恐ろしい記憶。
「うっわー・・・」
ただ今の少女達は休憩中で、モニターでニュースを見てそんな呟きを漏らす彼女。
映っているのは一家が強盗に押し入られ、全員が惨殺されているという凄惨な物。
ただ殺した、などという言葉では飽き足らない程、全員が酷い死体になっていると。
「怖いねぇ、おチビちゃん・・・おチビちゃん?」
少女はそのニュースを見て何処か遠い目をしていて、心ここにあらずという状態だ。
その事に気が付いた単眼は心配になり、再度少女の事を呼ぶ。
すると少女はハッとした様子を見せ、なあにと首を傾げて単眼を見上げた。
「どうか・・・したの?」
単眼は様子のおかしい少女が心配になり声をかけるも、少女はフルフルと首を横に振る。
そしてニコーッっと笑って手を取り、大丈夫だよと意思表示を見せていた。
なので単眼もそっかーと笑って返し、あまり気には留めずに終わる。
その後はいつも通り、とてもいつも通り業務をこなし、少女は自室に戻る。
そうしてその夜、少女は部屋で一人、猫を抱えて震えていた。
『―――――』
休憩中に見ていたニュース。その状況が似ていたせいなのか、それとも別の理由なのか。
何時か夢で見た、凄惨な光景。そして倒れる母親らしき人物の呟いた言葉。
あれが夢なのか記憶なのかまだ曖昧だったのに、その曖昧さが消えてしまったせいで。
今の少女は、アレが現実に起こった過去だと、はっきりと感じ取れてしまっていた。
『な、なんだ、ぎゃあああ!』
『ば、ばけもっ――――』
『ひっ、な、何なんだコイツ!!』
自身の手が人間の腕を砕き、化け物と叫ぶ男の喉をかみ切り、放たれる銃撃を避ける。
『ふ、ふざけ―――』
喉から血を吹いて苦しむ男を壁に叩きつけ、ぐちゃっと潰れる音が耳に入る。
それと同時に地を蹴り、銃を持つ男の腹を掌打で撃ちぬいた。
掌打は突き抜けて肉と骨をぶちまけ、腹が無くなった男は白目をむいて崩れ落ちる。
更にその崩れた男の頭を持つと、床に叩きつけて豆腐の様に潰してしまう。
其れでも飽き足らぬとばかりに体を引きちぎり、原形を留めぬ程にばらしていく。
その際に手ではなく口でも噛み千切り、口内に残った物は全て飲み込んで。
『く、くそがぁ!!』
片腕を潰された男は無事な腕で刃物を振り上げ、だがその瞬間には腕が無くなっていた。
余りに軽い腕を振り下ろした男は、先の無い腕と目の前から消えた存在に目を見開く。
それがその男の最後の意識となり、ぐちゃっと自分の頭が潰れた音は聞こえなかっただろう。
静かになった室内に、死体は三つ。既に両親の死体はどこにも無い。
なぜなら儀式は完了してしまったから。少女という『化け物』を作り出す儀式は。
そう思うに至るのは、母の口にした事と行動が噛み合ってなかったと、今なら思えるから。
『愛しているわ、私の、娘』
愛する優しい両親は少女の目の前で惨殺され、それは愛情の深さだけ絶望を作った。
贄は少女の角を作り出す基盤となり、絶望が角に繋いだ力を引き出していく。
ただそれは、母の口と行動が合っていなかった、その結果ではないかと。
『逃げては、駄目』
何故そんな事を言ったのか。なぜ家の中に、良く解らない魔法陣の様な物が在ったのか。
愛していると言いながら、何故母は少女の手を離さなかったのか。
あの時の少女は余りに幼かった。余りに物を知らなかった。だから何も気が付かなかった。
でも今の少女ならば解る。幸せだったあの家は、あの家族は、何処かおかしかったと。
だがその時の少女はそれ以上に異常だった。まだ足りぬと、まだ足りぬと血肉を食い始める。
それは今まさに潰した男達であり、骨も肉も何もかも関係なく咀嚼していく。
明らかに自分の体積では受け入れられない量を、だけど腹が膨れる様子も無い。
ただ角に黒い力がどんどん増していて、それが原因だという事は何故か解った。
『――――――――――――!』
咆哮を放つ。その時にはもう既に、生きている者どころか原形をとどめている者は居ない。
真っ赤に染まった部屋の中、ただ『化け物』が一人存在するのみ。
だけど化け物は目的を果たしたからか、そのままぷつりと意識を落とした。
次に目覚めた時は、とある薄暗い牢の中。
何故自分がそんな所に居るのか、そんな事は解らない。
だけど解るのは殺すべき存在が、目の前に居るという事。
だから殺した。だから食った。だから贄にした。角を完成させる為に。
そして本来なら中途半端になる事が多い『化け物』は完成してしまったのだ。
媒体の意識が幼いが故に。自意識が弱いが故に。無知の愛情故に止まらなかった。
自分が、沢山、人を殺した。自分の意思で、自分の望みで、殺して、取り込んだ。
そう結論に至った少女は、カタカタと体の震えが増していく。
自分の行いを、全て思い出し、何よりも至りたくない考えに行きついてしまって。
ただ少女のその震えは胸の中で心配そうにぶな~と鳴く猫の声で、少しだけ止める事が出来た。
そのお礼にと優しく猫を撫でるが、完全には止まっていない震えに猫はまだ心配そうだ。
なので猫は元気を出してもらおうと、ぶなぶなと鳴きながら少女の手を舐める。
だけどそれでも震えは止まらず、少女は申し訳なく思いながらずっと撫で返した。
だってどうしても、至った結論に恐怖を覚えずにはいられなかったから。
思い出してしまった記憶も恐ろしいが、もっともっと、恐ろしい事に。
詳しい理屈なんて解らない。だけどそうだと解ってしまう事。
―――――少女は至ってしまったのだ。自分が記憶の中の少女ではないという事実に。
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