第5話 偶発性神秘主義

「本物の瀬名さんですか!? 動画の奴ってマジですか!?」

「瀬名。お前もう名前も住所も特定されてるからな。人生終わり。おつかれ」

「今すぐ死ね。モルディブに新婚旅行に行ってた俺の妹をお前は殺したんだぞ」

「私、日本政府の者ですが貴方の死刑が決定されました。自首しなさい」

「とりあえず日本だけは絶対押すなよ。そんで北朝鮮早く押せ。あと韓国な」

「良く出来た動画だけど皆騙されてないですよ。釣り針がバレバレ」

「欲しい物って何でも手に入るんですか? だったらドリルか何かを手に入れて部屋の壁を壊して脱出って出来ないんですか?」


 知り合いの誰かが俺の電話番号を掲示板なんかで流出させたらしい。小林との通話を切ってから、こんな電話がひっきりなしだ。


 大抵は、嘘、脅迫、罵声、無責任な指示、興味本位の突撃……などなど。人間の醜悪さを煮詰めたような内容だったが、中には建設的な意見も多少はあった。中でも、何らかの道具を使って壁を壊すというアイデアは多くの人が得意げに俺に教えた。


 俺自身もそれは考えた。しかし、どんな道具を使えばこの壁が壊せるかが分からない。俺が内装工事業者の人間だったら、そういう知識や技術もあるんだろうが、生憎とただの高校生だ。頭の中にぼんやりと、トゲトゲのついた円盤の機械とか、古いアニメのロボットについている円錐状のドリルみたいなイメージは湧くが、それが何ていう名称で、どのようにして使って、果たしてこの壁を壊せるのかが分からない。


 そしてそれらの道具を得るにも、国を1つ代償として差し出さなければならない。そんな不確実な物に、大量の命は捧げられない。


 そもそも、こんな部屋を用意するような奴が、そんな簡単なアイデアで脱出出来るようにするだろうか。もっと言えば、この部屋がどこにあるかも分からないのだ。もし宇宙とか深海にあったら、穴が空いた瞬間俺は終わりだ。


 付随する疑問もある。まず空気。この部屋が完全に密閉されていれば、俺はとっくに酸素を使い果たして死んでいる。しかし見える限りの空気穴は無い。それに電波。スマホ自体のアンテナは常に立っていて、通信環境は良好だが何故だ。そして水洗トイレ。タンクに注がれる水の味は家で飲む水道水と何ら変わらないし、用を足した後に水を流せば、トイレの奥に吸い込まれる。一体この水はどこから来てどこへ行くんだ?


 だからこそ、まず必要なのは知恵だ。ネットで調べる以上に、信頼出来る頭の良い人の意見が聞きたい。だから動画を上げた。


 だが、俺の思った以上に性善説は通じなかったらしい。というより、ネットの動画に反応して直接電話してくるような奴に頭の良い奴はおらず、俺の求める人材はこんな動画1つに構っている暇はないという図か。


 スマホの設定で、知っている番号以外からの着信を拒否する。とりあえず片っ端から電話を取ってても埒があかない。動画につけられたコメントの中から、冷静かつ理知的で、この状況を信じてくれて、協力的な人間を探そう。そんな奴がいるかは分からないが。


 その時、再び小林から着信があった。


「あ、やっと繋がった。もしもし?」

 ついさっきまで罵詈雑言に肩まで浸かっていたせいか、知った声に少し安心する。

「あのさ、瀬名と話したいっていう人が来てて、なんか雑誌? の編集者だかライターだか良く分かんないんだけど、その部屋について知ってるって……」


「何?」思わず息を飲み込む。

「とりあえず代わっていい?」

「ああ、頼む」


「もしもし、はじめまして。私は月刊アズラというオカルト雑誌の編集をしております。遠山という者です」

 その男の声は、電話越しでも良く通った。少なくとも俺を罵りに来た訳ではないようだ。

「オカルト雑誌……? いやそれよりも、この部屋について知ってるって本当ですか?」

「ええ。世の中の不思議、具体的に言うと宇宙人だとか呪いだとか、そういうのを扱っている雑誌です。知っているとは言っても、読者からの投稿でその『グリーンボックス』の事が書かれていた物がありまして」


 グリーンボックス。初めて聞いた言葉だったが、この部屋を表すにはもってこいのように思えた。全てが緑の正六面体。外側から見ればまさに緑箱だ。

 しかしそんな事よりも、まず確かめなければならない事がある。


「お願いします。ここから出る方法を教えてください」

 オカルト雑誌だろうが宇宙人だろうが何でもいい。この人には失礼だが、藁にも縋る思いだ。

「それは……すいません、知らないんです。というより、投稿した方の取材に、瀬名さんの通う高校に来ていた時たまたま動画をアップロードされたのを見た所でして」


 ちょっと話が分からなくなってきた。

「えっと、そのアズラという雑誌に読者の投稿があったんですよね?」

「はい。1ヶ月前の事です」

「それが何で僕の高校の取材に?」

「その投稿をした人物が、あなたの通う高校にいたんです。私もこれは偶然の一致とは思えません。それで、瀬名さんのご友人である小林さんとコンタクトを取って、こうして電話をさせて頂きました」

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