猫の普段のお散歩

その日の猫はぶなぶなと鳴きながら、何時かの様に廊下を歩いていた。

ただ今日は猫の後ろには犬が付いており、以前の様に行方不明という事は無い。

因みに更に後ろには少女も居り、猫の歩く速度で仲良く縦に並んで歩いている状態だ。


ぽってぽってと仲良く歩く一人と二匹。全員ただ歩いているだけなのにとてもご機嫌である。

少女は猫が元気でご機嫌で、猫は少女が付いて来てくれるので当然ご機嫌。

そして犬は少女と猫の機嫌が良さそうなので、自分も何だか機嫌が良くなっている。


「おや、猫さんの運動かーい?」


それを見つけた彼女が声をかけると、猫は元気よくぶなっと応えた。

反射で返しただけではあるが、まるでちゃんと理解している様な答えにクスクスと笑う彼女。

その様子に少女も何だか楽しくなってしまい、にまっとした顔を猫に向ける。


「猫さんも少しは運動しないとねぇ」


彼女の言葉に少女は笑顔のままコクコクと頷いて返す。

猫は余り体が強くない。それは獣医に見せた事で解ってはいる。

だからと言って全く動かさないのも、それはそれで猫の体には良くない。

という訳でこうやって自力で散歩させ、その際は少女もついて行っている訳だ。


「お散歩は楽しいかーい?」


彼女が問いかけつつしゃがんで手を伸ばすと、撫でて良いぞとばかりにお座りして応える猫。

その様子がまた何だかおかしくて、少女と一緒にクスクス笑いながら撫で始めた。

犬は撫でる二人を見て、次は自分もと尻尾をパタパタさせながら待機している様だ。


それに気が付いた少女はニコーっと笑顔で犬を撫で、犬も気持ちよさそうに耳を垂らしている。

猫はそんな犬に向けて楽しそうにぶな~っと鳴き、犬もわふわふと優しく鳴いて返した。

どんな会話をしているのかは人間には解らないが、相変わらず仲の良い二匹である。


「犬と猫って相性悪い事も多いけど、仲良くて良かったよねぇ。今更かもしれないけど」


気性の問題もきっと有るだろうが、別種の生き物と言うのは基本合わない事が多い。

そもそも同種の生き物でも共食いをする事だってあるのだから、それは致し方ない事だろう。

だがそれは屋敷の犬と猫には該当せず、何だかんだ一緒に居るのが当たり前になっている。


というか、犬が余りにも賢くて優しいのが一番の要因ではあるのだろう。

時々猫が癇癪を起しても優しく対応するので、男も「ホントに犬か?」と思う時が有る程。

ただ猫も犬を好いているからこそ傍に居るのは確かであり、仲が良いと言って良い筈だ。

そう結論を出した少女はコクコクと頷きながら、二匹に満面の笑みを向けている。


「角っ子ちゃんもわしゃわしゃー!」


少女がニコニコしながら犬をわしゃわしゃ撫でていると、唐突に少女へ飛びつく彼女。

そしてそのまま少女の頭をわしゃわしゃと撫で、キャーと悲鳴を上げる少女。

ただ声には楽しげな物が含まれていて、本気で悲鳴を上げている訳では無いのが解る。


ひとしきり撫でられた少女は完全にぼさぼさ頭になっており、だけどどこか満足そうだ。

彼女と顔を突き合わせてお互いにむふーと息を吐き、示し合わせた様にニヘッと笑い合う。


「――――ああ、整った髪が・・・でもボサボサもこれはこれで可愛い・・・!」

「・・・唐突に現れるのやめてくれる?」


カメラを手に恍惚そうな表情で悩む羊角に、半眼で見つめて応える彼女。

少女はもう最近は羊角の行動を特に気にしなくなってしまっている。これが羊角なのだと。


「私ずっと傍に居たわよ?」

「知ってるから言ってんの。なに、ぼさぼさにするなって言いに来たの?」

「それも少しは有るけど・・・」


実は一人と二匹が歩く様子を、少し離れた位置からずっと撮影していた羊角。

当然少女も彼女も気が付いていたが、何時もの事なので放置していた。

ただ少女をわしゃわしゃと撫でる彼女が羨ましく、思わず近くに来たというのが理由である。

彼女は羊角の様子から理由に気が付いているが、あえて口にする気は無かった。


「それじゃー邪魔したね。お散歩の続き行ってらっしゃーい」


彼女は少女と猫と犬に手を振ると、ぶなぶなと猫が答えた事で歩き始める一行。

手をワキワキしていた羊角は、去って行く少女達を見てその場に崩れ落ちていた。

勿論カメラは構えたままなので、彼女の眼は相変わらず半眼のままである。


「ああ、天使ちゃん、冷たい・・・私も撫でたかった・・・!」

「よく言うよ。今日の髪セットしたのあんたでしょーに」

「後でまた別の髪形にする約束もしてるわよ」


膝から落ちていた羊角は、すぐさま復活してどや顔を彼女に向けた。

そのせいで彼女は更にげんなりした様子を見せ、はぁと大きくため息を吐いてから口を開く。


「あんた普段は割と聡明な方なのに、何で角っ子ちゃん相手になると頭が悪くなるの?」

「天使ちゃんが余りに天使だから私を狂わせるの・・・!」

「聞いたあたしがバカだったよ」


復活するとまたカメラを手に少女を追いかける羊角を見て、彼女は全てを諦めるのであった。









因みに少女は約束通り、散歩が終わった後に羊角の下へ向かう。

だからこそ先程ぼさぼさな状態を放置し、散歩を優先させていた。

何故なら髪が乱れていれば、それだけ整えるのに時間が必要なのである。

つまりは長時間羊角が髪をいじる事になり、羊角の楽しい時間を長引かせると思っての行為だ。


「次はどんな髪型にしようかしらねー♪」


ご機嫌に髪をいじる羊角を見て、少しは人のしたい事に気が付ける自分になったかなと、ひそかに満足気になっている少女であった。

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