決めるのは
新たな襲撃者に、道化集たちはルルーを置いてけぼりにして大騒ぎだった。
戦えるものたちで戦えそうなものたちは四方八方に散らばり警戒し、そうでないものたちは荷物をまとめて移動の準備に取り掛かった。
寄ってたかって叩かれ、動かなくなった二人を遠巻きに見張るのは二人、オセロとコロンだった。
それぞれ無事な半面を向けあって、黙って並んでいた。
目線は合わせてない、だけどお互いが意識し合ってるのはルルーにもわかった。
それで何となく、二人の間から一歩下がった位置に、ルルーは立つ。
「……いつからだ?」
コロンの問いかけにルルーは思わず返事しそうになる。
「オセロ。お前は、私との決闘を本気で戦ってなかった。初めは、ただ単にわざと負けようとしてたのかとも思ったが、違うんだろ?」
「んなこと言われてもなぁ」
いつも通りに戻れたオセロ、その姿に目も向けずにコロンは続ける。
「この二人が飛来してきて、そちらを警戒してたから、決闘に打ち込めなかった。あれは、本気じゃなかったんだろ?」
「そりゃぁ、まぁ本気じゃなかったのは認めるけどよ。別に警戒なんかしてなかったぞ」
「なんだと?」
怒気の孕んだコロンの声、それに気が付かないでオセロは続ける。
「だってよ。暗いって言ったって、こんだけでかいのが飛んでんだぞ? それもンなのがぶら下がっててよ。嫌でも目立つだろ? まぁ、あのなんだ? フォークでいいのか? あれ構えてやっとやばいってなってたがよ」
「まて。その口ぶりは、最初から見えてたというのか? たまたま視界に入ったのではなく?」
「まぁそうだな」
「それは、お前は、それだけ視野が広いと言うのか?」
「広い、んだろうな」
「それは、今でもか?」
「今も何も、視野の狭め方なんか知らねぇよ。ってか、お前らが狭すぎるんだよ。何でわかんねぇんだよあんなはっきりしてるのに。今だって、あそこの目立つのわかってないんだろ?」
向こうの茂みを無造作に指さすオセロに、ザワリとルルーの背後がざわめいた。
振り向けば道化集、オセロを警戒してたのだろう。そんな彼らは速やかに動いて、茂みへと殺到した。
「待て! 俺! 俺だよ! 待ってって! 痛い! 痛いから! 硬いので殴んないで!」
あぁなんだ、タクヤンか。
「……凄いな。あれがわかったのか」
引きずり出され、叩きのめされてるタクヤンを見ながら、コロンはぼそりと呟いた。
「まぁあれは知り合いだからわかりやすかったよ。だけど、あ、ナイフ失くした」
ごそごそするオセロ、そいえばこの二人に投げつけてから回収してなかったっけ。
そんなオセロの横でコロンも、パンツの前をごそごそとまさぐって、そこから長い何かを引っ張り出すとオセロへ投げつけた。
パシリ、と顔も向けずに受け取ったオセロは、それをまじまじと見る。
「決闘の前に渡すべきだったが、今回のことで助力してもらった礼だ。受け取ってくれ」
コロンに言われてオセロはそれを引き抜く。
現れたのは、黒い刀身のナイフだった。よく切れそうな刃と、峰にはギザギザののこぎりのようになっていた。
「軍用ナイフの先行モデル、といってもだいぶ前だからもう市販されてるかもしれないが、切れ味は保証しよう。それから、だ」
そしてフゥ、と息を吐き出すと、オセロに向き直った。
「完敗だ。この決闘、私の負けのようだ」
「なんでだよ」
受け取ったナイフを腰に刺しつつ、オセロは食い気味に訊き返す。
これに、コロンは口元をほころばせる。
「忘れたのか? これはどちらがレイディを、あのルルーという少女を守れるかを競うための決闘だった。だが私は、お前との戦いに熱中しすぎて、おろそかになっていた。そんな私が勝者になれるわけもなかろう」
コロンの敗北宣言に、オセロは頭を掻く。
「…… それを言うなら、もっと前に俺は負けてるだろ?」
オセロが言う。
「あの時、図書室にいて、村長が来たからと言われてよ。挨拶だけなら一人でいいかと行ったらあの様だ。お前らがいなけりゃ、今頃どうなってたかわかんねぇよ。それに、お前一人で守るってわけじゃないんだろ? なら、決闘するなら全員とやらなきゃ意味がないし、やったところで、勝てる気もない」
「また謙遜を」
「事実だ。少なくとも楽な相手じゃねぇよ」
オセロの淡々とした言葉に、コロンが少し嬉しそうに笑ったのがわかった。
「わかった。だがそれで、お前は良いのか?」
「何でおれがでてくんだよ。関係ないだろ?」
「そうかわかった、なら」「嫌です」
ルルーの本音がコロンの言葉を打ち消した。
それに二人は振り向いて、それで初めてルルーがいたことに気が付いたみたいな驚きの表情を見せて、それが腹が立って、だからルルーは一歩踏み出して二人の間に立った。
「なんだいたのか」
「いましたよ。最初から」
そう返事すると、オセロは怒られたみたいな表情になった。少し声のトーンが強すぎた。押さえないと。
「ならばレイディ、今はなしてた通りだ。これから」
「それが嫌なんです」
コロンにもまた強く言ってしまった。もう、このまま抑えないでいこう。
「お二人のやり取りは把握してます。ですが、それに賛同しかねます」
「何故だ? 我々はオセロ負けず劣らない戦力がある。脱出に備えた準備も重ねてきて、道中のリスクは最小限だ。それに脱出後の生活も保証しよう」
「でもそこにはオセロはいなんですよね?」
「それは」
「そうだな。俺は残る。ここの住人だし、気に入ってるしな」
「だったら誰がオセロの面倒を見るんですか」
…………二人は、たっぷりと時間をとってから、前かがみにルルーの顔を覗き込んできた。その目は揃って真ん丸に見開かれている。
それに負けず、ルルーは続ける。
「今回、確かにオセロは暴走しました。一人だったら村に取り込まれてたかもしれません。そこから戻れたのは、私がいたからだと自負してます。私が飛び出して、殴られたからだと、言い張ります。私がいたから戻れたんです。それにオセロとはまだ契約が残っています。行きたい場所も、あります。それらをほおっておいて脱出なんて、できません」
嘘偽りのない気持ち、それを吐露してなお、ルルーは足りない気がした。
それが何か、考えてる最中にコロンは大笑い始めた。
いかにも愉快そうに、おかしそうに、目じりに涙を浮かべて、大きく口を開けて大きな声で、周囲が振り向くほどの笑いだった。
それを必死に噛み殺してから、コロンはルルーを見た。
「なるほど。これはまさしく完敗だったのだな」
そう言ってまだ笑うコロン、その顔は不覚にも少しかっこよく見えた。
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