犬の気遣い。
犬は常々思っていた。皆大変そうだなぁと。
毎日毎日何かしら忙しくしていて、のんびりお昼寝している姿も見ない。
常にバタバタ走り回っている訳では無いが、それでも犬には忙しそうに見えていたのだ。
そんな折、小さな女の子がやって来た。
何だかとてもびくびくしていて、心配した自分にも怯える女の子。
事有る毎に怯えているから、最初はとっても心配だった。
だけどその子が来てから屋敷の中がのんびりし始めた気がしている。
あの子が屋敷を歩いていれば、皆手を止めて楽しそうに構っていた。
庭で寝ていれば様子を見に来るし、偶に一緒にお昼寝もしている。
同じ格好で忙しそうにしていても、それでも何だかふんわりした空気が漂っていると。
今の犬は、少女が来てからの事をそんな風に捉えている。
自分を構ってくれる住人達が前より楽しそうだと。
そして何より自分も楽しいと感じながら。
少女は良く犬を構い、一緒に遊んでいる事も少なくない。
庭を全力で、犬が先にばてる程に全力で遊ぶ少女。
優しくて、元気で、明るくて、少しのんびりしている女の子。
だけど最近少しだけ心配な気配が有り、だからこそちゃんと見てあげないと思っている。
少女の笑顔が陰る時が、屋敷の空気の沈む時だと感じているが故に。
だから今まさに畑を眺めている少女に、少し悲しそうに畑を見ている少女に近づく。
わふっと小さく鳴いて少女にすり寄り、気が付いた少女はニコッと笑って犬の頭を撫でる。
そして犬がぺたんと座ると少女はポフッと寄りかかり、犬は少女を包む様に丸まった。
最近の少女は時々こうやって一人で寂しそうな顔をしている時が有る。
誰かに寂しいと縋りに行くでもなく、悲しいと言いに行く事もない。
ただ自分の中で消化しきれない想いを、ふと蘇って来た悲しさを我慢する様子を見せていた。
畑は確かに段々と昔の姿を戻しつつある。
それでもふとした時に思い出してしまうのだ。山が崩れる前の綺麗な畑を。
泣き出したい程悲しい訳じゃない。だけど胸に悲しい物がどうしても浮かぶ。
そんな時少女はただ悲しい様な寂しい様な、何とも言えない顔を一人でしているのだ。
そしてそれに似た表情を畑以外でもするようになった。
理由は勿論先日の夢が原因で、それを振り払う為の努力は続けている。
とはいえ努力をして悩みが簡単に払拭されるかと言えば、そんな事は無いだろう。
だけど少女はその事を口にはしない。その事は絶対に口にはしない。
誰かに何かを問われてもニコッと笑うだけだし、住人達もそれが解っている。
それでも少女が暗い顔をしていれば、その場はどうしたって聞いてしまう。
普段通りに過ごすのは少女の為で、やっぱり暗い顔をしていれば心配になってしまうのだから。
だけど犬は何も問わない。何も語らない。犬だから喋らない。
少女の傍にただ居るだけ。ただ寄り添うだけだ。
そしてそれが少女にとってはありがたくて、優しい犬へ素直に甘えている。
何時だって犬は一番最初に傍に居てくれた。
奴隷の監査が来た時も、屋敷から出て行った時も、最初に傍に居てくれたのは何時も犬だった。
少女はその時の事を思い出しながら犬に抱きつき、暖かさにゆっくりと目を閉じる。
そんな少女を、屋敷にやって来た可愛い妹分を、犬は優しく包んでいた。
因みに犬に少女の匂いが強く残り、少女に犬の匂いが強く残っていると、自分だけ仲間外れにされたと猫が拗ねるのが少し悩みである。
ぶなぁとあからさまに悲しそうに鳴きながら背を向けるので、少女は慌ててご機嫌を取る様に膝に乗せ、猫が納得するまで撫でるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます