次の敵の正体
満たしたグラスをオセロに渡し、タクヤンは向かいのソファーに座る。
とりあえず一口、鼻から抜ける豊潤な香りにタクヤンは酔う。美味い。
「さて、改めて条件を確認したい」
「いいぜ」
答えたオセロは腹に酒を滴して傷口に擦り付けている。わざわざ中央から持ってきた良い酒なのに、もったいない。
「で、だ。先ずはそっちから、支払いは後払いでボーガンを全部、矢筒なかったか?」
「あった」
「それもだ。お前の方はこいつらの正体を知りたい、と」
言いながらタクヤンは髭の男を顎で指す。
「正体よりか、居場所だな」
「それも全部まとめて教えてやるよ。それよりも信用してるからこその後払いだ。ちゃんと持ってこいよ?」
「そんな心配なら勝手に持ってけよ。家の近くの肥溜めって言やわかんだろ。お前、いっぺん落ちたことあんだし」
タクヤンはそこの悪臭を思い出す。
「お前ふざけんな。なんであんな所に隠してんだよ。それ回収し中央まで運ばなきゃなんないんだぞ」
「あそこが一番探されないんだよ。臭いし」
答えてオセロはグラスの中身を舐め、顔をしかめる。
「不味いな」
「味わって飲め。これ高いんだぞ。ったく。それでなんだ? 欲しいのはこいつらのボスだっけ?」
「まぁそうだな」
「よしわかった」
タクヤンはもったいつけた風に間を置いて、酒を舐める。
うん、美味い。
「最初に話すのは、お前を襲った連中な。つまりこいつらは、驚くなよ正体は中央の黒騎士団の元実動部隊だな」
「なんだお前の元同僚かよ」
「同僚じゃあない。が、裏切り者ではある。こいつらは倒すべきマフィアと癒着して、それがバレたらそのまんまマフィア入りした恥知らすどもだ。そこで素人相手に武器の扱い教えて偉ぶってやがんの。で、そのマフィアってのがあのヘッドエイクファミリー、お前が朝方行ったあそこだよ」
「なんだあいつらの仕返しかよ」
仕返しされるようなことしたのかよ、と訊きたかったが、訊くまでもないな、と思い黙っておいた。
「聞いた話だと、あいつらヘッドエイクファミリーってのは最近中央の方で競争に負けてて、縄張り無くしてピンチなんだと。で、追い詰められて起死回生でこのデフォルトランドに手を伸ばしたいらしい。その為に同盟を組んだのが、かのイルファ率いるシルバーファング海賊団だよ」
「……はぁ」
オセロのリアクションは弱かった。
「何だ知らないのかよ。ここらでもその噂で持ちきりだぜ? 奴らは北の双子島辺りを荒らし回ってた生粋の武闘派だ。そいつが最近になってジャンクパッチ海賊団、モジャ・ジャジャ海賊団と同盟組んで膨らんで、海軍でも手がつけられない規模になってんだ」
「知らねえよ海のことなんざ」
「あーそうかよ。だがそう言ってられるのも今のうちだ。あいつらやり過ぎて、獲物にされてた船がどこもビビってあそこの海路を避けるようになったもんだから今は干上がってんだ。そんで陸上に、このデフォルトランドに縄張りを移そうとしてるらしい。そこでヘッドエイクファミリーが出てくんだが、なんだか釣り合わねぇだろ?」
「合わねぇか?」
「合わねぇよ。同盟は基本平等、なのに一方は負け組でもう一方は海の覇者だぞ? その格差を埋めるにはよっぽどの何かがないと釣り合わない。それで考えられるのがあの、ルルーちゃんだ」
ピクリ、とオセロが反応したのをタクヤンは見逃さなかった。が、それを悟られないよう続ける。
「話は変わるが、アイワナのリンゴってわかるか?」
「リンゴしかわからん」
「三年ほど前の話だ。キッドって男がリンゴの中に麻薬を仕込む手口を思い付いた。例のルルーちゃんが言ってた幹に注入するやり方だ。当時は画期的と話題になってかなりの金と人が群がってたらしい。それで果樹園買って、麻薬リンゴを量産してたらしい」
「らしいって、なんだ噂か?」
「いや確かだ。市場で別れた後に本部に問い合わせた。魔法でな」
「あぁ」
「そんで、そのリンゴがいざ出荷されることになって、試しの一箱が税関に挑戦したんだが、これが見事、発見されて没収されてやんの。まぁもっとも、たまたま税関に犬並の嗅覚をもつコボルトがいたから見つかったんだがな」
歯を見せて笑ったタクヤンに、オセロは無反応だった。
「……それでキッドの目論みは失敗、各国税関は急いでコボルトを集め、キッドに残ったのは麻薬リンゴ果樹園と麻薬リンゴと負債だったわけだ」
一息入れて酒を舐めつつ、タクヤンはオセロを観察した。若干怒った様な表情は、集中して聞いてるからだろうと、タクヤンは判断した。
「この話には続きがある。資金と信用を失い、借金と借金取りを作ったキッドは、ほっといても勝手に死ぬだろうと本部は判断した。だから最後の取引にも特別注目してなかったんだが、それでなんと驚くことにキッドは生き残った。一度の取り引きで借金チャラにしやがったんだ。詳しくは本部も調べてないが、情報筋に依れば、そんときキッドが売っぱらったのは一人の少女だけだとか。恐らくそれがルルーちゃんだ」
タクヤンはまた一舐めする。一方でオセロのグラスは止まっていた。
「この話は情報規制に入っている。今現在、全ての税関にコボルトが居るわけでもなく、居ても数が少ないためこのアイワナのリンゴはまだ完璧に封じれてる訳じゃないからな。それにこのリンゴは、業界では密輸よりも狙った相手を知らぬ間に中毒にできるってことの方が前に出てて、最初の顛末を知ってるのはごく僅かだ。それを知ってたんだから当事者でまず間違いないだろう。問題は、何であんな少女がそんなに高価なのかってことだ」
「何でだ?」
「そりゃあ、俺が訊きたいぐらいだ」
「何だ使えね」
「うるさい。それにそっちが依頼じゃないだろ」
「まぁ、そうか」
「何にしろあの娘は凄い価値だ。賞金の額がそう言ってる」
「あ? 何だ、あいつに賞金かかってんのか」
「お前にだ。俺んとこにも何人も居場所やら訊かれたよ。何だよ襲われなかったか?」
言いつつ、口が滑った、とタクヤンは焦る。
だが、オセロは聞き流してるみたいだった。
「どうかな、いつもと一緒だったがな」
「お前は毎日がバイオレンスだもんな。それで話を戻すが、お前が暴れた後、ヘッドエイクファミリーのあいつは失脚、残存勢力はシルバーファング海賊団に吸収されたって話だから、まぁ探してんのはそこだな。港で今夜は決起集会らしい。そんで日の出と共にまた海に戻るらしいから、追い付けるのは今夜が最後だな」
「そうかわかった」
オセロは立ち上がると、酒を飲み干し、空のグラスを座っていたソファーに投げた。
「待てお前、行くのかよ」
「あぁ、その為に来たんだしな」
「いや、言っとくが相当な戦力だぞ。特にシルバーファングは負け組のマフィアでも出落ちの面白人間でもない」
「別に、やりあう訳じゃないしな」
オセロの一言に、今度はタクヤンがピクリと反応した。
「やっぱり目的は、ルルーちゃんか?」
「まーそうなるかな」
「……お前、あの娘の何を知ってるんだよ」
「何って」
タクヤンは平静を装いながらも思いっきり集中していた。
こういう何気ない感じの会話でこそ、重要な情報が集める。それを聞き逃さないのが一流だ。
「別に、あいつからついてきたんだよ」
オセロは、考えながらと言う感じに喋りだした。
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