第19話 2人の部屋

 アール・デコの丸テーブルとそれに合わせた2人分の椅子は、前に何かの雑誌で見て良いなと思っていた物。まずこれで3つ。


 4つ目、天井についた照明だと明るすぎるので、光を抑えるカバー。それとは別で壁に間接照明をつけて5つ。


 未成年だし、さっぱり詳しくは無いのだが、やはりこういう時はという事で選んだワインは生まれ年の物。それとテーブルクロス。ここまでの合計が7。


 ナイフとフォークのセットは合わせて1カウントで済んだが、ワインを注ぐ為のグラスはやはり2つ必要だったので、これで10を超えた。


 トイレに何の仕切りも無いのはまずいのでカーテンはレールも込みで1回分。取り付けの必要はなく、頭に思い浮かべた位置に配置された。


 それと俺の制服。スーツの方が良かったかなとも思ったが、進藤紗里が制服なので、そっちに合わせる事にした。長らく身体もちゃんと洗って無かったので、タオルとシャンプーとボディーソープを使った。いっその事バスルームも用意しようかと思ったが、部屋が狭くなるし、湿気とかも考えると微妙だなと考えてやめた。トイレのタンクに溜まる水を活用出来る限りはしておこう。


 布団もどうかなと思ったので新しくダブルベッドを用意した。


 それと、これから起きる事の為に忘れちゃいけないアイテムを2つ。


 全部合わせて18ヶ国が滅んだ。あとは進藤紗里が目覚め次第、食べたい物を聞いて、それを頼む。準備は万端だ。


 進藤紗里はまだ眠っている。もしも首を吊った時の障害が脳に残っていれば、このまま目覚めない可能性もあるが、不思議とそんな事はあるはずが無いという確信がある。


 安らかな寝顔を眺めながら、この女の子は一体何者なんだろうかと今更ながら改めて不思議に思った。


 この世界にグリーンボックスが現れる前からその存在を知っていて、自分が設計したと豪語し、その証拠をオカルト雑誌に送りつける行動力。そして俺が巻き込まれる原因になった事を自認しつつ、それについて謝罪する潔さ。世界の危機だと言うのに、解決しようとしている警察に協力する気はなく、あまつさえ俺の命を助ける悪党ぶり。わざわざ俺とセックスしに自殺までしてグリーンボックスに入ってくる意味の分からなさ。


 どれ1つ取っても俺のような凡人とは比べ物にならない程の異常性だが、こうして目の前で眠っている姿は俺と同じく普通の高校生。何ら変哲のない女の子に見える。


 別にそういうのを信じている訳じゃないが、特別なオーラだとか、顔や身体に染み付いた奇妙さなどは無きに等しい。その不可思議さは、ひょっとすればグリーンボックスという存在以上かもしれない。


 何の前触れもなく、ふっ、と進藤紗里の目が開く。彼女の横になった視線と椅子に座ったままの俺の視線がねじれて交差した。


 起きた。のか? 瞼あけて眠る人も時々いるけど、でも目は確実に合ってる。声をかけようか。なんて?


「おはよう」


 正解は進藤紗里が先に口にした。俺も答え合わせする。


「あ、おはよう」


「瀬名君がベッドに運んでくれたの?」

「ああ、そう。うん。身体はなるべく触ってない」


 そんな事言う必要あるか? とも思ったが、進藤紗里の質問も、俺しかいないこの部屋で聞く必要あるか? という物でもあるので、これは引き分けだ。


「まだ眠い?」

 目をとろんとさせていたので、気を使って聞いてみると、

「うん、ちょっと。でも起きる」

 と言って、体を起こした。


 そもそも男女の会話に合理性なんて不必要なのだろう。

 だからこそ、これからの食事は楽しくなる予感がする。


「わ、どうしたのこの部屋。色々増えてる」

 部屋を見回して進藤紗里が言った。映像で公開した部屋とは全然違うし、まだこの様子を進藤紗里以外の誰にも見せていない。驚きは当然だ。

「いや、せっかく来てくれたから、出来る限りもてなそうと思って。他にも何か欲しい物があったら出すよ」


 ここまで言って、気を使い過ぎるのも逆に気持ち悪い、という考え方が頭を過ぎった。また下心があると思われるかもしれない。いや実際無い訳ではないが、単純に、ほぼ1ヶ月ぶりに面と向かって人と話す事に対して臆病になっている部分もある。


「ありがとう。でもその前にトイレいい?」

「あ、ごめん。どうぞどうぞ。そのカーテンめくって入って」


 まだドキドキしている俺とは違って、進藤紗里は凄く落ち着いていた。すたすたと歩いてカーテンで仕切ったトイレに入った。その瞬間、あ!


 まずい、トイレットペーパーがない。俺1人の時は、水で洗ってから自然乾燥だったのでまあ必要無かったが、女の子はそういう訳にはいかないだろう。ましてやこの部屋には俺がいる。非常にまずい。よし。


 トイレットペーパー。滅んだ国19個目はインド。選んだ理由は特に無い。人口13億人が8ロールに変わった。


「進藤さん、紙ここに置いておくから」

 声をかけてカーテンの端にトイレットペーパーを置いておく。

「わざわざいいのに」


 紳士たるもの女の子に恥をかかせる訳にはいかない。例え世界人口の約6分の1を犠牲にしてでもだ。


「さて」

 トイレから出てきた進藤紗里が、落ち着かない俺を見て言い放った。

「じゃあそろそろ、しようか」


 いやあの、ちょっと早くないですか?

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