青に追いつかれ
――記憶の旅を終えよう。君の望む世界はすぐそこにある。未来を恐れてはいけない。
三年前、僕はアオにそのセリフを与え、あの町に縛られて動けない彼女の世界を変えると約束した。
なのに僕は何も言わずに自分一人で逃げ出して、彼女をふり返りもしなかった。
アオは裏切られたと思っているのだろうか?僕のことを軽蔑しているだろうか?その答えを知るのがなによりも怖かった。
僕は唇を噛んで舞台から目をそらした。
「すいません、先帰ります」
芝居が終わるや否や、先輩に言い残して僕は席を立った。
「気分でも悪くなった? 大丈夫?」
心配してロビーまで追いかけてきた先輩の優しさが、この時ばかりは鬱陶しく迷惑に感じてしまう。八つ当たりしそうになるのを必死で押し止めて僕は笑顔を作った。
「用事あったの急に思い出しちゃって。今日は面白かったです。ありがとうございました」
「そっか」
先輩はホッとした顔で僕の肩をぽんと叩いた。
「よかったら今度うちの芝居も見に来てよ」
「あ、はい。それじゃ」
急いで去ろうと回れ右した僕の目に、アオの姿が飛び込んできた。
舞台衣装のまま必死な顔でこちらに走って来る。僕は反射的に出口のほうへ走り出していた。
「悠介! 待って!」
よく通る透きとおった声が僕の名を呼ぶ。外へ出ても、どこまでも追いかけて来る。チラッと振り返って見るとアオは裸足だった。
「馬鹿! おまえ、その足」
僕は立ち止まるしかなかった。こんなに走ったのは久しぶりで膝ががくがくする。呼吸が苦しい。
「馬鹿はどっちよ」
アオの顔は涙と汗でぐしゃぐしゃだった。寒空の下で、むき出しの肩や脚が震えている。
「……ごめん」
僕は上着を脱いでアオの傍に行って着せかけ、気付いた時には抱きしめていた。その華奢な体の懐かしい熱を感じた時、僕はどうしてこんなに長い間アオ無しでいられたんだろうと思った。
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