気に食わない変化。

最近少女には、少しばかり不満な事が有った。何かと言えば少年の事である。

とは言っても少年の事が嫌いになったとか、そういう事ではない。

距離感は前よりも近くなった気がするし、相変わらず少女に対しては優しい態度を見せている。


では何が不満かと言えば、少年が優秀過ぎる事だ。


それを不満というのはどうかという話では有るが、それなりに多少の理由が有る。

少年は元々優秀でミスを基本的にしない。それどころか他者へのフォローもそつがない。

ただ唯一少年がミスをしやすい状況、というものが存在する。


それは少女の傍に居る時という、少女以外が全員知っている事実であった。


ただし当の少女はその事を解っておらず、自分の傍に居る少年が普通の状態だと思っている。

故に少女にとってはまだ面倒を見るべき後輩であり、可愛い弟の様な存在だった。

だが最近、そんな少年の様子が変わっているのだ。


まずどんどん背が高くなっている。自分は全然大きくならないのに。

ただこれは前から思っていたので、不満と言っても最近持った不満ではない。

次に男に色々と仕事を任せて貰っている。これはとても不満である。

とはいえこれも自分の未熟故なので、少年に不満を口にするのは間違いだと考えるのが少女だ。


ならば何が不満が。それは最近自分への態度が大人ぽくなって来た事である。


以前ならば自分の前では可愛い子だったのに、最近は静かな態度しか見せてくれない。

少なくとも自分の前で「焦る」という行動をこれっぽっちも見せなくなった。

それがなんだか急に成長した様に見えて、少女はとても不満を感じている。


「お手伝いしましょうか?」


なんて言いながら手を差し出した時の顔は、まるで別人の様にすました顔だった。

それが何だか、とっても何だか、物凄く何だか気に食わなかった。

なのでむぅっと頬を膨らませ、不機嫌な顔を少年に向けてしまっているのが最近の状況だ。


当然少女だって、それが我儘な気持ちだという事には気が付いている。

きっと自分より優秀な少年は成長し、自分よりも早く大人に近づいているのだと解っている。

ただ急に置いて行かれた様な気分になって・・・きっと寂しいのだと。


そのせいで先日、特に意味も無く少年にギューッと抱き着き、少し困らせるような事も有った。

ただその際も少年はやんわりと対応し、それが尚の事悔しくて更にぎゅっと抱き着く少女。

そのままムーッとした顔で暫く少年から離れなかった少女であったが、流石に少し焦り顔を見せた所でムフーッと満足して離れたのであった。

最早当初の目的を忘れている事には一切気が付いていないが、満足なので良いのだ。









因みに少年だが、別段人が変わった訳では無い。

ただ少女に接する際に、今まで以上に自制心を働かせているに過ぎない。

それは先日の虎少年との事で思う事が有ったから、なのは言うまでもないだろう。


「ああもう、お願いだから気軽に抱き着くのだけはやめて貰えないかなぁ・・・! 柔らかくていい匂いがして本当に頭真っ白になる・・・!」


ただしこの通り、自室で転げまわって悶える程度には成長はしていない。

むしろやせ我慢をする事で少女の行動が大胆になるので、余計に悶々としていると言えよう。

因みに少女以外には殆どばれていて、解っていてニヤニヤしながら見守っているのだった。

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