ラブホの女王とビッチちゃん

米洗ミノル

密室殺人事件


「どうしよう、私、殺されちゃうかも――」



「…………」



「ねえ、聞いてる? リナちゃんってば、ねえ!」


「あー、うんうん。あ、ちょっと待って。充電切れそう」

「もう、大事な話なんだから!」


「うん。……えっと、野球部のコに告られて、デートに行ったんでしょ」

「そうだけど、それ、もう何分前の話だと思ってるの!? ずっと聞いてなかったでしょ!」


「あー。2時間と、15分前かな、デートの話。……あのさ、美優みゆの話は長すぎるの。ノロケ話を延々と、電池が切れるまで聞かされる私の身にもなってくれる?」

「だって」


「バッテリーやばいから。熱持っちゃってるから。こんな蒸し暑い夜に、なんでこんな高熱物体をくっつけてなきゃいけないの。この恋愛脳女」

「ひどい!」


「顔面お花畑」

「ひどい!……ん? 酷いのかな? 顔がお花畑って」


「時期によるよね」

「時期」


「季節によるね」

「季節かぁ」


「春なら満開、キラッキラ。夏ならボーボー、秋は枯れてて、冬にはカッサカサ」

「乾燥はねぇ、いやだよねぇ」


「大敵だね。でも、ボーボーもイヤじゃない?」

「やだ! それ、絶対まゆ毛剃ってない人じゃない――って、そうじゃなくて」


「はいはい。デートの話だっけ」

「殺されそうって話!」


「で?」

「むう、また話さなきゃいけないの? 仕方ないなぁ。勇成ゆうせい君はね、こう、手首から肘にかけてのラインがセクシーでね」


「そういうのはいい」

「だって」


「そういうのはいいから。殺されそうなんでしょ? 早くそういう話して。お風呂入りたいから」

「お風呂にスマホ持って行けば?」


「防水じゃないし」

「ジップロック」


「そこまでしてノロケ話とか聞きたくないし」

「ノロケじゃないってば!」


「でもデートしたんでしょ? キスまでいった? あー、エッチしたいって話? ヤっちゃえヤっちゃえ。男なんて猿だから、部屋にでも誘って薄着になればすぐに押し倒してくれるよ。頑張れ頑張れ。じゃーね」

「人の恋愛を何だと思ってるの!」


「……もう、分かったから。だからさっさと話してってば。殺される? デートでなんかあったの?」

「あったの。えっと、二人で映画観て、ラブホに行って」


「ラブホ」

「ラブホテルだよ。略してラブホ。知らない?」


「知らないと言える女になりたい。……じゃなくって。へ、へえ。行ったんだラブホ。美優ってその、昨日まで、、だったよね」

「うん」


「あっさり行っちゃったんだ。……で?」

「そしたらね、えっと、鍵がかかってて」


「そりゃあホテルの部屋だからね」

「うん。で、ドアを開けたら」


「開けたら?」

「死体があったの――」


「…………」

「ねえ」


「………………」

「聞いてる? リナちゃんってば、寝ちゃったの?」


「寝れるかこんな状況で。え? 部屋に? 死体?」

「うん。男の人の、死体。こう、背中にナイフが刺さってて、布団にうつ伏せで」


「殺人事件、じゃんか」

「そうだね。通報を受けて、警察の人がやって来て」


「まじか。密室――だったんだよね」

「よく分かったね」


「まあ、ラブホの部屋には窓ないところもあるだろうし、あっても開けられないようになってそうだし。よっぽど古くなければオートロックだろうしね。まちがって鍵が開いてました――ってこともないでしょう」

「……うん、私たちの行ったラブホは、確かにそうだったけど。ラブホに詳しいねリナちゃん。ラブホマイスターだね」


「すっげぇイヤ、その称号」

「じゃあラブホの女王」


「二重三重にイヤだから、やめて」

「ドラマのタイトルっぽくもあるよね」


「だから二重三重にイヤだっつってんの。……もう、話を脱線させんな! さっさと本題進めてよ」

「リナちゃんのせいでしょ。……ええっと、そうそう。密室。で、警察が調べたんだけど、容疑者にはみんなアリバイがあって」


「容疑者って?」

「うん、その部屋にはね、大学生のサークル男女、4人で泊まってたらしいんだけど」


「嘘……そういうこともできるんだ」

「普通じゃない? 仲良ければそういうこともあるよ」


「普通じゃないよ。美優の貞操観念おかしいよ」

「ラブホの帝王に言われたくないなぁ」


「帝王言うな。私はどっちかって言うと『彼氏の家』派だから」

「二択なの?」


「……まあ、屋外派もいるかもね」

「ワイルドだねぇ」


「ワイルドだよね。ああもうだから! で、密室殺人事件はどうなったの?」

「うん、分かんない」


「分かんないって、あんた」

「だってそのあとシャワー浴びて、勇成君とエッチしたから」


「エッチ! どこで!?」

「え? だから、そのラブホで」


「その部屋で?」

「うん、その部屋で」


「し、死体の、その部屋でって、ちょっと」

「初めてだったけど、良かったよ。それに、勇成君、やっぱり体力とか凄くて」


「知らんわ! あんたのビッチトークとかどうでもいい!」

「えー、ひどい。ビッチじゃないし」


「ビッチでしょ! え、猟奇的すぎない? 殺人事件の第一発見者になっておいて、その現場でって……いやそもそも、現場の保存とか、そういうのは!?」

「ううん、よく分かんないや。勇成君とのベロチューに必死だったから」


「サイコ! もうサイコとしか言いようがない! なに? 事件現場を横目にベロチュー!? 変態!」

「だって、勇成君が積極的で」


「あんた、求められたら何でもしちゃうの!?」

「そんなことないよ。……うん、ないよ?」


「しそーだわ。あんた、なんでもヤっちゃいそうだわ。引くわー」

「引かないでよラブホのリナちゃん」


「よりラブホと私を密着させんな。なんか、ラブホが私の本拠地みたいになってるじゃん。ラブホに住んでるみたいじゃん」

「ラブホと書いてリナと読む」


「読むな。ルビに無理がある」

「もう、ラブホリナちゃんてば、話が進まないじゃない」


「おいこら、今なんて言った」

リナラブホちゃん」


「私には全部『リナ』に聞こえるけど、美優が高度なテクで私を馬鹿にしてるのは分かった」

「馬鹿になんて」


「……あーもういい。で、なんで殺されそうなわけ? 犯人に狙われてるの?」

「犯人? ううん、勇成君に」


「――ちょっと。彼に殺されそうってこと? どうして? 密室殺人が、どうしてそんなことになるのよ」

「密室殺人の犯人は捕まったよ」


「捕まったの?」

「うん、探偵さんが謎を解いて」


「探偵って――そんな急に」

「布団に仕掛けがあったんだって」


「それ、あんたが初体験したベッドでしょ? なに、そんな重要証拠物件の上でエッチして、そのうえ彼氏が、なに? あんたを殺そうと?」

「もう、まだ彼氏じゃないよ勇成君は。仲のいいお友だち」


「ビィッッッチ!」

「わっ。急に大声やめてよね」


「叫びたくもなるわ! ああ神さま! 私のクラスメイトはビッチの中のビッチでした!」

「うー、ひどい。私、本気で悩んでるのに」


「そりゃ、そんだけのことしてれば殺されても文句言えないわよ。向こうは彼氏のつもりじゃないの? 男心を弄んで」

「勇成君はセフレのつもりだって。これからもよろしくって」


「この外道カップル! けだもの!」

「リナちゃん、テンション高すぎ」


「誰のせいよ、誰の!……ああもう、ワケ分かんない。ちゃんと順番に話してよね。密室殺人事件から、そこにどう繋がるの?」

「え、順番に話してるよ、私」


「どこがよ。無茶苦茶じゃん。ラブホの密室で死体を発見して、警察呼んで、ベロチューして、シャワー浴びてエッチして」

「あ、勇成君は浴びなかった。風呂上がりの私に我慢できなくて」


「どっちでもいいわ! 本気でどっちでもいいわ! 勝手にさかってろ猿!」

「勇成君、猿顔っていうより馬顔だよ」


「勇成の顔とかどうでもいいし! どっちにしろケダモノだし!……えっと、事件現場でエッチして、そのベッドにトリックが仕掛けてあって、探偵が」

「ん? ベッドじゃないよ」


「は?」

「だから、仕掛けがあったのは布団だって。和室の」


「和室? 和室のラブホ?」

「もう、だからラブホから離れてってば」


「いやだって――」

「ラブホラブホ、ラブホばっかだよリナちゃん。……だから、殺人事件があったのは温泉旅館だって。言ったでしょ?」


「言ってない――っていうか、え? 温泉? 何なの、意味わかんない! どこ行ってたのよ、あんたらは」

「私たちはラブホだよ」


「ラブホじゃん!」

「だからそう言ってるでしょ? ラブホに入ったら、テレビでドラマやってて、男の人の死体があって」


「ちょっと」

「ん?」


「ドラマっつった?」

「うん。ドラマだよ」


「密室殺人の……?」

「うん。片平なぎさが出てた」


「2時間ドラマの女王……」

「リナちゃんの仲間だね」


「ラブホの女王じゃねぇっつってんだろ。……え? 温泉旅館で、探偵が出てくる……ドラマ?」

「うん。言ったでしょ」


「言ってない!」

「言ったよ。10分前くらいの会話を思い出してみて」


「そう、だっけ? ちょっと待って……」



「…………」

「…………」






「――言ってねぇじゃん!」

「あれ? そうだっけ」


「じゃあ殺されるって何なのよ!」

「だって」


「だって、なに!」

「勇成君、体力すごいから……私、殺されちゃう」


「ああそうね、殺されちゃうよね、セフレだもんね、ケダモノだもんね…………じゃねーよ! 死ね!!!!」

密室ラブホで?」

密室ラブホでな!!!!」



(終わり)

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