待ち構えていた。

 一昨日、ギルドの出入りですれ違った彼女である。

 門番の騎士たちとは明らかにモノが違う、ホワイトシルバーに輝く鎧。


 目鼻立ちの整った美貌。

 よく手入れされたサラッサラの髪の毛。

 こいつ、絶対に普通の冒険者じゃないよな……。



【名前:エレオノール・エアルドレッド】

【職業:貴族令嬢 辺境伯家長女 Dランク冒険者】

【スキル:剣術LV3 格闘術LV1 風魔法LV1】



 ほう、貴族か。

 今更だが、ここは貴族制度がある世界なんだよなぁ。

 ファンタジーを感じるぜ。


「昨日も一昨日も、たまたま助けてもらえなかったら死んでいたんだぞ!」


「……ごめん」


 没落令嬢は友人から説教を受け、身体を縮こまらせていた。

 そうだぞ、しっかり反省しろよ。

 二人のやり取りを眺めていると、女騎士は俺のほうを向き、


「私はエレン、Dランク冒険者だ。此度は友人が危ういところを世話になった」


 名前と礼を述べてきた。

 エレン? ステータスの名前は違うようだが……。

 身分を隠してるのか?


 まあ、隠しているならこちらもそのように振る舞うだけだ。


「俺は広岡二郎。一応、Aランクの冒険者だ。こっちはベルナデット」


「…………(コクッ)」


 ベルナデットは小さく会釈をするだけ。

 彼女はどうにも俺以外の人間に愛想が悪い気がする。

 改変前の性格ではそんなことはなかったはずだが……。


 教育の仕方を間違えたか。日に日に罪悪感が増してくるんだが。


「ほう、Aランクとはすごいな。ん、待てよ。ヒロオカ……? もしや魔王幹部ヘルハウンドを一人で倒したという、あの……」


「あなたがヒョロイカなの!?」


 没落令嬢がエレンを押し退けて詰め寄ってきた。

 いや、広岡だっての。そっちが広まってんのか? おい、どうなんだ。

 困ると思ってたのがドンピシャで当たってるじゃねーか。


「……俺のこと知ってんの?」


「街で噂を聞いたわ! たった一人で魔王幹部を倒したって、すごく強いのよね!?」


「まあそれなりにな」


「いえ、最強ですよ」


 ベルナデットがニッコリ微笑んでいる。

 こいつが口を挟んでくるタイミングがわからない……。


「あたしはデルフィーヌ・ドランスフィールド。王宮筆頭魔導士だったシリウス・ドランスフィールドの娘よ」


 没落令嬢はなぜか親の肩書きを持ち出して自己紹介をしてきた。

 自慢か? と思っていると、



「あの女、勇者召喚に失敗して処刑されたなんちゃって魔導士の娘だってよ」

「おかげでこの国だけ勇者がいねーんだろ?」

「昨日も一昨日も、魔王を倒す仲間になってくれって言ってたよな」

「誰がなるかってよ。勝てるわけねーだろ」

「ちょっと抱かせてくれんなら考えるけどな」

「考えるだけだろ?」

「そりゃそうだ! ふはは!」



 周りから聞こえる嘲りの声。

 デルフィーヌは悔しそうに顔を歪めていた。

 ふむ、自慢とは違ったようだ。


 勇者召喚に失敗した魔導士? じゃあ彼女は……。



「……知ってると思うけど、あたしの父、シリウスは勇者召喚に失敗した責任を負って王に処刑されたわ」


 ああ、やはり彼女が例の魔導士の娘か……。

 家を取り潰されて多額の賠償金を課せられたんだっけ。

 この娘も難儀な目に合ったもんだよな。


 よし、だったら――


「あなたの実力を見込んでお願いします……。あたしとパーティを組んで魔王を倒すのを手伝ってください! あたしは父の名誉と家名再興のため、魔王を倒さないといけないの! 確かに無謀なことだっていうのはわか――」


「いいぞ。パーティ組もう」


「――わかって? ええ!?」


「ぬなぁっ!?」


 彼女の申し出に即決するとベルナデットが変な声を大きく上げた。

 なんだベルナデット、まだそんな面白い反応ができたのか。

 感情を失ったわけじゃなかったんだな。


 よかったよかった。


「い、いいの? 相手は魔王なのよ? 倒せるかどうかわからない無敵の存在で……それにあたしは……」


「問題ないさ。承知の上だ」


 何かを言いかけていたけどきっと大丈夫だ。

 この世界でならなんとかなるだろ。

 チートがあるし。


 どんどん生き方が適当になってんな、俺。

 どうせなんとかなるって舐め腐った根性が定着しつつある。

 俺は日本に帰れない身体にされてしまったのかもしれない……びくんびくん。


「わたしは反対ですよジロー様! この女と組むメリットがまったくないじゃないですか!」


 ベルナデットが語気を強くして言う。

 確かに現状、俺たちは二人で何の苦労もなくやっていけている。

 普通に考えたら申し出を受けるメリットはない。

 

 ベルナデットには勇者や魔王関係のことを話してなかったもんな。


 それじゃ俺の意図がわからないか。


 しょうがない。


 後で説明してやろう。


 前に勇者だと言ったときは冗談扱いされたっけ。


 魔王の死体を見せてやれば、さすがに理解するはずだ。


 フフフッ、目にモノを見せてやるぜ。

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