ホラー。
少女は呆然としていた。視界に広がる景色に心を奪われていた。
見た事のない大草原に意識を奪われ、ぽかんと口を空けながら眺めている。
何処までも続く地平線。世の中にこんな所が有るのかと思う景色。
屋敷の周囲も広い平原は有るが、ここまで見事なものではない。
周囲に山は有るし畑も有る。地平線が見える程の開けた場所は見た事が無い。
何も無いただただ広い平原という物に少女は心を奪われた。
「何かフリーズしてるけど、大丈夫かー?」
男の言葉にはっとし、プルプルと横に頭を振る。
それと同時に視界が左右にブレて、少女は少し気持ち悪くなった。
自分の視界のブレとはまた違う横ブレに、少女は体を傾けてしまう。
「おっと危ない」
倒れかけた少女を男が支え、何とか転倒は免れた。
実は今少女が見ている者は現実の物ではない。
機械を通して見ている架空の大草原だ。
端的に言えばゲームである。箱庭系のゲームだ。
「そこクリア後の場所なんだけど、何も無くて綺麗だろ」
男の言葉にコクコクト頷く少々所だが、また同じ様に倒れそうになる。
これは駄目だと思った男は少女を座らせ、自分に寄りかからせる。
少女の視界にはゲームの画面しか映っていないが、それでも今どうなっているのか何となく察した様だ。
目は機械で隠れて解らないが、口元が緩んでいるのは確認出来た。
「因みにこれ脱出ゲーム・・・ホラーゲーなんだけど、やってみる?」
少女は楽し気にコクコクと頷いた
男の持つ電子ゲームはジャンルの偏りという物が少ない。
あえて少ない物を上げるならボードゲーム類が少ないというぐらいだろうか。
ボードゲームに関しては、電子ゲームで買うぐらいなら実物を買う主義だそうだ。
そんな男のゲームを借りて遊んでいる少女なので、ホラーゲームも慣れたものだった。
とはいえ慣れたのは最近の話で、最初はびくびくしながら遊んでいたのだが。
ゾンビ物でバーンと画面いっぱいに映った日など、怖くて女の部屋に泊まりにきたぐらいだ。
だがそんな日々も以前の事。
男や女と一緒に協力プレイが出来る物をやっているうちに慣れてしまった。
なので少女は余裕しゃくしゃくといった様子でコンロトーラーを手に取った。
取ったのだが、何だか操作が上手く行かない事に気がつく。
「逆向きに持ってるぞ。ほら、こっち向き」
どうやら逆さまに持っていたらしく、男が持ち直させてくれた。
少し恥ずかしそうにしながら少女はゲームを再開し、最初から始めて行く。
だが少女は侮っていた。最新機器の威力という物に。
少女がプレイするゲームは基本的にレトロゲーが多い。
最新機器も触らない訳では無いのだが、何故かレトロゲーが多い。
そしてレトロゲーのホラーの怖さと、最新機器のホラーはまた質が違うのだ。
結果。
少女は最新機器のリアルなホラーに敗北し、べそをかく事になるのであった。
その夜少女が一人で寝られなかったのは言うまでもないだろう。
尚、少女が男の部屋で叫んで泣く声を聞きつけた女が問答無用で殴り倒す場面も有ったが、日常の些細な一幕である。
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