初めての雪。
その日は早朝からチラチラと可愛げのある程度の雪が降っていた。
少女は今日も今日とてモコモコの格好で、玄関から楽しそうに空を眺めている。
物心つく前から奴隷であった少女にとって、初めて間近で体験する雪なせいだろう。
そして何故か少女に誘われ、少年もその隣で雪を眺めていた。
「き、綺麗ですね」
少年はとりあえず何か喋らなければと思い、口に出した精一杯がそれであった。
だが少女は特に気にせずコクコクと笑顔で頷き、うずうずした様子を見せている。
少年の言葉が何であろうと、おそらく笑顔を見せていただろう。
普段の少女なら既に突撃しているのだが、今日は使用人服ではないので我慢している。
雪は白くて綺麗に見えるが、それなりに汚れているものだと知っているのだ。
このまま突撃すれば綺麗な服を汚してしまうと思い、只々落ちて来る雪を眺めていた。
「・・・はぁ、良いぞ、着替えて来い。今日の予定は中止だ」
女の言葉にパァッと顔を輝かせ、パタパタと自室に戻って行く少女。
その様子を見て溜め息を吐きつつ少女を凝視しているが、これは何時もの病気である。
少年も最近は慣れ始めているので少し引く程度で済んでいるようだ
少女の本日の予定は、この後で勉強をするはずだった。
ただ勉強時は可愛い格好をして欲しいという女の願いから、使用人服は着る事が出来ない。
なので今日は勉強をお休みにして、使用人服に着替えて来て良いと許可を出したのだった。
そもそも女は最近、少女に勉強を教える必要性を感じなくなりつつある。
読み書きが一切出来なかった頃と違い、読めるようになってからの成長速度が速過ぎるのだ。
暫くすると少女は教えていないはずの知識も増え始めていた。
自ら調べて学習する少女に、自分の様な中途半端な教師など要らないのではと。
とはいえ少女と二人っきりで接する事の出来る大事な時間なので、けして止める気は無い。
これからも時間がある限りやるつもりの女であった。
「僕は他の仕事をしてきますね」
「何を言っている。お前は誘われたのだろう。遊んで来い」
「ええぇ・・・」
少年は今のうちに何かしらの仕事を捜しに行こうとしたのが、女に肩を掴まれ阻まれてしまう。
そして女の発言に困惑しながらも、上司の発言だからと大人しく留まるのだった。
悲しいかな上下関係。特に女は使用人の纏め役なので余計に逆らう事は出来ない。
だがその結果少女と共に居る時間となるので、少年にとっては良い事なのかもしれないが。
そうして暫く待つと、パタパタという音と共に何か丸い物体が玄関に走って来た。
良く見ると、それは合羽を着た少女だ。
すっぽりと体を包むタイプの可愛らしい合羽を羽織り、頭には角が二つ増えている。
足元も普段の靴ではなく長靴が履かれていた。
子供特有の可愛らしさを発揮しながら、雨具姿でかけて来る少女であった。
「――――その服はどうした」
「私でーす」
女は少女の可愛さに一瞬声が出なかったが、何とか気を取り直して質問を投げる。
すると少女の更に後ろからカメラを片手に羊角が歩いて来た。
どうやらこの服は羊角が用意した物らしい。
「可愛いでしょ~」
「・・・今度は着替えを撮ったりしていないだろうな」
「してませんしてません! あれ以降誓って紛らわしい事もしてません!」
「ならば良い」
羊角は咎められている間も手が完全に固定されている。もはやプロの領域だ。
だが少女はそんな事はお構いなしに、少年の手を取って外に出る。
心底楽し気に雪の中に突撃する少女だが、雪は相変わらずチラチラと積もらない程度の降り方。
それでも少女にとっては、始めて外に出て体験できる雪に大満足の様だ。
ただ楽しくはしゃぎまわっている少女とは対照的に、手を握られたり、顔が至近距離になったり、腕に抱きつかれたりと、少年は寒空の中でありながら雪が蒸発しそうな状態である。
女はそんな二人をいつもの酷い顔で眺め、羊角はしっかりとカメラに収めていた。
「あの二人が居ると微笑ましさが落ちるなぁ」
偶々通りがかった複眼は、思わずそう口に出さずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます