記憶の断片








「……あー、朝か」


目覚ましを止めて、体を起こす。


そうして、頭が覚醒するのを待ちながら、

ぼんやりと見ていた夢のことを思い出し――


何となくそれが、

忘れていた記憶なんだろうなと理解した。


「僕はミコに、

ちゃんと御堂の家で会ってたんだなぁ……」






――初めてミコを見た時は、

猫でも取り付いているんだろうかと思った。


何しろ、雨の音にも反応するほどの怖がりで、

何かあるとすぐに物陰へと隠れていたほどだ。


そんな子が『今日から妹になる』と知って、

僕が守らなくちゃと決めた。


もちろん、それが僕の思い上がりだってことを、

その日のうちに知ることになったんだけれど。



記憶の中で、誰かが言った。

『ミコちゃんは本当は従兄弟らしいね』と。


『ミコは妹だよ』僕は言い返した。


僕の中でのミコは、ただの妹だったから、

思ったことをそのまま言っただけだった。


けれど、その誰かは僕の言葉を聞いて、

笑顔で僕の頭を撫でてくれた。


『ミコちゃんが早くうちに馴染めるように、

一緒に遊んであげようね』


その言葉通り、僕とミコと誰かは、

いつも一緒にいることになった。


というよりも、警戒心の強すぎるミコが、

僕たち以外と馴染まなかった。


ただ、ミコが強かったのは

警戒心だけじゃない。


何よりも暗殺者としての能力が高く、

僕より年下なのに、僕よりずっと優秀だった。


場合によっては

大人さえも負かすミコ。


それを『見事な嫁候補だ』と褒める人もいれば、

『精神的に不安定で危険』と貶す人もいた。


そして褒めた人も、自分がミコに負ける番になると、

途端に貶す側に回っていった。


結局、ミコの周りには、

僕ら以外は誰も寄りつかなくなった。


ミコもまた、僕ら以外は必要ないようで、

特に周りに不満はないようだった。


けれど、誰かだけは困ったようにミコをたしなめ、

ミコが早く馴染めるようにと家中を連れ回していた。



そんな僕らの関係が崩壊したのは、

誰かがいなくなってからだ。


いついなくなったのかは、覚えていない。

いつの間にかとしか言いようがない。


その理由も分からないけれど、

とにかく、誰かがいなくなって――


ミコは、僕に冷たくなり始めた。


ああ……そうだ。


僕もまた、事あるごとにミコと比較され始めて、

それがどんどん辛くなっていったんだ。


少しずつ記憶が蘇ってくる。


誰かがいなくなってから、

落ち零れと笑われる毎日。


突然出て行った数多兄さん。


咎めるようなミコの瞳。


困ったような父さんの顔。


思い出せない誰かの顔。


そして、御堂の襲撃。


僕は、大人たちに言われるがまま、

ミコと一緒に隠れて――


けれど結局、

死地を求めて外に出た。


ミコが珍しく、

必死になって止めてきたことを思い出す。


危ない。行っても役に立たない。

死ぬだけだ。ボクを置いて行くつもりか。


お前一人で、逃げるのか――


最後はほとんど泣き声になっていたミコの声を、

僕は黙って振り切った。


そうして、逃げてきた道を逆に辿り、

屋敷のほうへと走る。


やがて聞こえ始める、

下卑た勝ち鬨。


屋敷を包む炎の輝き。


熱風と共に届く人の燃える臭い。


舌先で甘く溶ける死の気配。


徐々に伝わってくる情報に、

終末を予感した。


途端に怖くなって、足が止まった。


死にに来たはずなのに、

体がそれ以上進むことを拒否してきた。


けれど、

引き返すにはもう遅い。


誰かに見られている気配が、

息も詰まるような圧迫感に変わる。


そして、硫酸のプールに放り込まれたかのような、

皮膚に痛みが奔るほどの猛烈な危機感を覚えて――




「ぐっ……!」


そこまで思い出したところで、

頭が猛烈に痛くなった。


思考を中断して、ベッドの上で丸くなる。

布団を被って光を遮る。


そうして、頭痛が治まるのをじっと待ちながら――

ミコについて考えた。


せっかく久し振りに会ったのに、

僕はすっかり忘れていたこと。


御堂が襲撃された時に、一人残されたミコは、

果たしてどんな思いをしていたのかということ。


思えば思うほど、

ミコに対して申し訳ない気持ちになった。


そして、もう一つ。


あれだけ御堂の家に馴染めなかったミコは、

今、一体どんな気持ちでいるんだろう――と。






その日、ミコが登校すると、

教室の中がまた騒がしいことになっていた。


ただ、今日の騒ぎは、

いつものそれとは若干違うらしい。


何があったのか聞こうと、

ミコがちょうど廊下に出て来た佐賀島を捕まえる。


「ああ、おはよう。

えーと……あんたはあっちのほうね」


「どっちだか分からないけど、

まあ多分それで合ってる」


「それより、随分忙しそうだけど、

今日は一体何をやらかしたんだ?」


「それが、死体作家が出たの」


「何だそれ?」


「連続殺人犯よ。

被害者を描いた絵を毎回現場に残していく変態」


「しばらく活動してなかったんだけど、

今朝になってまた出たって報道があったの」


「……もしかして、

お前らが都市伝説で調べてたやつか?」


「そう、それそれ。

だから、今はどうしようかって話になってるの」


「調査は危ないからもちろん中止するとして、

これまで調査した資料も出していいのかーってね」


「……なるほどな」


単なる都市伝説ならともかく、

現役で動いている犯罪者の特集は問題になりやすい。


もし、調査資料を見た人間が興味を持てば、

新たな犠牲者となってしまう可能性もある。


余計な責任を回避するためには、

中止してしまうのが無難だろう。


もちろんそれには、

旬のネタの美味しさを捨てる覚悟が必要なのだが。


「いいんちょー!

トイレはもういいんですかー?」


「っ……あんの馬鹿たれ!」


「トイレに行く途中だったのか。

悪かったな」


「ああ、別にいいってば。

有紀アレみたいに騒がなければだけど」


「それより、あんたもクラスの一員なんだから、

文化祭の打ち合わせにも参加しなよ?」


「面倒臭い気持ちは分かるけど、

こういうのの積み重ねで仲良くなっていくんだからね」


「いーいーんーちょー!」


「あー、はいはい!

分がっだー!」



それじゃあまた後で――と、

佐賀島がトイレにぱたぱた駆けていく。


「……仲良くなったって、

意味ないだろ」





柵越しに街を見下ろしながら、

ミコが唸り声を漏らす。


景色に感心したわけでも、

誰かに聞かれようと思ったわけでもない。


インプットもアウトプットもない平坦な場を、

ただ埋めるだけの行為。


けれど、それだけでは物足りなくて、

ミコは何となく屋上の柵を蹴った。


何発か蹴って、金網が凹む。


何もなかった場所に、

ミコがいた痕跡が残る。


でも、それだけ。


形が変わっただけで、

本質である事故を防ぐ機能は変わらない。


金網を凹ませたのがミコであることも、

きっと誰にも分からない。


そして、この程度の破壊なら放置されるし、

仮に直されれば跡形もなく修理されるだろう。


そう思うと、虚しさが込み上げてきた。

自身の行いの無意味さが辛くなった。


何故なら、それは――


ミコが、今まさに

思い悩んでいたことだったからだ。


「……ボクは、

何のためにいるんだろう?」


自分がこの世界にいても、

何か意味があるようには思えなかった。


ミコ自身は、それなりながら、

世界に馴染もうとはしていた。


世界のルールはおおよそ把握し、

問題となる行動は起こさないようになった。


友達とまでは行かずとも、

安藤と佐賀島以外に話せる人間も増えた。


だが、感じていた異物感のようなものは、

消えてくれる気配がない。


タブーとなる行為は理解できても、

好かれる行動がどんなものなのか見当も付かない。


そんな状態で、既に出来上がっている輪に入っても、

どこに立てばいいのか分からなかった。


結局、今は琴子の作った居場所に、

避難するように落ち着いているだけ。


そして、周りはそんなミコを、

特別気にする様子はなかった。


つまるところ、自分には、

琴子以上の役割を求められていないのだ。


今週末には新天地に行くというが、

そこでもきっと同じだろう。


こっちの世界には、

どこを探しても自分の居場所はない。


せめて、御堂の家なら――


「……いや、ないか」


ミコが小さく首を振る。


御堂が居場所に思えたことがあったのは確かだが、

それもあくまで一瞬。


最後には、死体の河にミコ一人だけが残されて、

やがてミコ自身も琴子の殻に引きこもった。


そうして今では、

どちらが主人格なのかも分からないような状態だ。


どこにも居場所がない。

居場所を作れる気さえしない。


やってやろうと思っていた復讐も、

もはや自己満足さえ得られなくなっていた。


となれば――


「……消えようかな」


その結論に至るのは、

当然とも言えた。


消滅する方法は分からないが、

眠ることはできる。


起きている時間を限りなく減らしていけば、

そのうち目も覚めなくなるだろう。


数多という脅威が残っている間は無理だが、

逃げ切ってしまえばもう役目もあるまい。


新天地での生活が落ち着いたら、

その時は――


「ダメだよ、ミコちゃん」


「!?」


突然の呼びかけに振り返ると、

そこには――


「今、変なこと考えてたでしょ?」


「那美ちゃん……いつから?」


「ああ、今来たばっかりだよ。

廊下から、たまたまミコちゃんが見えたから」


「……よく、

ボクだって分かったな」


「だって、琴子ちゃんと全然違うじゃない。

表情とか、仕草とか」


難しい顔で、

自身の体を確かめていくミコ。


それを見て、

那美は口元を押さえてくすくす笑った。


「何か用なのか?」


「ミコちゃんに会いに来ただけだよ」


「……本当にそれだけ?

随分暇なんだな」


「ごめんね。でも……」


「何となくミコちゃんが、

昔の晶ちゃんと同じ顔をしてたから」


晶と同じ言われて、

ミコが渋い顔を作る。


一体、自分のどこが

晶に似ているというのだろうか――


「そんなに嫌かなぁ?」


「当たり前だろ」


「でも、何だかんだ言って、

ミコちゃんも琴子ちゃんと同じだと思うけどな」


「何が同じなんだ?」


「晶ちゃんのことが大好き」


「勘弁してくれ」


「でも、ミコちゃんが色々やってたのって、

晶ちゃんのためなんでしょ?」


『む』と唸って、

ミコが口をへの字に曲げる。


「魔法少女になって悪者をやっつけてたのも、

晶ちゃんが治安を心配してたからだろうし」


「前にお掃除のことで相談されたのも、

晶ちゃんが気にしてたからだよね?」


「そんなことない。

ボクが暇潰しでやっただけだ」


「それじゃあ、ミコちゃんの暇潰しが、

たまたま晶ちゃんの利益になってたんだ」


「……公益性のある

暇潰しだったからな」


「素直じゃないなぁ」


「随分と想像が働くもんだな。

晶が別人格だって気付いてなかった割りには」


「あー、うーん……

これは痛いところを突かれた」


「でもほら、当事者って、

自分のことがよく見えないものでしょ?」


「ミコちゃんが晶ちゃんを好きなのも、

きっと当事者だからよく分かってないんだと思うよ」


「……そうきたか」


腕組みして首を傾けるミコ。


その様子を那美がにんまり眺めていると、

那美の視線に気付いたミコが、ぷいと顔を背けた。


「っていうか、そうだ。

勘違いしてるようだから言っておいてやる」


「別にボクは、晶のことなんか好きじゃない。

殺してやりたいと思ってたくらいなんだぞ」


「大丈夫だよ。

私も殺さなきゃって思ってたことあるし」


さらりととんでもない答えが返ってきたことに、

ミコが思わず閉口した。


それから、ふふふと自慢気に笑う那美に、

呆れの色濃い息をついた。


「……那美ちゃんって、

絶対にバカだろ」


「うん。私もそう思うよ」


「でも、よかった。私のばかで、

ミコちゃんがちょっと元気な顔になって」


「これは元気じゃなくて

呆れてるだけだ」


「でも、さっきよりは

ずっといい顔だよ」


「……ボクはどんな顔してたんだ?」


「どこかに消えちゃいそうな顔」


思っていたことをズバリ当てられて、

ミコが決まり悪そうに目を横へ泳がせる。


「やっぱり、大変なの?

こっちの世界で生きるのって」


「……どうだろうな」


「ミコちゃんは頑張ってると思うんだけどなぁ。

それでも足りない感じ?」


「……よく分からない」


「それじゃあ、せっかくだから、

分からない理由を二人でちょっと考えてみない?」


「いや、いいよ別に」


「そんなこと言わないで。ねっ?」


「私も、ずーーーーっと一人で悩んでたのに、

ミコちゃんに話を聞いたら解決しちゃったんだから」


『私、気合いバッチリです!』という感じで、

那美がさあ話そうとミコに身を寄せる。


那美の悩みというのは、

晶を人殺しだと思っていたことについてだろう。


確かにそれは、晶の生い立ちを知るミコが話さなければ、

いつまでも解決はしなかったはずだ。


ミコは思う――自分が今抱えている悩みも、

もしかすると同じ系統なのかもしれない。


「……でも、理解できないと思うぞ?」


「ダメ元でいいじゃない。

人に話すだけでも、楽になるかもしれないし」


「じゃあ言うけど……」





「なるほどなぁ……」


異物感についての説明が終わった後に、

那美は金網に寄りかかったままふむふむと頷いた。


「どうすればいいと思う?」


「うーん……そうだなぁ」


「ミコちゃんじゃないとダメっていうのは、

ミコちゃんを知る人を増やすしかないんじゃないかな」


「誰にも知られてないから、

みんなミコちゃんのことを琴子ちゃんだと思うわけで」


「『琴子とミコは違うんだぞ!』って分かれば、

きっとみんなミコちゃんを知りたがると思うよ」


「そうやって、みんながミコちゃんを知ったら、

自然と居場所ができてるんじゃないかな」


「そうなのか?」


「うん。つい最近、

私もそれで居場所ができたから」


「ああ……」


那美が人を寄せ付けないようにしていたことを、

ミコは何となくだが琴子づてに知っていた。


その原因である晶への誤解が解けたため、

今は再び友達を作っているのだろう。


「だから、ミコちゃんのことも知ってもらえば、

きっと友達ができるようになると思う」


「でも……ボクを知ってもらうって、

どうすればいいんだ?」


「ミコちゃんなら簡単だよ。

ほんのちょっと、勇気を出すだけだから」


那美の言う勇気の意味が分からずに、

ミコが首を傾げる。


それに那美は『こういうこと』と微笑みかけながら、

ミコの小さな手をぱっと掴んだ。


急に手を取られたことにびっくりして、

ミコが那美の顔を見る。


そこには、朝の日差しに眩しく輝く、

那美の満面の笑顔が待っていた。


「私とお友達になろう」


その笑顔が、

あまりにも綺麗に見えて――


「う、うん……」


ミコは、促されるままに頷いた。


「はい。これでミコちゃんには、

私という居場所ができました」


「居場所……」


「私ね、居場所って、

みんなで作るものだと思うんだ」


「一人で待ってるだけじゃ、

なかなかできないのはそのせい」


「……観測されることで

初めて存在するみたいな話か?」


「うん。多分そんな感じ。

私のはもっと感覚的な話だけどね」


「誰かに声をかけて、自分のことを知ってもらって、

その人のことも知って……」


「その人といるのが楽しい、

一緒にいたいって思えたら、そこはもう居場所だよ」


「だから、ミコちゃんも勇気を出して、

みんなに言ってみるといいよ」


「『私も混ぜて』――って」


「あ……」


それは――


その言葉は、

ミコが御堂の家でも聞いた言葉だった。


御堂の家に連れて来られて、

誰にも馴染めず一人遊びをしている時。


優しい笑顔で、

その言葉をかけてくれる人がいて――


ミコは、御堂の家の中で、

楽しい居場所を見つけることができたのだった。


ふと、その時のことを思い返して、

ミコは薄く笑って頷いた。


自分も、あれをやればいいのか――と。


「参考になった?」


「まあ……何となく。

あと、ついでにもう一つ聞いていいか?」


「よーし、どんと来い」


「ボクは、琴子から気まぐれで出て来ただけで、

いつまた消えるかも分からない」


「そんなボクと友達になっても、

那美ちゃんに意味なんてないんじゃないのか?」


それは、今週末にも街を出るミコにとっては、

大きな疑問だった。


もし、自分が出て行くことを知っていたら、

那美は友達にならなかったんじゃないのか。


逆に、自分は出て行くのに、

那美と友達になる意味はあるんだろうか。


「え? 一日だけでも楽しいなら、

それでいいんじゃない?」


「えっ……」


「それに、私だっていつ死ぬか分からないしね。

ほら、私の体ってポンコツだから」


「でも、だからこそ、

毎日を大切に生きないと」


命に関わる持病を、

明るく笑って語る那美。


「……そうか」


その覚悟の深さに、

ミコは深く頷いた。


そして、思った。


あと僅かしか時間のない自分も、

この学園でまだできることはあるのではないか――と。






「あ、みこぽん戻ってきた!」


「ちょっとあんた、どこ行ってたの?」


「ちょっとな」


早く座れ、と目で促してくる佐賀島に、

ミコが涼しい顔で肩を竦める。


と思いきや、用意されていた席には行かず、

佐賀島の前に立った。


「何よ、何か文句あんの?」


「その……アレだ」


集まる複数の視線に若干の恥ずかしさを覚え、

照れ隠しに目を横に泳がせる。


が、それも束の間。


覚悟を決めて深呼吸をし、

居場所を作る魔法の言葉を口にする。


「ボクも混ぜろ」


那美の話では/自身の経験則では、

これで温かく迎えてくれるはず――


「はぁ? 今さら何言ってんの?」


「えっ」


「私は最初っから混ざれって言ってたでしょーが。

あんた話聞いてなかったわけ?」


「っ……!?」


予想外の反応に、

ミコがたじろぎ後ずさる。


そんなミコの手を、

佐賀島は面倒臭そうにガッと勢いよく掴んだ。


「ほら、分かったらさっさと席に座る!

早くしないと授業始まるんだから」


「お、おま……このっ……」


せっかく人が勇気を出したのに、

何だその反応は――


そんな言葉を口にしようとした瞬間に、

ミコの目の前にプリントが突き付けられた。


「はい、これ見て」


「……何だこれ?」


「この街のマップと犯罪の分布。

ついでに、死体作家の犯行現場もね」


「それ見て、どの辺りまでなら事故なく歩けるか、

あんたの意見を聞いておこうと思って」


「死体作家は諦めるにしても、

他の都市伝説の調査はまだあるからね」


どかっと音を立てて、

佐賀島が椅子に腰をかける。


それから、眉根を寄せるミコに向けて、

強気に微笑む。


「そういうわけだから、餅屋の意見をちょうだい。

こういうのは、あんたが一番知ってるんだから」


ミコは、

しばし呆然と美咲を眺め――


やがて、口元をへの字に曲げて、

横を向いてふんと鼻を鳴らした。


「教えて欲しかったら、

『教えて下さいミコ様』と言え」


そうして、朝の一年の教室は、

かつてない賑やかさを迎えるのだった。



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