第34話 幼馴染には通じない
「……で? 本当は何があったのよ」
佳織の部屋でゴロゴロしながらスマホゲームをしていた俺に、部屋の主である佳織が真面目な顔で語り掛けてきた。
「……なんのこと?」
あれから寄り道せずに家に帰ってきたはいいが、週末の夕飯は佳織の家で食べることになっていた。
多少強引なおばさんの言葉に断ることができなかったんだが、まぁ俺としても食費が浮くので問題ないと言えば問題ない。
ついでにおばさんに料理を教えてもらうのもいいかなーなんて思いながら、俺は佳織の言葉をスルーしようとするが、さすがに幼馴染は手ごわいようで。
「誤魔化してもダメなんだからね。……ホントは何かあったんでしょ?」
掛けられた言葉に思わずスマホから佳織へと視線が移る。真剣な表情で俺を心配そうに見つめて来る佳織に、思わず頬を人差し指で掻いてしまう。
「……だから何もなかったって」
うーむ、すげー疑われてんな。ってかこのパターンはもう誤魔化しが効かないルートに入ってる気がするぞ。
過去に何度かあったシチュエーションを思い出す。佳織にはこういった嘘が通用しないことが多い。
「…………」
無言でじっと見つめて来る佳織に、俺はたまらず視線をスマホに戻す。
無心でスマホを操作するが、突き刺さる視線にほとんど集中できていない。
「やっぱり嘘ついてるじゃない。……何かあったんでしょ! さぁ話しなさい!」
こりゃ無理だなと思い始めたところで、佳織からの観念しなさいと言わんばかりの言葉が浴びせられる。
そして目の前で操作していたスマホがヒョイと取られたかと思うと、代わりに佳織の顔が目の前にあった。
「……うぬぅ」
いつものごとく俺にからかわれてばいいものを……、こういう時はホント鋭いな。
こうなると佳織はしつこい。
もう一度、昔あった出来事を思い出して、なぜ嘘をついているのがバレるのか考えるが……、やっぱり思いつかない。
「さぁ!」
さっきまで心配そうな表情だったような気がしたが、今は強気になってこっちに迫ってきている。
「はぁ……。しょうがないな……」
観念して大きなため息をつく。
「で、何があったの?」
俺に近づけていた顔を引っ込め、ドヤ顔を決める佳織に取られたスマホを返してもらう。
「……学校で俺が言った通りのことがあっただけだ」
「――えっ?」
なんでもない風を装って軽く返事をしてやると、またもやスマホゲームへと意識を戻す。
佳織が何のことか思い出そうとしているのか、素の表情から眉間にしわが寄っていくのが視界の端に映る。
「まぁ、六組の女子は男の俺のことが好きだったみたいだけどな」
一つだけ言ってなかったことをこの場で暴露すると、途端に佳織の目が見開かれてこっちを向いた。
で、結局女同士ということだから『友達』という関係に落ち着いたと説明してやる。
「……えぇ?」
さっきの『えっ?』と違って、今度は困惑が混じっているように思う。
「……圭一のことが好きだなんて、物好きがいたもんね」
なんだよそれ。曲がりなりにも俺を心配していたんではなかったのか。真面目にしつこく聞いてくるから答えてやったのに、なんだか肩透かしを食らった気分だ。
などと思っていたんだが、何かを思い出したのか佳織の顔がみるみる青褪めていく。
「――ちょ、ちょっと! そういえば学校で、ぬ、脱がされたとか言ってなかった!?」
そのまま勢いよく俺の両肩を掴んだかと思うと、何かを確かめるように両手を俺の頬から首へと移して確認しだした。
「ちょっ、くすぐったいからやめろ!」
佳織の両肩を押して引き剥がすが、実に残念なことに俺の腕の長さが短いのか、佳織の両手は俺の頬に残ったままだ。
だがそこで自分が何をやっていたのか思い出したのだろう。パッと手を離して距離を取ると、頬を赤らめて俯き加減になり。
「で、でも……、大丈夫だったの!?」
「……大丈夫だよ。何もなかったって言っただろ。……それに相手も女子だから」
むしろ間違っても何かが起こるはずがないのだ。
いやまぁ、裸に
「そ……、そう?」
それにしても今日の佳織はやけにしおらしいな。
なんか変なもんでも食ったんじゃねーか?
……いや、変なもん食ったかもしれないのは俺か。今日はなんだかずっと体がだるいし。
「本当に? ……大丈夫?」
ちょっと納得しかけた佳織だったが、またもや心配そうにこちらを覗き込んでくる。
「だから大丈夫だって言ってるだろ」
「ならいいんだけど……」
一応の納得を見せる佳織だったが、それでも俺のことが気になるのかちらちらと視線を送ってくる。
うーむ。いい加減に落ち着いて欲しいところだが。
……まぁ、佳織と言えど、心配してくれるのはありがたいことなんだろうけど。
『ご飯できたわよー』
そのとき、階下から夕飯ができたとおばさんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「はーい!」
佳織が部屋の外へと向かって大声で返事をすると、気分を入れ替えるようにして勢いよく立ち上がる。
「お腹空いたし、行こっか」
「あー、そうだな」
腹は減ってないが、皆と一緒に食べないという選択肢もないので、俺もスマホをポケットに突っ込むとダイニングへと移動するべく立ち上がる。
そして、なんとなく違和感を覚える下腹部を手で押さえながら、佳織と一緒に階下へと向かうのだった。
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