思考の狭間。
少女の仕事は基本的に日が暮れる事に終わりを告げる。
ほっておくと延々やり出す事が有るので、割と早めの内に決めた約束事だ。
少女は集中力は有るが注意力が無いので、終わり頃には大体誰かが声をかけている。
今日もその調子で、せっせと床磨きをしている所に単眼が声をかけに来た。
「おチビちゃん、もう日が暮れるよー。そして本来止めるべき人間も止まりなよー?」
「はっ!? しまった、久々に熱中しちゃった」
単眼は少女に声をかけてから、傍で同じ様に小物を磨き続けている羊角に声をかける。
羊角は最近余り掃除に熱中し過ぎる事はなかったが、今日は久々に周りが見えない程熱中していた様だ。
そして羊角の正気に戻った声につられたように、少女もはっとした顔を見せる。
少しキョロキョロと見まわしてから単眼に目を向け、今日の成果を見せる様に両手をピコピコと動かし床に向けた。
単眼はそれに応えて少女の横にしゃがみ、その成果を見て少女にニコッと笑顔を見せる。
「ん、綺麗になったねー。頑張ったね。えらいえらい」
単眼は少女を優しく撫でた後、座ったままの少女を抱えて立ち上がらせる。
そして軽く埃をパタパタと払い、ふと羊角に視線を向けた。
すると何故か羊角も同じ様に座ったまま、磨いていた小物を見せる様に手を突き出している。
「・・・何、どうしたの?」
「天使ちゃんと同じ気分を味わおうと思って」
「・・・少し拗らせ過ぎだと思う」
単眼は呆れて溜め息を吐きつつも、少女を立たせたのと同じ様に羊角を立たせる。
だがそれだけでは不満そうな様子でまだじっとしていたので、これまた同じ様に服をはたいた。
そこでやっと羊角は満足げな様子を見せ、少女に顔を向ける。
「これで天使ちゃんとおそろーい」
羊角はニッコリ笑顔で少女にそう告げて、少女もニコーッと笑顔を返す。
この時点で単眼は「どうしたんだろう、疲れてるのかな」と少しだけ羊角が心配になっていた。
だが少女と楽し気に手を繋いで横に振る様子を見て、余り気にする程でもないかと判断を下す。
「さ、おチビちゃんはお風呂に入って埃を落としておいでー。着替えは後で持って行ってあげるから、そのままお風呂に行って良いからね」
「じゃあ私―――」
「貴女は私と一緒に後片付けしようね?」
「――――はい、了解です。天使ちゃん、また後でね・・・!」
手を繋いだまま風呂について行こうとする羊角であったが、単眼に襟首を掴まれてしまう。
諦めて後片付けをする事にして、泣きながら少女に手を振って見送る羊角であった。
ただ最近はこの光景も慣れた物なので、少女は手を振り返してパタパタと風呂場に向かう。
「最近また天使ちゃんの反応がさらっとしてる。寂しい・・・」
「貴女の場合自業自得でしょ」
「ぐうの音も出ないわね・・・」
単眼の言葉に羊角は項垂れ、少し悲しくなりながら後片付けを始める。
その様子に苦笑しながら単眼も手伝い、パパっと片づけを済ませていく。
「終わったら一緒に入っても良いよね?」
「ハイハイ、私も一緒に行くからねー」
「もうそろそろ信用して欲しいと思うわ。カメラは持って入らないわよ」
「一度でも持って入った人間が信用されると思う?」
「・・・ぐうの音も出ないわね」
羊角は項垂れながら、何時か少女と二人っきりで風呂に入るのを夢みるのであった。
そして言われた通りパタパタとお風呂に向かう少女。
ただ脱衣所に入ると、どうやら先客がいる様子だった。
洗濯籠に入った服を見るに少年の様だ。
どうしようか少女は一瞬悩んだが、本当に一瞬ですぐさま服を脱ぎ始める。
使用人服を洗濯籠に入れ、タオルを手にポテポテと浴室に入って行く。
少年は今体を洗おうと、スポンジに洗剤を付けている所だった。
「あれ、旦那・・・様・・・」
てっきり男が入って来たのかと思い出入り口に顔を向ける少年。
だがそこに居るのはタオルを手に持つだけで、何も隠していない少女。
だというのに少女はそのままポテポテ少年に近づいて行く。
少年はそんな少女の体から目を離せない。
見ちゃいけないと思ってはいるのだが、意志と反して頭と目が動かない。
「あ、あの、えっと、その・・・」
腕がわっちゃわっちゃと動いている様が少年の混乱を良く表しているが、少女は少し不思議そうに首を傾げながらもニコッと笑顔を向ける。
そして走らない様にと以前怒られたので、ゆっくりぺたぺたと少年の下に向かう。
最近また前の様に接する事が出来る様になったので、折角なので体でも洗ってあげようと思ったらしい。
だが少女が近づくにつれ少年の挙動がどんどんおかしくなっていき、顔色も何やらおかしい。
少女は少し心配になり顔を覗き込みに行くが、そうなると必然少女の体が近づく。
視界に、少女の顔が、唇が、胸が――――という所で、少年は気を失った。
ふらっと倒れだす少年に驚き、慌ててハシッと掴む少女。
そしてどうしたら良いのかアワアワしている所に、羊角と単眼がやって来た。
二人とも服を着たまま浴室に入って来ているあたり、少女を止めに来たのであろう事は察する事が出来る。
だが現状は思っていたより酷い様で、二人共「あーあ」という感じの顔をしていた。
少女は気絶した少年を抱きかかえ、心配そうな表情で二人の下へ連れて行く。
すべってこけたら危ないので、慌てながらも慎重に。
少年の裸を見ても一切動じない少女を見て、まだまだ子供感覚なんだなと改めて認識する二人。
その二人が動じていないのは、少年を年下の子供だと思っているからだが。
「あちゃー・・・取り敢えず彼は私が介抱して来るから、おチビちゃんはゆっくり入っておいで。でも次から彼が入っている時に入って行っちゃ駄目だからね?」
「しかし気絶しちゃったか。本当にウブで可愛いわね、この子」
「うーん、確かに気絶は予想外かも」
「あらそう? 前にも一度似た様な事有ったわよ?」
羊角と単眼は二人がかりで少年の体を拭き、介護の様に服を着せて行く。
そして浴場を去って行ったので、少女はちょっと寂しく思いながらお風呂で一人温まる。
因みに結局何で少年が気絶したのか、少女は全く解っていない。
ただお風呂でまったり温まっている所で、そういえば男に「異性が入っている時は入って行っちゃいけない」と言われていたと思い出す少女であったが、既に手遅れである。
当の少年はと言うと、気絶した事で自分の裸体をまじまじと色んな人に見られた事、それも少女にしっかりと見られた事を自覚し、何とも言えない感情で悶える日々が続く。
そこには少女の体が頭に焼き付いて離れない事も含んでおり、大人にも子供にもなり切れない思考の最中を苦しむ少年であった。
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