第11話 新婚4



 夏の終わり。町に新たな診療所ができたことで、オスカーの多忙な日々は終わりを告げた。あい変わらず、往診はあったものの、急患が減ったことで気持ちに余裕ができた。もともと、生活のために開業したわけでない。患者が減っても問題なかった。

 午前に診療をすませると、初老の看護婦に留守番をさせ、メアリとふたりででかける。領地を見て回るためだった。

 小さな領地には村がふたつと畑、あとは牧場の丘と小さな森だけだ。森には小川が流れ、ローレンソン夫妻の格好の休憩場所だった。今日は東の村を視察した。その帰り道だった。

 片道四十分ばかりの距離にある村を視察し、人々の暮らしぶりを訪ねた。その途中、村の雑貨屋でパンとチーズ、ビールを買った。それを、小川のそばで食べる。

「今年はリンゴがたくさん収穫できそうだわ。リンゴ酒も楽しみね」

「そういえばウォートンはリンゴ酒の産地で有名だったな」

「税としてお屋敷にも分配されるの。それでクリスマスを祝うのよ。戦争前はいつもにぎやだったわ」

「へえ。今年は僕とメアリだけかな」

「ポーラはどうしよう。ビアズリーも来るのかしら」

「あいつのことだからなあ。押しかけてきそうで困るよ」

「そうね。でもポーラにはごちそうを食べさせたいのよ。宿泊させなければ、いいかしら」

「妥協するとしたら、それだな」

「決まりね」

 ふたりは見つめ合い、笑う。意見が一致した、と。

――今だ。

 オスカーは顔を近づけ、メアリにキスをする。

 温かい。そして柔らかい唇の感触がたまらなかった。

 顔を離すと、うっとりとした表情で、メアリがおのれを見つめていた。

「オスカー、愛してる」

「僕もだよ、メアリ」

 またキスをする。今度は舌先が触れるのがわかった。ゆっくりとだが、確実にたがいの距離が縮まる。

 父に助言された翌日から、オスカーは時間があれば、メアリとすごすようにしていた。始めはいっしょに散歩をし、ときに手を握る。それに慣れてきたら、抱きしめ合った。そして、キス――。

 昨夜はいっしょのベッドで眠った。肉体関係はなかったが、妻の匂いと体温がこんなに心地よいものだと知らなかった。

――あと少しで、本当の夫婦になれる。

 そう、感じた矢先だった。

 屋敷にもどり、オスカーは診療所に来た患者を診察し、メアリは少女メイドと家事をする。地下の厨房から、女料理人が晩餐の支度をする匂いが、漂っていた。

 いつもどおりの穏やかな日常だ。

 そういえば、とオスカーはジョンから来た手紙を開封し、読んだ。

――兄さんらしくないな。

 と、思った。

 以前、話していたが、まだジャックが夢に出てくるのだという。そして卑怯なおのれを責めるのだ。ひどい夜は一睡もできない。

――父さんには相談しないのか……。

 少年時代から負けず嫌いだったはずの兄。その心が、壊れそうな予感に、オスカーは胸騒ぎを覚える。

 晩餐になった。オスカーはメアリにジョンの苦悩を話してみる。彼女の意見が欲しかった。

「……しばらく、実家に帰ってみたらどうかしら」

「きみが寂しいだろうに」

――せっかくこれからというときに……。

 内心、間の悪さに悩んでいた。

「いいのよ。お兄さまが苦しんでるんですもの。たくさんお話してあげて」

「メアリがそう言うのなら。すまないな」

「その代わり」

 と、メアリはフォークとナイフを置き、真剣なまなざしをオスカーに向ける。

「今夜はわたしと寝て。お願い」

「もちろんだとも」

 自分でも自然とそんな言葉がでてくることに、密かに驚く。それを悟られないよう、笑顔で返した。

 就寝前、少女メイドに湯を用意させ、浴室で身体を洗う。パジャマに着替え、メアリの寝室に入ると、すでに彼女はベッドに入っていた。

「来て、あなた」

「ああ」

 オスカーはメアリのネグリジェを脱がす。ランプのほのかな灯りに照らし出された妻の肢体は、豊かな臀部をさらけだしていた。

――うまくできるか。

 おのれのそんな不安を見透かしたのか、メアリが言った。

「今夜がだめだったら、つぎの夜があるわ。それもだめだったら、またつぎの夜。だってわたしたち、夫婦なのよ。死ぬまでいっしょなのよ」

 妻の深い優しさに、オスカーの緊張が瞬時に解けた。

「愛してる、メアリ」

 パジャマを脱ぎ捨て、メアリの上に乗り、口づけをした。そして首筋、乳房――。

 メアリの胸は大きく、柔らかかった。ジョンが茶化したように、それはたまらない宝物のようだ。夢中で吸った。

 ふと、彼女が感じているのが肌を通して伝わる。身体を小さく揺らし、かすかに甘い声をもらしていたからだ。

 オスカーはおのれの身体が興奮するのがわかった。メアリの脚のあいだに指を這わせ、そっと秘められた部分に触れた。指先が濡れる。少しだけ奥に入れてみた。

 メアリがあえぐ。

「いいかい」

「え、ええ……」

 女の脚を開かせ、オスカーはなかに入った。

 が、きつくてなかなか進まない。力をこめて入ろうとする。

「い、や――!」

「我慢して。もう少しで奥に」

「だめ、だめっ!」

「――ぐふっ!」

 腹に強烈な衝撃が走り、オスカーはベッドから転がり落ちた。メアリに蹴られたのだ。

「あなた。ごめんなさいっ!」

 悲鳴に近い声で謝罪するメアリ。

「そ、そうとう痛かったようだね…………」

「すごく痛くてびっくりしたの」

「……」

「……」

 気まずい空気が流れる。そのとき、父の助言が脳裏によみがえった。

――あせってしまうと心が離れてしまいかねない。

 オスカーはベッドにもどると、表情を失くしたメアリに口づけをする。

「ほら、泣かないで。きみは言ったじゃないか。死ぬまでいっしょだ、と。今夜がだめなら、またつぎの夜がある」

「ええ」

「無理にしなくてもさ。手でするとか、口でするとか、いろいろあるし」

「じゃあ、あなた。手でして」

 オスカーはメアリを指で慰めてやった。痛がらないように優しくなでると、甘い声で応える。たくさん濡れた。

「僕のもして」

 つぎはメアリがオスカーを愛撫した。すごく気持ちが良くて、妻の手のなかで射精をする。不思議なことに恥ずかしさはなかった。

 それどころか、メアリのすべてが愛おしくてたまらない。

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