王。

ある日、少女はモニターから流れているニュースを見て首を傾げていた。

それは少女の住む国の王子が結婚した、という物だ。

だが少女にとって、そのニュースは訳が解らない物だった。


少女も王や王子、そして王国という概念は知っている。

だがそれは物語の中でしか見た事が無い物だ。

それに物語に出て来る王や王子は、もっときらびやかな服を着ていた。

画面に映るその人は、どう見てもスーツ姿にしか見えない。


少女は自分の認識との差異に、頭にハテナを浮かべて首を捻っていた訳だ。

そもそも自分の住んでいる国が王国だったのかと、その時点で既に首を傾げている状態である。

だって少女は今まで、王様の話なんて聞いた事がないのだから。

一緒にそのニュースを見ていた単眼は、当然その様子に気が付いた。


「あー・・・これ、私もちゃんと説明出来るほど頭が良くないからなぁ・・・えっとね」


単眼はどう説明したら解り易いだろうかと、少し頭の中で言葉を整理していた。

自分は一応解ってはいるが、解らない子に説明出来る程理解している訳では無い為だ。

その間少女は単眼をじーっと見つめて待っており、その目からは期待が見て取れる。

きっと女に授業を受ける時と同じ感覚なのだろう。


因みに少女は軽い一般常識は教えられているが、歴史的な物は余り教えられていない。

数学や語学に関しては大学に入れるレベルなのだが、社会科類は結構疎いのだ。

故に少女は自分の住む国に王様が居た、なんて事は初めて知る事である。

そもそも王様は現代に存在していないとすら思っていた。


「えっと、今私達が住んでる国には王様が居るんだけど、でも王政じゃないのは、解るかな?」


確かめるような単眼の言葉に、少女はコクコクと頷く。

たとえ王様の事は知らずとも、ニュースはそこそこに見ている。

国を動かす機関が有るという事は当然知っているし、だからこそ王様は居ないと思っていた。


もし王様が居るなら、そういう時はきっと王様の言葉とかが有ると思っているからだ。

だってドラマや漫画や小説や絵本では、大体王様の言葉はお触れで出て来るからと。

少女にとっての「王様」の認識はそんな物だ。


「でも建前上は王様が一番偉くて、一応君主制で、だけど別に王様は政治に関わって無いの」


単眼のどう説明すれば良いのか解らないというのが良く解る説明に、少女はキョトンとした顔になっている。

その様子に単眼はうーんと目を細めながら思考し、考えを纏める為なのか手が何も無い虚空をモニュモニュと揉んでいた。


「んー、あー、これどう説明すれば良いの」


単眼はどうにも考えが纏まらない様で、変な顔と態勢で唸っている。

少女はそんな単眼が珍しいなと、変な所で楽しんでいた。


「王様は国の代表で顔。政治は専門職の政治家の仕事。ぐらいの認識でいれば良いのよ」


そこに話を聞いていたらしい複眼がざっくりとそう説明し、少女は少し首を傾げたもののそうなのかと納得する。

細かに説明すれば違うのだが、そんな事を説明してもまた少女は首を傾げるだろう。

そもそもそこまでしっかりした説明は、今ここに居る人間には出来ない。

それを考えれば複眼のざっくりした言葉は、この場では適格な説明であった。


ただ少女の疑問はもう一つ有り、そのせいで首を傾げていた事にはまだ気が付かれていない。

このままだとその説明が聞けないだろうと思った少女は、パタパタと何処かに走って行く。

どうしたんだろうかと二人が首を傾げていると、少女はすぐにパタパタと走って戻って来た。

ただその手には、羊角のタブレット端末が握られている。


少女は羊角の端末を借りに行っていた様だ。

そして端末を立ち上げて軽く操作をし、とある画像を二人に見せた。

画面に映るのはまさに昔の肖像画に在りそうな貴族の姿。


「ん、これがどうしたの?」


単眼は画像を見せる少女の意図が解らず、不思議そうに首を傾げる。

だが複眼はすぐに気が付いた様だで、目の一つを少女に向けて口を開く。


「ああ成程、スーツ姿なのが不思議だったのね。今時こんな格好する王族なんて、未開の土地の王族だけよ。少なくとも先進国の王族が報道の前に出る時は、大概スーツ着てるわよ」


複眼の言う通り、少女はなぜスーツ姿なのか、が一番疑問だったのだ。

だがその説明を聞いて、あからさまにがっかりする少女。

存在しないと思った王様は居るのに、こういう格好の人は居ないのかと。

どうやら自分のイメージする物とは違う事が残念な様だ。


「ああでも、儀式的な事する時はその国の服着る事も有るけど」


だが複眼が少しだけ慌てて付け加えた説明に、少女はぱあっと顔を輝かせるのであった。









「ああいう『まさに王様』って感じの人を見たかったのかな」

「うーん、どうだろ、なんか違う気がする」


少女が去った後、先程の少女の様子を二人で話していた。

王族の格好に疑問に思ったのは確かなんだろうが、何故がっかりしたのかと。

すぐに聞けばよかった事ではあるが聞きそびれてしまったのだ。

とはいえ二人もそこまで気にしている事でもなく、その話はすぐに終わって忘れられた。


尚少女はあの後、お姫様を捜していた。何処かに物語の様なお姫様は居ないかと。

少女ががっかりした理由は、キラキラした姿のお姫様は居ないのかという物だったのだ。


絵本がお気に入りの少女にとっては、どうやら少し思い入れの有る物だったらしい。

だがどれだけ探しても自分の知る様な「お姫様」は出て来ず、出て来るのは劇や映画の映像ばかりで、結局がっかりして終わる少女。

因みに端末を返す際に羊角にその事を伝えると「天使ちゃんがお姫様になれば良いじゃない!」と訳の解らない事を言われ、貴族風のドレスを着せられて写真を撮られたのであった。


ただその間の少女がご機嫌だったのは、気のせいではないだろう。

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