動き
「・・・ねえ、そう言えば最近、角っ子ちゃん物壊したりコケたりしてなくない?」
「そう? ああでも、確かに仕事中はそうかも・・・」
ふんふんとズレた鼻歌を歌いながら掃除をする少女を見て、ふと疑問に思った彼女。
どうやら少女の仕事っぷりを見て、何か違和感を感じたらしい。
問われた単眼も天井に目を向けながら思い返し、確かにそうだと気が付く。
「でも元々段々壊さなくなって来たんだから、流石に慣れたって事じゃないかな?」
「にゃのかな。それにしてはぱったりと無くなった様な」
単眼の言葉にむーんと唸りながら首を傾げる彼女。
そんな風に言うとまるでいつも何もかも破壊している様だが、流石にそんな事は無い。
ただやはり定期的に何かを壊すので、ある意味で彼女の疑問は間違ってないのだろう。
「天使ちゃん、この間ボールで遊んでたのよね」
「ボール?」
「何の話?」
そこに羊角が関係が有るのかないのか、唐突に少女が遊んでいた事を告げる。
ただ流石に無関係ではないのだろうと、彼女も単眼も耳を傾ける。
「ほら、天使ちゃんって、バランス感覚が無いじゃない。だからボールで遊んでる時とかって、追いかけて行ってキャッチして、そのまま転んだりって多いのよね」
「そうだねぇ。子犬のボール遊びみたいになってるよね、おチビちゃん」
その光景は屋敷に住む者ならば全員見た事が有り、微笑ましく見つた覚えも有る。
単眼は良く庭で少女とのんびりしているので、余計に見た事が有る光景だろう。
ただそんな微笑ましい光景の話をするにしては、羊角の顔が真剣に見えた。
「普段もぽてぽて可愛らしい歩き方だし、庭で犬猫と遊んでる時もコロコロ良く転がってるわ」
「そう、だねぇ・・・」
犬を追いかけて転ぶなんてのは普段の光景であるし、少女の歩く姿はとても不安定だ。
昨日もそんな光景を見た覚えが有るが、それとこれと何の関係が有るのだろうか。
そう思った彼女が首を傾げながら少女に目を向けると、少女はわーいと手を上げていた。
どうやら自分の担当場所が終わったらしく、ポテポテと傍にいる複眼の下へ向かっている。
そして次の指示を受けた少女はコクコクと気合を入れて頷くと、すたすたと歩いて行った。
「今、違和感なかったかしら?」
それを見ていた彼女と単眼に、羊角が問いかける。
ただそれは疑問という物ではなく、問題を解いてみろという様な口調だ。
単眼は良く解らずに何だろうと首を傾げていたが、彼女はハッとした顔を見せる。
「角っ子ちゃん、終わった後は動きが緩かったけど、指示受けた後は重心がぶれてなかった」
「ああ、言われてみれば確かに。何時もの左右に少し揺れる動きじゃなかったね」
「そういう事よ。どういう訳か解らないけど、天使ちゃんってば仕事中だけは体の動きが凄く安定してるわ。意図してなのか、無意識なのかは解らないけどね」
羊角の言う通り、少女の仕事中の動きには無駄という物が存在していなかった。
勿論経験不足からの無駄は有るが、単純な動作としての無駄が綺麗さっぱり消えている。
彼女が違和感を持ったのはこのせいであり、羊角は随分前から気が付いていた。
彼女と単眼は仕事は適度に面倒を見て、遊びで構い倒す傾向が有る。
そんな二人にはどうしても「動きに無駄のない少女」が目に入り難かったのだ。
ただ意識してから少女の動きを見ていると、確かに少女の動きはとても安定していた。
今も高い所に手を伸ばしてつま先立ちをしているのだが、その体は全くぶれる様子が無い。
因みに複眼と女は気が付いていたが、あえて言う程の事でもないだろうと思っている。
「もともと力は強かったから、加減を完全にマスターしたって事なのかな?」
「なのかなぁ。その割には普段は相変わらずなのが不思議だけど」
彼女が首を傾げながら出した結論に、単眼も首を傾げながらそう返す。
ただそれを聞いた羊角は言葉にはしなかったが、少女がこうなった理由を少し察していた。
なぜなら少女の動きが良くなったのは、少女が何かを悩み始めた頃だからだ。
毎日毎日記録を取って少女を見ている羊角は、誰よりも早くそれに気が付いた。
「天使ちゃんが満足そうだし・・・良いのかしらね」
何となく羊角は、少女の悩みはあの角の事ではないか、と思っている。
少女の体に出る変化はあの角が原因だと、既に男と女からは聞いていた。
ならば今回の急激な変化も、その角関連の何かしらでは無いかと。
ただ現状心配するような要素も無く、なら心配するのもどうなのかなと少し悩みもしている。
「それにしっかりした天使ちゃんも素敵よね・・・!」
てきぱき動いて仕事をした後に見せる、幼く可愛らしい満足そうな笑み。
仕事中の動きの良さからのギャップに『これはこれで良い』と悶えるブレない羊角であった。
なお、少女の動きの良さが発揮されるのは、別の所にも有ったりする
「か、勝てねぇ・・・!」
コントローラーをもって項垂れる男と、わーいと勝ったことに喜ぶ少女。
モニターに映っているのは反射神経を要するゲームで、勝負形式のゲームである。
どうやら少女の動きの無駄の無さは男との遊びにも適用される様だ。
戦績は少女の全勝であり、男は惜しい勝負にすら持ち込めなかった。
以前は動きの無駄から多少勝負になっていたのだが、それが消えた少女に負ける道理が無い。
元々反射神経は男の遥か上をいっていた以上、最早少女の無双状態だ。
ただその力が発揮されるのは反射のみで、思考の駆け引きが居る勝負では相変わらずだが。
因みに男をぼろ負けにしておきながら、少女には一切申し訳なさそうな様子は無い。
これには理由が合って、勝つたびに撫でて貰っているからだ。
別にそんな理由が無くたって撫でるのだが、これは少女が全力で遊ぶ為の処置である。
何せ余りにも勝ちすぎて、途中で加減をした方が良いのかなと迷い始めたので。
という訳で撫でて貰う為、ひたすらに男をぼこぼこにする少女という図式に。
その夜少女は沢山撫でて貰った所を触りながらニヘッと笑って就寝し、男はゲームを深夜まで練習した事で女に殴られて寝かされるのであった。
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