第4話 炎上

「昨日写真をアップロードしたんですが、誰も信じてくれないので動画にします。えっと、ここは僕が閉じ込められている部屋で……」


 ぐるりと部屋の中を映して回る。


「見ての通り出口はありません。照明と、このトイレと、あのケーブルと、あとこれ乾パンは全部この世界地図から出てきました。あ、いや、出てきたっていうか、この世界地図のボタンを押すと何でも手に入るみたいです」


 一部の地域が赤くなった世界地図を、じっくりと映す。


 ジンバブエ、ボツアナ、ナウル、ツバル、モルディブ、パラオ。


 今は赤く塗られたそれらの国には、もう人はいないのだろう。


「最初のジンバブエとボツアナはほとんどランダムに押したようなもんですが、残り4つは僕が選んで押しました。なるべく小さくて、隣接してない島を選びました。ニュースにもなってるとは思いますが、それらの国は滅びました」


 俺は吹っ切れていた。アナウンサーのように淡々と事実を伝えるように努める。


「ここに書いてある通り、当たりを引かないと出られないみたいなんですけど、200以上もあるんで確率は低いです。だからどうにかして僕を助けてください」


 それから俺は、少し間を置いた。撮影を始める前に覚悟は決めたはずだが、いざ口にするとなると躊躇は生まれる。


「……これから1時間後に、このサンマリノという島国のボタンを押します。この動画の投稿時間と照らし合わせて、僕の言っている事が事実だという事が分かるはずです。すみません。本当に申し訳ないと思ってます。でも死にたくありません。これでも信じてもらえなかったら、次はもう少し大きい国を予告して押します。すいません」


 スマホの画面をタップし、撮影を終了する。


「これじゃ完全にテロリストだな」


 そう自嘲しながら、俺は動画をSNSにアップロードする。


 何も返事がなく、30分が経った。まあ俺の投稿を見ているのなんて、中学高校の友達くらいな訳で、そいつらは今多分授業中だ。


 まあ、仕方ない。いくら口で説明したって分かってもらえないのだから、ひたすら実演していくしかない。世界の半分を滅ぼす頃には流石に誰かに信用してもらえるだろう。


 着信だ。小林だ。


「動画見たけど、何やってんのお前」

 声の調子は半笑いだ。まあ逆の立場なら俺もこんな感じだったと思う。


「いや、ガチなんだよこれ。助けてくれ」


「つか意味分かんないんだけど。テレビとか昨日からずっとこのニュースだぞ。え? これお前がやってんの?」


 残念ながらそうみたいだ。


「ちょっと拡散するの手伝ってくれ。警察とか全然信じてくれないから、こうするしかない」

「いやいいけど、それ俺捕まらない? ていうかお前捕まらない?」


 ああ、そうだ。やばい。何とかここから助かったとしても、俺は自分1人の命と引き換えに国を6つも滅ぼした犯罪者だ。ちょっと待て本当に犯罪者か? 正当防衛とか緊急避難とかそういうのが適用されるんじゃないのか?


「とにかく外に出ないと気が狂いそうだ。頼む」

「うーん、分かった。とりあえず友達に広めてみるわ」


 そして通話を切った。その直後から、ポツポツと俺の上げた動画がシェアされていった。おそらく同じ学校の奴なんだろうが、知らない奴から「マジなら今すぐ死ね」というありがたい返事も頂いた。


 乾パンをぽりぽりと食べながら、俺はニュースをチェックする。


 滅ぼした国の中でも、モルディブとパラオは俺が思っていた以上に影響がでかかったようだ。というのも、俺は知らなかったが、その2つは世界各国の観光客が好んで利用する南の島で、日本のある車会社の社長もたまたまその時島を訪れていて音信不通になったらしい。やはり本人の国籍は関係なく、俺が押した国に滞在しているなら問答無用で死ぬらしい。


 今更になって俺の選択肢は間違っていた気がしてきたが、それはトイレがあって、水が飲めて、何でもいいから物を食べられる状況になってから初めて考えられる事だ。


 それらが欠け、命の危機に瀕した時、人間は人間じゃいられなくなる。


 そして約束の時間を迎えた。


「えー、では今からさっきの動画で予告した通り、サンマリノのボタンを押したいと思います。欲しい物は、布団です」


 カチッ。


 そして後ろを振り返ると、布団一式が揃っていた。敷布団だけではなく、毛布、掛け布団、枕の一式だ。確かに頭に思い浮かべていたのはこのセットだったが、電源とケーブルの例から言ってどれか1つだと思っていたから意外だった。


「こんな感じで、僕の欲しい物が国1つと引き換えに手に入るみたいです。サンマリノの皆さんすいません」


 床に直接寝ると身体中が痛くなる。俺がこの部屋で学んだ事の1つだ。


「これでも信じてもらえなければ、また動画あげます。ありがとうございました」


 そして動画の撮影を終える。


 はぁ、疲れた。動画をまたSNSにアップロードし、俺はたった今手に入れたばかりの布団を敷いた。そして枕を目がけてうつぶせに倒れこみ、目を瞑る。眠る気は無かったが、気づくと眠っていた。そんな俺を起こしたのはまた小林からの着信だ。


「おい瀬名!」

 起き抜けの大声に目を擦りながら、俺は答える。

「何だようるせえな」

「お前今大変な事になってんぞ!」


 知ってるよ。というか昨日からそれをずっと言ってる。


「お前の上げた動画、今ネットでめっちゃ拡散されてるんだぞ! 炎上だよ炎上!」

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