エピローグ、そして旅立ち
あれやこれやとオセロがルルーと二人で海賊たちが残した物資を漁ってる内に夜が明けた。
そして朝日に照らされる海岸線の道にリュックが二つ、オセロの大きなのとルルーの小さいのが並んで置いてあった。
それを背に二人は海に向かって並んで座っていた。海からの風に当たりながら拾ってきた酒と茹で海老で早めの朝食を食べていた。
「食い終わったら出発な。最初の目的地は、フォーチュンリバーだな」
言ってオセロは海老の触角をかじる。
「あの」
「仕方ないだろ、川わたるにはあそこしかないんだし」
飲み込んで答える。
「いえそうじゃなくて、その、普通、海老の殻って残しませんか?」
「そうなのか?」
「そうですよ。硬いし」
「だが旨いぞ。硬いっていったってゴキブリの羽根程度だろ?」
これに、ルルーは顔をしかめて見せた。
その意味がオセロにはわからなかったが、まぁいいやと思い、海老の続きを食べる。
「そうだ。食べ終わったら包帯替えますね」
ルルーの発言に、オセロはきょとんとする。
「包帯?」
「ほら、傷に巻きましたよね? 寝てる間、大変だったんですよ?」
「あぁ、あの赤いやつか。なんか意味あるのか?」
「意味って、治療に、止血に決まってるじゃないですか」
「ふーん。これでも止まるのか」
「これでもって、じゃあ普段はどうやってたんです?」
「火で焼く」
答えたオセロに、ルルーは信じられないという顔を返した。
そうか、こんなんでも止血できるのかとオセロは肩を回すと肩が痛んだ。
何だよまだ塞がってないじゃないか。焼くのより手軽な分、効果も薄いんだろう。ま、乾けば塞がる。
オセロは勝手に納得した。
「そうだ、忘れない内に渡しときますね」
言ってルルーは、ナイフを差し出した。イルファが最後に振るい、夜にルルーが突きつけてきたやつだ。だが今度は鞘に納めてある。
それを受け取ろうとして、オセロは思い立った。
「お前はなんかナイフ持ってるか?」
「まさか」
ルルーは笑う。
「だったら一本、それ持ってろ」
「え、でも」
「薪作ったりなんか捌いたり、身を守るのにも使う。つーか無いと話にならん。無いならそれ持ってろ」
「でも……いいんですか?」
そう言ってルルーは、自分の首輪を触った。
流石のオセロでも、その首輪が奴隷の証なのは知っていた。そして奴隷に武器を持たせないのは常識だった。
だが、オセロにとってルルーは奴隷じゃなかった。
「……最初に言っとく。俺はお前を守る。お前は毎晩話を聞かせる。それは対等な取引だ。だから俺らに上下はない」
オセロは言って、ルルーを見る。気が付けば、二人は見つめ合っていた。
……変な感じだった。
「それじゃあ」
少し間があってから、ルルーはナイフを引っ込めて、スカートの前のポケットに入れた。
その時にルルーが微笑したのを、オセロは何となく見ていた。
「ぁ」
と、ルルーが小さく声を上げて、それから恐る恐るオセロを見返した。
その表情、ただならぬ雰囲気に、オセロは不安になる。
「……何だよ」
「いえ、確認ですけど。取り引きは、対等な立場での、取り引きですよね?」
「そう、だが」
「男女間の?」
「一応、お前女だよな?」
「女です。だから、これはその」
ルルーはわかりやすく息のを飲んだ。
「この関係は、結婚って……ことじゃあ?」
「……あ」
暫し二人は黙り合う。
「……違うな」
「ですよね」
「あぁ違う違う」
「違いますね」
「そうだ違うんだ」
二人は違う違う言いながら立ち上がると、細かな食べかすを海に払い落として、それぞれリュックを背負う。
「じゃあ出るか」
「はい」
そうして二人が見るは東、フォーチュンリバーへの道だった。
二人は同時に踏み出した。
「……違うからな」
「わかってます」
違う違うと言いながら、二人の旅は始まった。
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