幽との関係2


「じゃあ、次の質問ね。

ゲームのルールを詳しく教えて欲しい」


「ABYSSのゲームの?

だいたい昨日話したやつで全部よ」


「お互いの正体を上手く特定して、

殺し合いは人目に付かない場所でやる。これだけね」


「……結構アバウトなんだね」


「だって、プレイヤーもABYSSも

やることは決まってるんだもの」


……まあ確かに、それ以上の細かいルールは、

あっても無意味な気はする。


それに殺し合いである以上、細かいルールがあっても、

切羽詰まれば破る人がほとんどだろう。


「じゃあ、勝利条件と敗北条件は?」


「敗北条件は一つだけよ。

死んだら負け」


……その辺は予想通りか。


「でも、敗北条件“は”ってことは、

勝利条件は複数あるってことだよね?」


「ええ。でも、

こっちもかなりシンプルよ」


「プレイヤー側の勝利条件は、

ABYSSの部員を三人以上か、部長を殺すこと」


部員三人か、部長――


ABYSSは五人だから、

過半数を殺すのと部長を殺すのは同じ価値ってことか。


どっちも厳しそうだけれど、

幽は大丈夫なんだろうか?


「心配そうな顔してるけど、私はこれまで、

二つの学園でABYSSを潰してきてるのよ?」


「部長との戦いも経験してきてるし、

特定さえ終われば、この学園も行けるに決まってるわ」


「ああ、それなら

問題なさそうだね」


「あと、今の話でちょっと思ったんだけれど、

ABYSSって全国でどれくらいあるの?」


「さあ。各県に

二つか三つくらいじゃない?」


「そんなにあって、大事にならないの?

行方不明とか死亡の案件が増えるのに」


「別にならないわよ。

なってないでしょう?」


……まあ、確かに。


各県で三つ、ABYSSのいる学園があるとして、

47×3で、141。


毎月一回の儀式が行われるとすれば、

141×12=1692。


生け贄と人質に、

ABYSSが一人毎回殺されるとしても、

1692×3=5076。


所在の確認できない年間の行方不明者数が、

確か一万人くらいだったはずだったか。


一応、枠の範囲内ではあるんだな。


事故や自殺として処理されることも考えれば、

不自然に見える数じゃないのかもしれない。


まあ、ABYSSの数は幽の推測だから、

実際の数とは違ってるんだろうけれど。


「じゃあ、話を戻して……」


「幽が三つ目の学園に来てるのって、

複数クリアしないと賞品がもらえないから?」


「ええ、そうよ。三つの学園を潰して、

初めてプレイヤー側にも報酬があるの」


「報酬は三つあって、

どれか一つを選択することになるわ」


幽の語った具体的な報酬は、三つ。


莫大な賞金か、叶えることができる範囲での願いか、

“次のゲーム”に進むことのできる権利だ。


「最後の“次のゲーム”はよく分からないけど、

私には別に関係ないからどうでもいいわね」


「……ちなみに、

幽の目指しているのは?」


「二つ目よ」


つまり、

叶えることのできる範囲での願いか。


でも……それってどうなんだろう。


「なによ、人の顔をじろじろ見て?」


「いや……」


……僕の実家は、

暗殺を生業にする家系だ。


人を殺すことで、

日々の糧を得てきた。


僕は、他人の流した血で

育ってきたと言っていい。


そんな僕が、

言えた義理じゃないのは分かってる。


それでも、やっぱり気になる。


「それは――

人を殺してまで叶えたいの?」


幽の眉間に皺が寄り、

形のいい眉の端が上がる。


その怒りは当然だろう。

けれど、どうしても聞いておきたい。


だって、僕の協力を拒んだり、

琴子のことを助けてくれたこの子は。


私利私欲で、

人を殺すようにはとても見えないから――


「教えてもらえない?

人殺しまでして叶えたい願いが何なのかを」


「……それを聞いて、どうするの?

聞いたところで何も変わらないわよ」


「でも、納得はできる」


「晶が納得してどうなるのよ。

そんなので、私の人殺しを許してくれるの?」


「許すよ」


嘲笑混じりの質問にそう答えると、

幽は思い切り目を丸くした。


けれど、それは本当のことだ。


納得さえすれば、少なくとも僕は、

人殺しを許せる。


「だって――」


僕自身が、

そういう環境で育ってきたから――


「……人殺しも突き詰めれば、

誰かの利が誰かの損になるって話だと思うんだよね」


「奪う行為だから、悪であると思われがちだけれど、

実際はそんなの見る人によって全然違ってくるし」


「僕は、それぞれの基準で、

人殺しを許すか許さないか決めればいいと思う」


「ちなみに僕の基準は、

自分の周りに被害が及ばないことだね」


「あと、命は不可逆的なものだから、

目の前で殺されそうな人は、極力助けたいかな」


「それ以外は、場合によるとしか言えない。

治安だけを考えるなら、もちろんダメだけれどね」


「だから、幽の叶えたい願いを

知りたいんだ」


「幽の目的とするところが、

僕の周りに被害を及ぼさないって確認したいから」


「……何なのよ」


幽が不機嫌そうに鼻を鳴らす――

唇を尖らせて顔を横へ向ける。


「随分と言ってくれるじゃない」


「ごめん」


「まあ『人殺しはいけないからやめよう』

とか言い出さないだけマシだけど」


「あいにく僕は、いけないことだとは思っていても、

手段の一つとして殺人を評価してるからね」


「人を殺したこともないくせに、

分かったようなことばっかり言うのね」


「それを言われると、

耳が痛いかな」


人を殺したくても殺せなかった

暗殺者崩れなだけに、余計に。


「ただ、だからこそ、

命を奪うことの重みは分かってるつもりだよ」


「人を殺すのって、簡単にできることじゃない。

僕にはどうやってもできない」


「そんな大変なことを、

覚悟を持ってやってる幽は、凄いよ」


「別にそんな……

褒められるようなもんじゃないわよ」


「まあ、人を殺すのを凄いって言われても、

別に嬉しくはないか」


変な褒め方しちゃったかな――


そう頬を掻くと、幽は呆れたように鼻で笑って、

強張っていた表情を崩した。


「多分、晶にはつまらない理由よ?」


「それは僕が決めるよ」


「……じゃあ、教えてあげる」


幽は、しょうがないわねと溜め息をついて、

そっと目を伏せた。


「復讐よ」


「復讐って……仇討ち?」


「ええ。何に対しての復讐なのかは教えないけど、

私が叶えたい願いっていうのは、復讐すること」


「……そっか」


随分、後ろ向きな理由なんだな……。


赤の他人が勝手に想像するのは失礼なんだろうけれど、

やっぱりそう思わざるを得ない。


でも――


「幽はきっと、

それをしないとダメなんだよね?」


「もちろんよ。

それだけを考えて頑張ってきたんだもの」


「前に進むにしても後ろに戻るにしても、

私は復讐をやり遂げなきゃダメなのよ」


幽が瞳を鋭く細める。


そこから香ってくる強い意志に、

幽が誰かを殺すために捨ててきたものの重さを感じた。


そして、その捨ててきたものを天秤にかけてもなお、

その復讐が彼女にとって大切なものだということも。


でも――


「[辛'つら]くないの?」


命を賭けて、全てを捨てて恨みを追い続けて、

苦しいとか寂しいとか感じないんだろうか。


「……どうしてそんなこと聞くのか分からないけど、

別に辛くはないわね」


「逆に、生きてる感じがするわよ。

学園を一つ落とすたびに、目的に近づいてる気がして」


「……そっか」


幽が満足してるなら、

僕から何かを言う必要はないな。


部外者の僕からとやかく言われても、

うざったく感じるだけだろうし。


それに幽の願いは、

僕の目指すところと何ら矛盾していない。


協力関係を結ぶのに支障がないんだから、

そこに個人の価値観を挟むのは無粋だろう。


「オッケー。

じゃあ、次の質問いい?」


「それを許可する代わりに、

おかずをもう少しもらってあげてもいいかしら?」


「……何だか日本語がおかしいけれど、

全部持って行っていいよ」


お弁当箱ごと渡してあげると、

幽はぱぁっと顔を明るくした。


まあ、コッペパンだけの昼食に、

少しでも貢献できたならいいことだ。


幽の口が緩んでるうちに、

次の質問にいこう。


「プレイヤーとABYSSの背後にあるものって、

やっぱり繋がってるの?」


「詳しいことは知らないけど、

お金が出ているところは同じみたいね」


「……やっぱりそうか」


複数の組織が対立してるなら、

幽の口からそういう話が出てきてるはずだし。


それに代理戦争なら、プレイヤーとABYSSの人数が

同じでないのはおかしい。


一対五という、プレイヤー側に圧倒的に不利なルールで

ゲームが成り立ってるんだ。


両者の対戦結果が何かに影響を及ぼすことは、

恐らくないんだろう。


「結局、ゲームなんだと思うわよ。

ビデオを撮るのもそうだし、ルールを決めるのもそう」


「普通じゃ味わえない残酷な見世物を、

楽しもうとしている連中がいるのよ、きっと」


「……それが一番ありそうだね」


「まあ、そのおかげで復讐できるんだから、

私としてはゲームだろうと何でもいいんだけど」


プレイヤーもABYSSも……いや、観客もか。

旨みがあるから参加するんだな。


誰にも迷惑をかけないならそれで構わないけれど、

ABYSSの場合はそうはいかない。


やっぱり、周りが巻き込まれる前に、

早めにどうにかしないと。


「次の質問は?」


「ああ、えーと……

とりあえず予備知識的なところは十分かな」


後は、何か分からないことが出て来た時に

聞けばいいと思うし。


「ああでも、そういえば、

一つだけ聞いておきたいことがあったんだ」


「幽が一年生の男子生徒を

二階から突き落としたって話って、本当なの?」


「ああ、アレね。本当だけど?」


特に悪びれるでもなく、

さらりと言ってのける幽。


やらかしたという自覚は

全くないらしい。


「……何でそんなことしたの?」


「ABYSSっぽいやつを特定したから、

試しに突き落としてみたのよ」


「ムチャクチャ過ぎる!」


「でも、受け身も取れないド素人だったのよ。

ハズレだったなんて、ついてないわ」


「ついてないのは

その生徒なんだけれど……」


いきなり二階から突き落とされたなんて、

トラウマになっても不思議じゃないぞ……。


逆に幽は、その生徒が死ななくて

本当にラッキーだった。


関係ない人を間違って殺してしまったら、

プレイヤーは確かその時点で負けだったはずだし。


「今後は僕も協力するから、

ABYSSの調査は慎重にやろう。ね?」


「大丈夫よ。もうやらないから」


……やたらと返事が軽いけれど、

本当に大丈夫なんだろうか?


まあ、今後は僕が極力、

幽の変な行動に目を配っていくしかないか……。


「晶からの質問が終わりなら、

今度はこっちから質問ね」


「晶って、本当に

プレイヤーじゃないの?」


「……プレイヤーだったら

一杯質問してないと思うけれど、何で今さら?」


「だって、あなたの身体能力って、

プレイヤーに片足を突っ込んでるんだもの」


「あと、経歴がおかしいし。

何故だかABYSSに関わろうとしてくるし」


「その辺りは、前に説明した通りだってば。

どっちも僕の意思とは全然関係ないところでの話だよ」


「それは分かってるんだけど、

プレイヤーの特徴に当てはまりすぎてるんだもの」


「……それは否定できないね」


僕が幽の立場だったとしても、

プレイヤーかABYSSだと思うだろうし。


「でも、プレイヤーって、

一つの学園に何人も配属されるものなの?」


「普通はないわよ」


「……普通はって、

例外があるの?」


「ええ。まさにこの学園が例外ね」


この学園が……?


「よく分からないけど、この学園には、

一年以上前にプレイヤーが派遣されてるらしいわ」


「それ、本当に?」


「今もいるかは分からないわよ。

そのプレイヤーが動いてる記録はないらしいし」


「もしかすると、卒業したり、

死んだ可能性もあるでしょう?」


「ああ、そっか」


「でも、もし残ってるなら、

こういう人じゃないかと思ったわけ」


幽が僕の目の前に

食べかけのコッペパンを突き付けてくる。


「さあ、正体を明かすなら今のうちよ?」


「……残念ながら、

僕は正体なんてないってば」


「っていうか、もし僕がプレイヤーだとしたら、

幽が転入してきた時点で協力してるでしょ?」


「いいえ、逆だと思うわよ」


「逆って……どういうこと?」


「プレイヤーがもし同じ場所に二人以上いたら、

まず間違いなく獲物の取り合いになるってことよ」


「敵は同じABYSSでも、報酬は一人分なのに、

一緒に狩るなんてあり得ないでしょう?」


「プレイヤー同士での協力は

できないってことか」


「そういうこと。

だから、あなたがプレイヤーじゃないか気になったの」


「でも、もしも晶がプレイヤーだったとしても、

その時はすぐに片付ければいいって今気付いたわ」


「……頼むから早まらないでよ?

僕はプレイヤーじゃないんだから」


「無関係の人を殺したりしたら、

幽だって死ぬことになるんでしょう?」


「ああ……言われてみればそうね」


危うく死ぬところだったわ――と頷きながら、

もぐもぐもぐとコッペパンを咀嚼する幽。


……この子、

本当に大丈夫なんだろうか?


「質問はこれで終わりかしら?」


「そうだね。あとは、現時点で分かってる

ABYSS候補を確認しておきたいかな」


「とりあえず、僕自身が見て確かめた限りだと、

鬼塚は間違いないと思う」


「そうね……私もそう思うわ。

晶の次に怪しいのはあいつだから」


……僕が一番だったのか。


そういう要素が固まってるのは否定できないし、

そこを突っ込むのは今さらだな。


それよりも、

他のABYSS候補を――


「げっ」


今、視界の端に

見えてはいけないものが見えてしまった……。


「あー……ちょっとストップ」


話を続けようとする幽を手で制しつつ、

後ろを見てねと指で示す。


それに、幽は訝しげな顔を作りながら、

面倒臭そうに振り向いて――


「……来ちゃった」


空っぽにしたばかりのお弁当箱を、

盛大にひっくり返した。


「な、何で爽がここにいるのよっ?」


「だって、魔女子さん屋上に行くって言ったじゃん?

そしたら、あたしも来るしかないじゃん?」


一体どういう理屈なんだ……。


「だって、二人でABYSSの話してたんでしょ。

お役立ち情報とか入り用じゃない?」


「ABYSS……?」


あ、まずい。


とか思っていた矢先に、幽から

呪い殺されるかと思うほど激烈な視線が飛んできた。


これは……僕に非があんまりないことを説明しないと、

後で本当に殺されかねないな……。


「あー……ええと、実は、

生徒会の不審者調査の件を話したんだ」


「一応、ABYSSも不審者のカテゴリに入るから、

ABYSSを興味で調べてる幽と協力してるって」


「ふぅん……」


何それ私気に入らないんですけど――とばかりに、

しかめっ面を向けてくる幽。


それに、心の中で謝り倒しながら、

幽から逃げる、もとい、爽に視線を移す。


「で、お役立ち情報って?」


「そそ。朝に晶に話し聞いてから、

授業中と休み時間全部使って超調べたんだよね」


いや、そんなことしてるから

試験で苦労するんだよ……。


「っていうか、

何でそんなことやってるのさ?」


「だって、晶と魔女子さんを

二人きりにしておけないじゃん?」


そんな理由で凄い情熱を……。


「それより、この学園でのABYSSの候補者、

あたしなりに絞って来てみたんだよ! ほらほら!」


携帯を取り出して、

水戸黄門の印籠のように掲げる爽。


それを『ふーん』と

つまらなそうに見やる幽。


ああ、この反応は、

全く期待してないやつだな……。


「ま、まあ、

せっかくだから聞かせてもらおうよ」


不憫に思って話を振ると、

爽は待ってましたとばかりに携帯を操作し始めた。


「えーと、ABYSSって五人じゃん?

でも、実はあんまり絞れなかったんだよねー」


「っていうか、どうやって調べたの?」


「学内掲示板とか噂話とか、

あとは余所の学園の音楽友達とか」


「もちろん、

怪しいやつにバレないようにだけどね」


「でー、とりあえず十五人?

結構多いんだけど、順番に言ってくね」


「えーと、まずは鬼塚耕平」


「素行不良だし、入学前後で性格変わってるしで、

こいつは普通にABYSSっぽいよね」


「晶たちも、鬼塚はABYSSだって

思ってたんじゃない?」


「……まあ、そうね」


「んじゃ次。片山信二」


――幽が、隣で息を呑むのが分かった。


っていうことは、この片山って生徒も、

幽が候補に入れてたのか……?


「こいつはバリバリの優等生っぽいけど、

裏では不良集めて何かしてるみたいなんだよね」


「噂ではゲームをやってるとか何とか?

あたしはそれが、ABYSSだと思ってるわけ」


「その理由は?」


「集めてる人数の多さ。

普通、ゲームで何十人単位で集めないっしょ?」


「そんなに人使うのって、サバゲーみたいなゲームか、

すっげー裏方が必要なゲームしかないじゃん」


「なるほどね。

それがABYSSってことか……」


その通りだと思うと同時に、

爽の調査と考察の精度の高さに驚いた。


幽を見る。


今の僕が恐らくそうであるように、

彼女もまた信じられないという表情をしていた。


まさか、この短時間で――

いや、爽がここまでやってくるとは。


そんな僕らの気持ちを知らずに、

爽が次々と名前を挙げ理由を述べていく。


その途中で差し挟まれる説明――

本命は最初の二人、鬼塚と片山。


あとは、その二人と交流のある人物として、

丸沢豊という男子生徒の名前と、


佐倉那美、森本聖という名前が出て来た。


「……一応言っておくけど、可能性だかんね?

私情なしで選んだんだから!」


「うん、分かってる……」


分かってはいるけれど、

その二人の名前が出てくるのか。


でも、同じクラスの聖先輩はともかく、

佐倉さんが片山と仲良くしてるっていうのは……?


そう考えたところで、

昨日の帰り際の光景が脳裏を過ぎった。


「……片山って男子生徒だけれど、

もしかして、髪の毛が長めだったりする?」


「そうだけど、見たことあんの?」


「まあ……ちょっとね」


ということは、

昨日のあれが片山か。


幽が佐倉さんと片山を見ていたのも、

ABYSSと疑っていたからだとすれば、辻褄も合う。


でも、佐倉さんがABYSSだなんてことは、

さすがにあり得ないだろう。


僕の知ってる佐倉さんは、

他人を殺すなんて絶対にできる人じゃないんだから。


「……ま、まあ!

一番怪しいのは晶だけどね!」


「はぁ!? 何で僕っ?」


「調べてるやつが実は真犯人でしたーっていうのが、

刑事ドラマとかの常識でしょ」


「あと、優等生の皮を被って、

実は裏でえげつないことやってる系」


あのね……。


「同意」


「えっ」


「ちょっと幽、

いきなり何を言い出すの!?」


僕は違うってあれほど確認したじゃない!


「だって晶が怪しいのは本当じゃない?」


僕に流し目を投げつつ、

にやりと笑う幽。


「え、なになに?

もしかして晶ってマジでABYSS?」


「条件に一致しまくってるのは間違いないわ。

ここまで言えば……後は分かるわよね?」


「そういう言い方やめてよ!

違うから! ホント違うから!」


「えー、晶ってそんな人だったんだ……」


「しかも、私のことを

ABYSSだって疑ってたのよ?」


「えぇーっ! ひっどーい!」


「ひどいのは幽だから!」


「この後に及んで私を悪者にしようとする辺りに、

晶の闇をかきまみるわ……」


「……えーと、[垣間見'かいまみ]る?」


「っ……ど、どっちでもいいでしょう!?

意味が通じてるんだから!」


顔を赤くして逆ギレしてくる幽。


それを何故か全面支援する爽。


論理は無茶でも、

謎の結束力を持った女の子には当然勝てるわけもなく――


僕のお昼休みのロスタイムは、

一方的な防戦で終了を迎えることになったのだった。



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